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HOLY WORLD  作者: (仮)
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010 天津神②

 普段の軍務で滅多に着ることのない黒の礼服。

 胸に刻まれた海軍の錨のシンボルに、航空隊所属を表す翼を模った徽章。


 横須賀海軍本部の近くの公園でベンチに腰を下ろし、隼翔は不機嫌そうに煙草を吸っていた。


「なんだ。早かったじゃないか、ハヤト」

 頭の上から声がした。

 隼翔は舌打ちし、不機嫌を隠そうともせず声の主を睨みつけた。

「…早かったな、じゃねえぞ。てめー。いま何時だと思ってる」

「マル キュウ ゴ ハチ」

 朝の九時五十八分。

 淀むことなく腕時計の時間を読み上げる瑞岐。

 隼翔の前に現れた彼もまた、見慣れぬ礼服に身を包んでいた。

「ふざけんな!お前昨日、九時集合っつってたろーが!」

 煙草を乱暴に足で踏み消しながら、涼し気な顔をして立っている瑞岐に怒鳴りつける。

「ああ、どうせハヤトは遅れるだろうから、一時間早い時間を伝えといた」

「はあ?!」

「だってお前、総員起こしに間に合ったことないじゃないか」

 瑞岐は朝の点呼で隼翔を見た記憶がない。

 他の乗員から「高山准尉、今日もいません!」と言われるくらいには。

「業務に差し支えちゃいねーんだから問題ないだろ」

「…………お前、本当に、なんで軍人になれたんだ?」

 訓練生時代をどう過ごしていたのか、謎である。


「ちなみに今日は何時に着いたんだ」

「九時五十分」

「…やっぱり時間通りだったら遅れてるじゃないか!」



 隼翔と瑞岐は揃って海軍本部へ赴いた。

 並んで歩くと、実に対照的な二人の姿に、通行人の視線を誘う。

 筋肉質で大柄な強面の男と、それを従える育ちの良さそうな小柄な少年。

 大柄な男は、見た目通りの乱暴な言葉遣いで少年に声をかける。

「しかしなんでミズキだけじゃなく、オレまで赤城のオッサンに呼び出されんだ」

「素行が悪いから注意されるんじゃないか。…礼服も気崩すな」

 いい大人が、少年に叱責されているのを聞いて、通行人はまた振り返る。


「今日は赤城閣下は都合が合わなくて、いらしてないみたいだ。

 代わりに班目蒼流中佐が対応してくださる」

「マダラメ ソウリュウ?」

「聞いたことないか?イケメンでインテリなエリート軍人とかで中高年の女性に人気があるらしくて、よくワイドショーで特集されてるらしい」

「テレビとか見れねーしな。最近はほとんど海だったし」

 軍務中は、テレビはもとよりパソコンやタブレットなど通信機器の持ち込みは厳禁だ。

「つか、ミズキもワイドショーとか興味あんだな」

「いや僕じゃなくて、船務科の三人が詳しくて色々教えてくれる」

 常に汗だくな春日と、挙動不審な橿原と、超痩せ型の出雲。

「ああ、あのオタク三人」

「失礼な奴だな。奇人変人だけど良い奴らだぞ」

「お前の言い方も大概だな」



 そうこうしてるうちに、呼ばれた会議室に着いた。

 少し緊張した面持ちで、瑞岐はドアをノックする。中から落ち着いた男性の声がした。

「はい」


「お呼びに預かりました、成瀬瑞岐少佐と、高山隼翔准尉です」

「ああ、入り給え」


 両開きの重厚なドアをゆっくり開ける。

 部屋には二人掛けのソファがローテーブルを挟んで二つ並んでいた。

 入室を促した声の主は、奥側のソファに腰かけていて、ドアが開いた瞬間に目に入った。


「初めまして。私が班目だ」


 朝の爽やかな陽光が照らしだした、とても短いミニスカートのセーラー服を纏った三十代半ばと見られる男性。


 脳の処理が始まる前に、二人は扉を閉めた。


 扉を背にして、隼翔と瑞岐は先ほどの光景を考察する。

「…なあ、瑞岐。今、海軍本部に居るべきじゃねえもんが見えた気がするんだが」

「…寝ぼけて物の怪の類でも見たんじゃないか?」

 二人が小声で小会議をしていると、扉の向こうから物の怪が喋った。

「早く入りたまえ。成瀬少佐、高山准尉」

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