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HOLY WORLD  作者: (仮)
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009 天津神①

 瑞岐は、自身の魔力で烏を航空機へと変化させる。


 幼い頃の記憶なので瑞岐も詳細には思い出せないのだが、ある日、自宅の庭から見上げた澄みわたる青い空に、飛ぶ鳥とジェット飛行機の影を見たのだった。

 翼を広げ、遮る物のない大空を舞う、二つの影が重なって見えた。

 その光景が今も鮮明に脳裏に焼きついている。

 自身の能力の根幹を成す出来事だったのではないだろうか。

 その日から少し後、庭に集まって来た雀の群れの一羽をオモチャの飛行機に変えて見せ、家族を大いに驚かせた。

 やがて自分の能力を求めて、偉い大人がたくさん自宅に訪れるようになり、その人たちと両親が相談して、瑞岐は自宅から遠く離れた横須賀で暮らす事が決まった。

 物心もつかない歳の瑞岐には、それがどういうことなのか理解できなかったけれど。


 横須賀で暮らすようになってから、様々な飛行機を見せられた。

 軍が保有する機体は勿論、民間企業の旅客機から、過去使われていた物の写真や映像。

 瑞岐が一番心惹かれたのが、第二次大戦中使用されていた零式艦上戦闘機・零戦だった。

 腹に銃を抱え、降着用の足を出した零戦は、三つの足の鳥に見えた。


「三つ足の鳥か。まるで神話にある八咫烏だな。三つの足を持ったカラスで、神の導き手だ」


 今より少し若い赤城閣下がそう教えてくれたのだった。

 神話に描かれた絵の三つ足の烏と、古ぼけたモノクロ写真の零戦が瑞岐の心で重なった。


 これより彼は烏を戦闘機へと変え、攻撃する魔法を編み出すことになった。





 この日、日本国海軍省大臣・赤城は、約二か月ぶりに横須賀海軍本部に訪れていた。


 大臣に就任してからというもの、一年のほとんどを霞ヶ関で過ごす日々だった。

 懐かしい潮風香る街に来る度、一軍人だった頃を思い出し、感慨に耽ってしまう。


 赤城は、部下にまとめさせた研究の成果に目を通していた。

 黒髪と白髪が半々になってきた頭を撫でつけると、椅子に腰かけ、書類を机に置いた。

「もう実戦で、ここまでの成果を出せるようになったか」

 満足そうに笑う。

「『龍彦』も、この歳の時分には、まだ訓練生だったからな。秋津にも自慢ができるな」

 盟友である陸軍大臣の顔を想像し、小さく声を出して笑う。

「私が手配したパイロットも、よくやってくれているようだ」

 書類の中から、先日、駆逐艦・天津神が捕らえた空母密輸事件のレポートを取り出し、一番上のページに持ってきた。


「閣下」

 赤城の言葉を黙って聞いていた部下が口を開く。

「この航空母艦密輸の件、このまま通常の海賊への処分で片付けるべきではないかと」

 葉巻に火を点け、赤城は部下を見る。

 部下の名は班目蒼流、赤城子飼いのエリートで、後々艦隊司令部の参謀とするべく鍛えてきた。

 

 班目は眼鏡の中心を指で持ち上げ、位置を整える。

「中国大陸に向けての兵器の密輸、今年見つかった分だけで五件。このうち三件を取り逃し、我が軍の死傷者まで出ています。

 密輸している物品は主に航空機や空母、潜水艦、駆逐艦、揚陸艦……」

「まるで、海洋国家との戦争に備えているようだな」

 口元は笑っているが、赤城の瞳の光は鋭く鋭利だ。

「烏使いが仕留め接収した航空母艦…含む四隻の生産国、乗員の国籍を調べました。

 乗員はほとんどが雇われた者で、主に中南米人、そして中国訛りのある英語を喋るアジア人」

 班目は、赤城の手元にある資料の内容を暗唱する。

「艦艇は戦場から回収したと思われるスクラップと米軍艦のコピー部位からなる継ぎ接ぎ。

 中米を根城とする反社会組織の手口です。そのような輩と取引をする人間が、大陸の中枢にいる」

 班目は、大陸で芽吹く争いの火元を指摘する。

 これは班目だけではなく、政治と軍に携わる者たちが肌で感じていることだった。


「ふん、奴ら薬漬けにされて国土を切り取られた過去を忘れたらしい。

 班目中佐。これは北京に住む私の『知人』の話なんだがね。北京は『お家騒動』に揺れているそうだぞ。

 アジア内での『商売』を企む馬鹿共が、金に物を言わせて成り上がってきた」


 赤城は元より日本政府も軍も、また中国の秩序を担う人間たちも、争いは望んでいない。

 強大な秩序で抑え込んでいたならず者が、今世の混乱に乗じて巨大な力を持ち始めた。



 混沌を、望む者がいる。



「我々日本は、東南アジアの治安維持に軍を動かしている。つまり『商売』の邪魔であると」


 冗談ではない。

 日中開戦など絶対に避けなければならない。

 この国を護る。

 その為になら赤城は手段を選ばない。


 赤城は灰皿に葉巻を置き、班目に向き直る。

「班目中佐。例の件、進捗はどうだ?」

「順調に各所手続きも完了し、再来週の式典にて一般公開となります。実戦での使用はまだなんとも」

 事務手続きの手際の良さから、班目を自分の補佐にすべきかと幾度か悩んだ赤城である。

 だが、この若い参謀にはさせねばならぬことがある。


「瑞岐を動かす」

 霞ヶ関に戻る前に、仕事が一つできた。

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