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「なあカノン」

「何? ヤト」

 テーブルに向かい合って座り、食事をする2人。


「何の魔力も持たない一般人がアンクルの動きを一瞬でも止めることはできるか?」

 男はテーブルに並べられた食事を、表情を変えることなく食べている。


「もーヤトそんなことも忘れちゃったの? そんなこと学園の生徒なら誰でも知ってるよ」

 並べられているのは、オムライス。

 ふっくらとしたそれは、本当においしそうだ。


「そんなことは無理だよ。魔力を持ってない一般の人がアンクルに与える影響はまったくもって皆無。たとえどんなに筋肉隆々の人が掴みかかったとしても、一瞬たりとも止まらない」

「ああ、そうだったな」

 ヤトと呼ばれる男はそこで少し笑ったように見えた。


「今日風雅ふうがに会ってきた」

「どうだった? 最近フーちゃんすごく変わったの」

「強くなってたよ、皇帝に『男子三日会わざれば括目して見よ』って言われて馬鹿にしてたが、別人のように強くなってた」

 それを聞いてカノンと呼ばれる女は嬉しそうに微笑む。


「なんたってヤトの子だもんね」

「ああ、蕾が開くには早かったみたいだが、やっと見つけたみたいだ自分の居場所を。あいつはそのうち俺のところまで上ってくる、いや俺以上の高みにたどり着くだろう」

「なんだか嬉しそうだね」

 まったく表情を変えないヤトに向かって、カノンはそう言う。


「楽しみだ。まあそれまでは今の場所に居座らせてもらう。悪いがもう少し待っててくれ」 

「うん、待ってるよ。いつまでだって待ってる」

 そう言ってカノンは満面の笑みを浮かべた。



 ◆◇◆



 あれから俺とアザカは2人で電車に揺られて家に戻ってきた。

 さすがにぼろぼろの服のまま電車に乗るのはまずかったので、あまり怪我をしていなかった俺が適当な店で急いで服を買った。

 それでも顔に傷を負った永久之は電車の中で少し訝しげな顔で見られた。


 帰ってすぐ、俺はとりあえず風呂に入った。

 服を脱ぐとそこらへん傷だらけで、赤く腫れあがっていた。

 幸いなことに母は家に居なかったので、傷について根掘り葉掘り聞かれるという心配は杞憂に終わった。


 自室に戻り、窓を開け放ちベッドに倒れこむ。

 ジンジンと痛む体を風がそっとなでる。


「あー……いてぇ」

 きっとアザカはもっと痛いに違いない。


 結局せっかく見つけたのに父をたおすこともできなかったし、一矢報いることもできなかった。

 それに永遠の愛とやらもまだ信じることができない。


 でも今回のことで1つ気が付いたことがある。

 それは戦うことよりも、彼女を、アザカを失うことのほうが怖いということだ。


「フーガくーん、お昼ご飯できたから食べに来てー」


 これがどういう気持ちかなんてやっぱり全然分からない。

 これが恋だと言われれば信じるだろうし、そうじゃないといわれればそれもまた信じるだろう。

 でも確かなのは、俺はアザカの隣にいたい、そう思っているということだ。


「ああ、すぐ行くよ」

 この日、初めて食べたアザカの作ったご飯は、やっぱりとてつもなく甘かった。






 明けない夜はないという、やまない雨もないという。

 だが散らない花がなければ、壊れないモノもない。

 人の命もいつか尽き、愛もいずれは終わりを迎える。

 しかしそんな儚いものだからこそ、人はそれを愛おしみ、愛してやまないのかもしれない。


 こうして少年の心の中に広がる凍りきった大地は、ゆっくりと解かされ。

 少女という花が少しずつ根付き、やがて愛という名の大輪の花を咲かせることだろう。

 そうやっていつか2人も、永遠の愛に溺れる。


                   ~fin~


カノン~その花の名を叫ぶとき~これにて完結です。

ここまでお付き合いいただいた方、そしてお気に入りにまで入れてくださった方、本当にありがとうございました。

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