表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡き妻の指輪で異世界へ――Lv0の四十代、精霊に愛されながら妻の足跡を追う  作者: 翠碧ノ人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/15

第15話 レベル0

 冒険者組合の中は、修司が想像していたより明るかった。


 正面には長い受付台があり、壁一面に依頼書が貼られている。右手は酒場になっているらしく、昼間から木杯を傾ける者もいた。


 入った瞬間、いくつかの視線が修司とリゼへ向いた。


 すぐに興味を失う者。


 外套の奥を探るようにリゼを見る者。


 修司の服やリュックへ目を留める者。


「見られてるな」


「反応するな」


 リゼは小声で言い、空いている受付へ進んだ。


 受付の女性は二十歳前後に見えた。頭から茶色い獣耳が出ている。


 本物かどうか見てしまい、目が合った。


「何か?」


「いや、すみません」


「こちらでは珍しい種族なのだ」


 リゼがすかさず補う。


 女性は納得したように耳を一度動かした。


 やはり本物だった。


「新規登録ですね。お名前を」


「シュウ」


「家名は?」


「ない」


 神谷と名乗るべきか迷ったが、リゼとの打ち合わせ通りに答えた。


 こちらで結衣が別の名を使っていたのなら、自分もまずは修司ではなくシュウでいい。


 受付の女性が羊皮紙へ書き込む。


「出身地は」


「海の向こう」


「国名を伺っても?」


「……言葉が通じる国名ではないと思う」


 嘘ではない。


 受付の女性は少し首を傾げたが、リゼが仮入街証を見せると、それ以上は聞かなかった。


「では、鑑定を行います。こちらへ手を置いてください」


 受付台の奥から、透明な板が運ばれてきた。


 横幅は三十センチほど。石にも硝子にも見える。


 銀色の台座には、見たことのない文字が刻まれていた。


「痛くない?」


「通常は」


「通常は?」


「手を置くだけです」


 笑顔で言い直される。


 隣では、リゼがわずかに視線を逸らした。


 修司は嫌な予感を覚えながら、右手を透明な板へ乗せた。


 冷たい。


 板の奥に、白い光が灯る。


 細い線が走り、文字らしきものを形作っていく。


「読めない」


「鑑定板の文字は、登録者にも意味が届くはずですが」


 言われた途端、不思議と内容が頭へ入ってきた。


 名前――シュウ。


 種族――不明、人間。


 位階――零。


 職業――なし。


 魔力――零。


 技能――なし。


「……何もないな」


 修司は率直に感想を口にした。


 受付の女性は答えない。


 もう一度、板へ顔を近づけている。


「位階零?」


 近くにいた男が、表示を覗き込んだ。


「赤ん坊でも一はあるぞ」


 酒場の方から笑いが起きる。


「しかも職なし、魔力なし、技能なしだ。どうやって森を越えてきた?」


「女に背負ってもらったんじゃないか」


 別の笑い声が重なる。


 修司は自分の腕を見た。


 確かに剣は使えない。


 魔法も知らない。


 この世界の基準で何もないと言われれば、その通りかもしれなかった。


「異世界人だから、登録されてないだけじゃないか?」


「声が大きい」


 リゼに足を踏まれた。


「痛っ」


「変わった土地という意味だ」


 冷たい声で周囲へ言い直し、リゼは鑑定板へ目を向ける。


 笑ってはいなかった。


「もう一度測れ」


「ですが」


「鑑定板の不調かもしれない」


 受付の女性も同じことを考えていたらしい。


 台座を調べ、奥から別の職員を呼んだ。


 灰色の髪をした初老の男性が現れ、板の側面へ細い道具を差し込む。


「板に異常はない。もう一度、手を」


 修司は言われた通りにした。


 白い光。


 同じ文字。


 名前――シュウ。


 種族――不明、人間。


 位階――零。


 職業――なし。


 魔力――零。


 技能――なし。


 ただし今度は、最後に一瞬だけ板全体が黒く染まった。


 光を吸い込んだような黒だった。


 次の瞬間には元へ戻り、何事もなかったように透明になる。


「今のは?」


 修司が聞く。


 初老の職員は答えず、受付の女性へ目配せした。


「登録は可能だ。最低位の白札を発行しろ」


「はい」


「ちょっと待て」


 リゼが低い声で呼び止める。


「何が出た」


「表示通りだ」


「なら、なぜ顔色が変わった」


 職員はリゼの外套の奥を見た。


 互いに、相手がただ者ではないと探っている。


 やがて男は、周囲へ聞こえない声で言った。


「魔力零なら、鑑定板は光らない」


「では」


「光らせるだけの力が流れ込んだ。だが測定値は零のままだ」


「測れなかった?」


「分からん」


 男は修司を見る。


「本当に魔力を持たないのか。それとも、この板が力として認識できない何かを持っているのか」


 修司には、どちらでも大差なかった。


 魔法を使う方法も知らず、戦えば素人だ。


「結局、今の俺に何ができる?」


「白札で受けられる依頼だけだ。採取、運搬、街中の手伝い。討伐は勧めん」


「なら、それでいい」


 受付の女性が、白い金属札を差し出した。


 名前と、零の数字だけが刻まれている。


 修司はそれを受け取り、首へかけた。


 酒場からは、まだ小さな笑い声が聞こえていた。


 リゼだけは鑑定板を見つめ、何かを考えている。


「行こう」


 修司が声をかけると、彼女はようやく視線を外した。


「気にするな。俺の世界では、レベルなんてなくても生きていけた」


「ここは、お前の世界ではない」


「知ってる。でも、数字が俺の全部でもないだろ」


 修司は白札を服の下へ入れた。


 零。


 何も持たない数字。


 それが弱さなのか、測れないという意味なのか。


 この時の修司は、まだ深く考えていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ