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第十二話

八将軍の悍ましい残骸を乗り越え、荒い息を吐く七人の戦士たち。 彼らはその圧倒的な死の気配を前に、いよいよ戦いの最後の時が近いことを肌で感じ取二ていた。


さらに奥地へと進むと、じめじめとした地下道は終わりを告げ、不気味なほど広大で静寂に包まれた空間へと出た。 そこには、ただ一人。 この全ての元凶である緑の怪物、タルタロスが、両手を後ろに組み、静かに立っていた。


タルタロスは、血と泥にまみれたタケルたちを見て、落ち着き払った声で口を開いた。 「ようこそ、天の民の戦士たちよ。……いやはや、君らは本当に素晴らしい」


パチ、パチ、パチ、と。 タルタロスは、心の底から称賛しているかのようにゆっくりと拍手をした。


「私が一生懸命作った罠、丹精込めて生み出した八代将軍、セントラルから遠ざけるための運行ルート……どれもこれも、君たちに対しては時間稼ぎにすらならなかった。私の策は、もう何も残っていないよ」 そう言うと、タルタロスは「カッカッカッ!」と、地下空間に響き渡る声で高らかに笑い出した。


ひとしきり笑い終えると、彼はスッと表情を消し、冷酷な光を宿した目でタケルたちを見据えた。 「もう私に策は残っていない。これからは、単純に『力』で戦うだけだよ。この老体でどこまで君たちを叩けるかはわからんが、主の完全なる復活まで、少しばかり時間を稼がせてもらおう」


そう宣言したものの、タルタロスは変身するわけでも、武器を構えるわけでもなく、ただ無防備に突っ立っているだけだった。


「……気をつけろ。何か仕掛けてくるぞ」 リチャードが天叢雲剣を構え、全員が警戒態勢をとる。しかし、待てど暮らせど、タルタロスは動かない。


「チッ、何すかしてやがんだ! 策がないなら、そのまま丸焦げになりな!」 気の短いミカ(カグヤ)が真っ先に動いた。如意棒を突き出し、印を結ぶ。 「八卦陣・ッ!!」


業火が竜巻のようにタルタロスを包み込む。ジョーの炎にも引けを取らない高熱の炎だ。 しかし――炎が晴れた後、そこには服の裾一つ焦がさず、涼しい顔で立っているタルタロスの姿があった。


「もしかして、あれは幻影……!?」 メーテルが素早く梓弓を引き絞り、緑色の魔力を込めた矢を放つ。 ヒュンッ! 矢はタルタロスの眉間を正確に捉えたが、タルタロスはそれを二本の指で軽く摘まんで受け止め、ポイッと捨てて笑った。


「カッカッカッ、幻影などという小賢しい真似はしないと言っただろう?」


物理的な実体がある。それを理解した瞬間、前衛の三人が弾かれたように飛び出した。 「おおおおおッ!!」 タケルの草薙の剣が、リチャードの天叢雲剣が、ヴィクトリアの水龍の斧が、三方向から同時にタルタロスの体を捉える。


甲高い金属音が地下空間に鳴り響いた。 神から授かったはずの強靭な刃。それが、避けようともしないタルタロスの「緑色の皮膚」に触れた瞬間、完全に止められていたのだ。傷一つ、刃を通すことができない。


「な……んだと……!?」タケルが驚愕に見開く。


タルタロスがニヤリと笑う。 「おやおや、戦闘はすでに始まっているんだがね。……いつまでそちらのターンでいるつもりかな? そろそろ、こちらから行かせてもらおうか」


タルタロスが、無造作に右の拳を振るった。 ただのパンチ。しかし、そこから生み出された衝撃波は、まるで巨大な質量を持った壁のように七人を襲った。


「がはぁッ!?」 「きゃあぁッ!」


なす術もなく、タケルたちは枯れ葉のように全員吹き飛ばされ、硬い石の壁や床に激突した。 授かった武器が手からこぼれ落ちる。全身の骨が軋み、立ち上がることすら困難なほどのダメージだった。


タルタロスはニヤニヤと笑いながら、倒れ伏す七人を見下ろした。 「うーん、私としたことが計算を誤ったのう。あれこれと小細工などせずに、最初からここで黙って君たちを待っていた方が、ずっと楽して主を守れたかのう。……まあよい。残念だが、そろそろ終わりにしようかのう」


絶望的な力の差。 タルタロスが、止めを刺すためにゆっくりと足音を立てて近づいてくる。


(……死ぬのか。ここで)


タルタロスの足音を聞きながら、タケルの心は不思議なほど穏やかだった。 恐怖も、怒りも、焦りも、全てが凪いだ水面のように消え去っていた。


ふと横を見ると、血を流して倒れるリチャードも、ヴィクトリアも、ジョーも、ミカも、高橋も、メーテルも、皆同じように静かな瞳をしていた。 死を間際にして、七人の心は極限まで研ぎ澄まされ、逆に完全に落ち着いた「明鏡止水めいきょうしすい」の境地に達していたのだ。


その時だった。


七人の手の甲に刻まれた紋章が、一斉にまばゆい光を放ち始めた。 『風』『聖』『水』『火』『闇(光)』『知』『緑』。 七つの異なる色の光が、地下空間を照らし出す。


言葉を交わす必要はなかった。全員の気持ちが、痛みが、覚悟が、一つの巨大な流れとなって繋がっていく。


「……行くぞ」 タケルがゆっくりと立ち上がる。それに呼応するように、六人も再び武器を手に取り、立ち上がった。


「ほう? まだ立つ気力が……」 タルタロスが眉をひそめた、その瞬間。


「「「「「「「天の一撃ッ!!!!」」」」」」」


七人が全く同時に叫び、武器を前へと突き出した。 七つの紋章の力が完全に一つに融合し、純白の極太のエネルギー奔流となって放たれる。それは、個々の技の足し算ではなく、掛け算による奇跡の力だった。


「ぬおおおおおぉぉッ!?」


これまで微動だにしなかったタルタロスの顔に、初めて驚愕と苦悶の色が浮かんだ。 無敵を誇った緑色の皮膚が焼け焦げ、絶対的な防御を粉砕されたタルタロスは、凄まじい光の奔流に飲み込まれ、遥か後方の壁の向こう側へと吹き飛ばされていった。


地響きと共に、タルタロスが激突した方向の壁が完全に崩落する。


「はぁっ……はぁっ……」 極限の一撃を放ち終え、七人は全身満身創痍でその場に膝をついた。武器を杖代わりに、辛うじて体を支えている状態だ。


もう、一歩も動けないかもしれない。 それでも、彼らの目は崩落した壁の奥――さらに深く、不気味な緑の光が脈打つ空間へと向けられていた。


「どうやら……次が、本当に最後の戦いみたいだな……」 タケルが、血の混じった息を吐きながら呟いた。


いよいよ、地の主との最終決戦が迫る。

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