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「って、アレ…紐が解けないぞッ!?」


 落下防止の為に身体に縛り付けた紐は、その使命を全うし、僕を木からの落下しない様にした。

 その証拠に、僕の身体はしっかりと縛り付けられ、手足は動くものの、身体は一切動かない。

 まぁ、身体が動かなくても、手足は動くので何とかなるだろう…多分。


「って、言うか…手が腰まで届かないんですけどッ!?」


 前言撤回…紐は固くて解けない。

 ならばと、ナイフで紐を切断しようとしたら、今度は、肝心のナイフまで紐が邪魔して手が届かないのだ。

 コレが、どちらかの手にナイフがあれば、どこかの紐を切る事で問題は解決する事が出来るだろうが…。


 予想外のピンチに、頭がパニックになる。

 だが、本当のピンチは、刻一刻(こくいっこく)と近付いている事に、この時の僕はまだ気が付いていなかった…。



「やっぱ、不味い…。」


 身体が固定されている事で、何も出来ないでいる為、朝食がてら、近くのドラッグストアで一つ百円以下で売られてるハンバーガーを〖レプリカ〗のスキルで作り出し、パクリと(かじ)った。

 まぁ、結果は見ての通り、スキルレベルが低い所為か、何とか食う事は出来るが、食欲減退効果のある(不味い)ハンバーガーしか出てこなかった。


 それでも、右も左も分からない様な異世界で、無料(タダ)で物が食べれるだけ幸せな方だと思う。

 しかも、眼下…木の下では、今も僕の命を狙ってる狼たちが居る、この場所でのんびりと食事が出来るのだから…。


「しっかし、あいつら(狼達)、ホントしつこいよな…いい加減、諦めて何処かに行けばいいのに…。」


 大人しく狼達に喰われてやるつもりは一切ない。

 それは狼達も分かっているだろうが、木から全然降りてこない僕を、今か今かとずっと待っているのには頭が下がる。

 だが、〖レプリカ〗(この力)があれば、木の上にいたとしても最低限の生活は出来る…出来てしまうのだ。


 まぁ、他に襲って来る物がいない…とか、病気に掛からない、怪我をしないなどの条件はあるが、それでも我慢すれば、最低限、生きていく事だけは出来る。

 それで良いのか…とは思うが、何もしないまま死ぬよりはマシだ。

 それに、いつまでも木から降りなければ、狼達もいずれは諦めるだろう。

 そうなれば、改めて移動すれば良いだろう…。


 そんな事を考えていたからだろうか…死神の鎌が、そっと僕のクビに添えられる。


『ギュルルル~~~!』


 盛大にお腹から音がなる…が、コレはお腹が空いた時に出る音ではない。

 そう、これは…身体に必要のない物を排出しようと腸が動いた時に出る音だ。

 その証拠に、お腹に圧迫感が生まれる。


「ちょッ!?ま、待って!今はまずいってッ!!」


 周りに誰もいない森の中、何処で何をしようと問題ないのだが、それでも人としての尊厳はある。

 こんな場所にいるのだから、どこでトイレを済ませようが、誰に(とが)められる事はない。

 だが、だからと言って、漏らす(・・・)のは、人として許されないはずだ。


 現在、身体は木に縛り付けられていて、手足しか動かず、どうにか紐を解こうとしても固くて解けない。

 紐を切る為のナイフは幸いな事に腰に装備されているが、その紐が邪魔してナイフを取る事が出来ないでいる。

 そんな問題を先延ばしにし、朝食を取った罰が当たったのだろうか?


 一度意識してしまえば、それは猛毒の様に苦痛を与えようと、どんどんお腹が痛くなってくる。

 このままでは、僕は死んでしまう(人間として)。


 だが、無力な僕には何も………無力?本当にそうだろうか?

 急に異世界で生きていく事になり追い出された今、本当に無力であるなら、死んでいるのではないか?

 それを救ったのは何だった?それは…ハズレスキルと呼ばれていた〖レプリカ〗ではないのか?


 今はスキルレベルが低く、偽物(パチモノ)しか出なくても、それでも使い方次第なのでは?

 スキルを発動させる条件は、何となく分かる。

 〖レプリカ〗(このスキル)は、ただスキルを使おうとしても発動しない。

 何が欲しいかを明確にイメージし、それを望みながらスキルを使う…ただ、それだけなのだ。


 なら、今、僕が望む事は何だ?

 身体を縛り付ける紐を切る事、その後、死ぬ事を回避する事だ。

 その為に必要な事は何か…腰に装備しているナイフ以外の物で、紐を切る手段があればいいのだ。


「スキル発動ッ!!」


 明確なイメージ…僕が思い描いた物、それは一本のナイフだった。

 右手の中に(あらわ)れたそれを、紐に押し当てる。


「き、切れないだとッ!?」


 いや、正確には少しだけ切れた。

 だが、ナイフが粗悪品過ぎて、切れ味が悪いのだ。

 元々、追い出される時に貰ったナイフがボロだったのだ。

 それを元に〖レプリカ〗で作り出したのだから、さもありなん…だ。


 あまりの非常事態で余裕がなかった…後から気が付いた事だが、この時、カッターナイフなどを思い付いていれば、もっと楽に脱出出来ていたのかもしれない。


『ギリギリ…ギリギリ…ブチッ!』


 今まで腰のナイフを取ろうとしていたのを邪魔していた紐が切れる。

 そして、そのナイフを取る為にスキルで作り出したナイフを捨て、腰のナイフへと手を伸ばす。

 急いでいるが落としたら最後だからと、落とさない様に注意しながら急いで引き抜くと、残りの紐を切る。


「クソッ!何でこんなに硬いんだ…。」


 落下防止の為に幾重にも張った紐が、僕を追い詰める。

 ヤバイ!ヤバイ!…焦る気持ちを抑え、何とか数本を切った所で、僕を縛り付けていた紐が緩み、何とか脱出する事に成功する。

 それでも、焦って木から落ちたら、物理的にも社会的にも死ぬ事になる。


 タイムリミットは残りわずか…焦りは禁物と心に言い聞かせ、走る走る…。

 そして、目的の所まで場所へと辿り着くと、僕はズボンに手を掛け…。


「グハッ!」


 まさか、ココに来て、ファスナーが動かないだとッ!?

 タイムリミットは残り3…2…1…。


「ま、間に合った…。」


 残り二秒の時に力ずくで引っ張った所為でファスナーが壊れたが、それでも最悪の事態は免れた。

 そして、用を足した直後、改めてハズレスキルと呼ばれていた〖レプリカ〗に感謝する事となる。

 それは何故か…手の届く範囲に、拭く物が何も無かったのだ…。

 いや、正確には手の届く範囲に、ギザギザの葉っぱがあった…が、そんな物で拭けば間違いなく怪我をする。


 改めて思ったのは、トイレットペーパーの偉大さである。

 品質のランクが下がっているにも関わらず、十分、問題なく使用出来たのだ。

 こうして、僕は人として死ぬ事を回避する事が出来た。


 そして、もう一つ…〖レプリカ〗の能力について分かった事がある。

 それは、スキルで作り出した物は、任意で消す事が出来ると言う事。

 こうして、少しずつだが〖レプリカ〗で出来る事を理解するのだった…。

拙い作品ではありますが、気に入って頂けたら幸いです。

また、感想や誤字報告等ありましたら、励みになります。

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