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騎神戦記  作者: 卯月
第二章 支配者達の遊戯盤
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第十六話 それぞれの戦う理由



 帝都を出発してから五日が経った。行軍は順調そのものであり、この調子なら残り半分の道程も何事も無く消化すると思われた。

 そんな一行の中で一番乗り心地の良い馬車に乗ったニコラ達騎士とオマケのセレンがだらけていた。帝都や都市部から離れれば相応に山賊や追剥が出没して旅人を襲うものだが、幾ら彼等が武装した所で最強の戦闘兵器であるデウスマキナ三騎に喧嘩を売るような無謀な事はしない。おかげで旅は安全そのものであり、まるでピクニックのようにのどかな時間を過ごしていた。


「ねー、ヒマー。本当にこれから戦いになるの?ていうかさー、何で人間って戦うの?」


 ニコラの膝を枕にしながら寝転がり、大きな欠伸をするセレン。長年森に引き籠って自給自足生活を送っていたエルフである彼女にとって、食べるための狩り以外で命を奪い合う戦争というものは理解し辛い。

 二人は初日に険悪な状態になったものの、翌朝には既にいつも通りになっていた。何をしたかは言うだけ野暮である。所詮男と女の諍いなど、一晩経てば勝手に直っているものである。

 純粋で無邪気な問いをするセレンが愛おしかったニコラは彼女の髪を梳いて愛でる。それをくすぐったそうに受け入れる様は恋人、あるいは子猫と飼い主のようにも見える。反対に一緒に居たリシャールは居心地が悪そうにしており、ノンノもどこか羨ましそうにしつつも、独り身の自分に重ねてネガティブオーラを放っていた。


「今回はガルナがうちの国に卸すクリスタルの値上げをしたのが発端だよ。それを交渉で撤回させようとしたけど向こうが頑として受け入れなかったから、喧嘩別れして戦になった。帝国も値上げするのを黙って受け入れるより、いっそガルナから鉱山の一つも分捕ってやれって意見が出て、そのまま戦争になったんだ」


「資源地を巡っての戦か。こういっては何だけど、値上げ分より騎士を動かす費用の方が高くつくんじゃないのか?まあ、あまり譲歩し過ぎると、易い相手と思われて足元見られるだろうから、ボルドも簡単には引けないだろうけど」


「なにそれ?話し合いで決まらないから殴り合いをするの?人間って馬鹿じゃないの」


 歯に衣を着せなさ過ぎである。ここには国政を担う頂点の皇帝の一族が居ると言うのに、真っ向からそれを批判するとなると、普通は命が幾つあっても到底足りない。が、ここには政治が分かっても手出ししないリシャールしか居ないので不敬罪に問われる事は無かった。代わりにノンノがダラダラと脂汗を流して慄いていた。

 実を言うと全員が戦争そのものの理由には馬鹿馬鹿しさを感じている。確かにクリスタルはデウスマキナの動力源として非常に貴重な戦略物資だが、それを手に入れるためにクリスタルを消費して何十騎ものデウスマキナを動かし、訓練に何年も費やした騎士を使い潰す様に殺し合いをするなど、全く以て割に合わない。

 しかしながら、それで戦争を回避出来るなら世の中はもっと平和で戦乱もずっと少ない。それにニコラの言う通り、ほいほい値上げを了承した場合、相手に扱いやすい奴だと思われて、どんどん値を釣り上げられる可能性も否めない。そうなると財政にも無視できない負担が圧し掛かり、結果的に重税を課さねば立ち行かなくなるケースも、過去の資料を探れば幾らか出てくるに違いない。

 そして大国故の面子もある。ボルドはこのエーシア大陸第二の勢力を誇る大国、それが小国であるガルナの交渉に屈して値上げに応じるのは外聞が悪く、ひいては侮りとなって周辺国への外交にも僅かながら影響を及ぼす。

 ニコラがそれら人間社会や国家間の付き合いをかみ砕いてセレンに説明したが、いまいちよく分かっていない。


「だからさ、こんな大きな道具を持ち出して殺し合うほど面子って大事なの?みんなはさ、そんな理由で戦ってもし死んだら、それで満足なの?」


「騎士も兵隊も戦って死ぬのが仕事の内だからな。覚悟ぐらいはしてる」


「僕もこれでも騎士だからね。それに皇帝の一族が命を張らないと誰も民は着いて来ない。良くしてくれた兄上の為にも戦うよ。そして勝つ」


「分かんない。人って分かんない。家族とか友達だって死ぬかもしれないのに、なんでそんな馬鹿みたいな理由で当たり前のように戦いをさせるのよ」


 セレンの悲憤は残された者の心の代弁だ。誰だって近しい者がある日突然帰ってこなければ悲しみ嘆く。そして殺した相手を怨み、敵を討ちたいと願い、死した当事者が望まずとも進んで戦場へ飛び込む者は少なくない。そうでなくともこの世界は基本的に封建社会である。恩も怨みも相続し、先祖や親族に報いるために戦うのが義務であり誉とされた。

 そこに本人の功名心が上乗せされ、利益の為に命を張って武功を得ようとする騎士も星の数ほど現れては瞬く間に屍を晒す。戦いから無縁のエルフには、人の世界は理解不能な地獄のように思えてならない。そこに愛した男が平然と溶け込んでいるのがセレンにはおぞましく思えた。


「セレンさんの言う事もよく分かります。私も騎士になる時に家族には随分泣かれました。でもお給金が良いから戦います。それで実家の弟や妹達がちゃんと教育も受けられるし、姉が上級騎士なら良い働き口や嫁ぎ先だって確保出来ますから。本当は戦いは嫌いなんですけどね」


「じゃあ毎月素寒貧になるのって余剰分を実家に仕送りしてるから?」


 ニコラの指摘にノンノは恥ずかしそうに頷く。

 基本的に騎士は高給取りだ。それに装備一式に住居は国から支給されるし、食事も騎士団の食堂で食べればタダである。勿論付き合いや相応のランクの生活を送るには金が掛かるが、無駄遣いしなければ毎度貯蓄に回せる程度の金は入って来る。

 さらにデウスマキナを駆る上級騎士となれば、平の騎士の三倍の給金は貰えるので、かなり良い暮らしが出来る。だから毎回食事に困るような貧乏暮らしはおかしいと思ったが、大部分を仕送りしているとなれば納得がいく。こういう健気さが騎士団でのノンノの人気の高さなのだろう。


「うちは小さな領地で麦を作ってるだけの貧乏貴族だから、私が頑張ってお金を稼がないと弟達が困るんです。だから戦うのは嫌いだけど、お金の為に戦うのを躊躇ったりしません」


「それだけの理由で上級騎士までなれるのは素直に感心するけどな。しかもその若さで」


「あの、確かニコラさん22歳ですよね?私19歳だからそんなに歳変わりませんよ。―――――何でそこで目を逸らすんですか?何歳だと思ってたのか素直に吐いてくれません?」


「あー、15歳ぐらいだと勝手に思ってた」


 ニコラは申し訳なさそうに白状した。ノンノは微妙に子ども扱いされていた事に落ち込んだ。

 確かに自分は童顔で昔から実年齢より幼く見られる事は多かったが、この歳になれば流石にそういう事も少なくなり、一端の騎士としても認められて、一人前の大人である自負があった。にも拘わらず知らない間に部下から子供扱いを受けていたのはかなり堪える。

 相手も悪気があったわけではないのは分かるが、だからこそ素で間違われていた事が心に突き刺さる。

 流石にこれにはリシャールも軽口を挟めず、何も見なかったように振る舞うも、空気を読まない奴がまだここに一名居るのは幸か不幸か。


「少しぐらい歳を間違えるのってそんな嫌なの?あたし人間より背が低くて細いから13~14歳って思われてて、50歳って言うとみんな驚くけど、あたしは全然気にしないよ」


 それはエルフと人間の寿命と成長に差があるから起きる間違いであって、同じ人間同士の思い違いとはまた別の問題なのだが。それにエルフは暦を持たないので数年の違いなど問題にしないのも大きかった。

 ただ、そのおかげでノンノの関心が逸れて、歳を間違えていた事はうやむやになった。


「ふーんセレンってバアさんだったんだ。じゃあこの前僕を小さい扱いした事は赦してあげるよ。ねえ、おばあさん」


「カチンとくるなぁ。でも小さな子供の言う事だから許してあげる。リシャールは子供だもんね、しょうがないよね」


「「ははははは」」


「やーい若作りの絶壁ババァ!!」


「なんだと毛も生えていないちんちくりんのガキんちょめっ!!」


「み、見た事無いのにてきとーな事言うなっ!」


「おや、あたしヒゲの事言ったんだけど、何で下を見たのかなー?どこが生えてないのかなー?お姉さんに教えてくれなーい?」


「は、生えてないのはセレンの方じゃないか!なにお姉さんぶってんだよっ!」


 狭い馬車の中で威嚇し合うちびっ子二人を年長者二人が抑え込んで宥める。ニコラとノンノは、セレンは毛を逆立てた子猫、リシャールは牙を見せた子犬のようだった。

 ちなみにセレンの方はニコラがどことは言わなかったが、薄いが生えていたとその場で証言した。リシャールは死ぬほど悔しそうにしていた。



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