第1話 プロローグ
────隣の席の水無月さんは無口だ。
僕が話しかけても、あまり返事をしてくれない。
そのこともあってか、頬杖をついて窓の外を眺めている姿には、どこかミステリアスな雰囲気を感じた。
「お互いの作文を読み終えたら、感想を書いて返すこと。それじゃあ、好きにペアを組んでくれ」
現代文の先生の合図で、それまで静かだった教室がペア探しで一気に騒がしくなる。
「晴輝~。一緒に組もうぜ?」
様々な声が入り交じる中、前の席の友達が振り向いてそんな風に誘ってくれる。
嬉しかったけど、それ以上に少しだけ複雑だった。
「ごめん、悠真。他の人を当たってもらってもいい?」
「ん、そっか。もしかして今日も?」
悠真は僕の隣の席をチラッと見てから、そう問いかけてくる。
そう、悠真が察している通りだ。
最近僕には、こういうときに声をかけたいと思っている人がいた。
「うん、せっかく声かけてくれたのにごめんね……」
「いいよ、気にすんなって!」
申し訳なさはあるけれど、悠真は他にも友達は多いから大丈夫だろう。
そんなやり取りをして離れていく悠真を見送ってから、僕は左隣に視線を向ける。
念のために様子を伺ってみるものの、動く気配はなく。そして、人が近づく気配もなかった。
「水無月さん、一緒に組まない?」
窓の外をぼんやりと眺めていた水無月さんにそう声をかけると、反応してこちらに顔を向けてくれた。
話しかけるのは初めてじゃないけど、無視されなかったことにひとまずホッとする。
「…………」
相変わらず喋ってはくれない。でも、僕が誘ったことへの答えか、少しの間の後に水無月さんはこくりと頷いてくれた。
嫌われてるのかなと思ったときもあったけど、誰に対してもこの対応なのだ。
「はい、じゃあこれ。お願い」
僕がプリントを渡すと、水無月さんからもしっかり書き込まれたプリントが。
「ありがとう」
お礼を言ってから受け取って、さっそく水無月さんのプリントに目を落とす。
登場人物の心情分析や、作品の中で好きだった表現。
そんなことを作文にしてから、それぞれの意見を交換し、色々な考えに触れるのがこのペアワークの目的らしい。
丸くて可愛らしい字を追いながら、その狙いの効果を僕は実感していた。
水無月さんは一見クールで、何を考えているのかいまいち読み取れない。
でも、こういう作文だと、水無月さんの想いや好みが言葉にしなくても分かるのだ。
そして────優しい人なんだということも。
そんなことで微笑ましく思っていると、すでに水無月さんはペンを置いていて。またぼんやりと窓の外を眺めていた。
僕も急いでペンを走らせて、枠いっぱいに感想を書く。
「遅くなってごめんね? はい、水無月さん」
「…………っ」
お互いにプリントを返すとき、そんな風に声をかけると水無月さんも軽く頭を下げて反応してくれる。
いつも何も言わずにペアを組んでくれるけど、僕でいいのかな……。
そんなことを思いながら、隣の席をこっそり横目で見ると────水無月さんの口角が少しだけ上がっていた気がした。




