18.昼の営業(2)
突然の大量注文に、思わず度肝を抜かれた。けれど、おばあちゃんから受け継いだ記憶を探ってみると、確かに似た光景がよみがえる。
……ということは、おばあちゃんはこの無茶な注文を普通に引き受けていたってこと? すごすぎる、パワフルすぎる。
「あ、あの……少し時間がかかってしまいますが、よろしいですか?」
「もちろんだ。ここは昔からそうだっただろう」
「……作ってくれれば、それでいい」
「山盛りだからな、楽しみにしてるぞ!」
当然のように返ってきた答えに、私は深く息を吸い込んだ。だったら――やるしかない。気合を入れ直し、まずは先に来ていたお客さんの料理から手をつける。
その時、カウンターの上にひょいと飛び乗ったハイドが声を掛けた。
「よぉ、久しぶりだな。今日も相変わらず、デカ盛りを頼んだか」
どうやら顔なじみらしい。三人組の表情も少し和らぐ。
「ハイドも変わらず元気そうで何よりだ。また、ここの飯が食えるとなれば、来るしかない」
「ははっ、それは嬉しいねぇ。でも他の店にも行くんだろう? どうだった?」
「……味は悪くなかった。だが、量が足りん」
「そうそう! 腹は膨れても、あの滾る感じがなかったんだよな。それに量が少ねぇ!」
「ふん、だろうな。お前らみたいな大食漢を満足させられるのは、星見亭のメニューくらいなもんだ」
三人は豪快にうなずき合う。そのやり取りを耳にしながら、胸の奥がじんと熱くなる。――こんなに楽しみにしてくれているのなら、手を抜くなんてできない。
よし、私も全力で応えよう。先に来たお客さんの料理を手早く仕上げ、それをハイドに託す。ハイドは慣れた様子で皿を浮かせ、お客さんに届けながら軽妙に会話を弾ませている。頼もしい相棒だ。
「さぁ……デカ盛り、いきますか」
私は深呼吸をして気合を入れ、鍋やフライパンを次々と火にかける。大鍋に魔法を使い一瞬でたっぷりと湯を沸かし、そこへ五人前のパスタを投入。ぐらぐらと煮立つ湯の中で、白い麺が渦を巻いて踊る。
同時に、カレーに合わせる肉と野菜を天板に広げ、オーブンに滑り込ませる。高温の炎がじっくりと食材を焼き上げ、香ばしい匂いが漂い始めた。
次はオムライス用の具材だ。巨大なフライパンを火にかけ、油をひくと、一気に具材を投入。ジュウッと弾ける音が響き、食欲をそそる香りが立ちのぼる。火が通ったところで調味料を加え、しっかりと味を馴染ませていく。
そこへ、どさっと五人前のご飯を投入。フライパンは両腕にずしりとのしかかる重さに変わった。
だけど、大丈夫。私には魔法がある。
魔力を体の隅々まで巡らせ、筋肉を補強する。すると、腕に感じていた重みがふっと軽くなり、まるで羽を持ち上げているようだった。
ヘラを構え、一気にご飯を混ぜ合わせる。力強くフライパンを振ると、白米とケチャップ色の具材が宙へと舞い上がり、くるりと回転して落ちてくる。その度に全体が均一に混ざり合い、鮮やかな赤色へと染まっていく。
これが五人前となると、迫力も段違いだ。
豪快に、けれど丁寧に。フライパンを揺するたびに食材が踊り、香ばしい湯気が立ち昇る。やがて全体がしっとりと色づき、艶やかなケチャップライスが完成した。
ケチャップライスを大皿にこんもりと盛り付けると、次はナポリタンの番だ。魔法でフライパンを一瞬で綺麗に磨き上げ、具材を投入する。ジュウッと音が弾け、香ばしい匂いが立ちのぼる。しっかりと火が通ったところで味を整え、具材全体を炒め合わせた。
その時、キッチンタイマーが鳴り響く。パスタが茹で上がった合図だ。大鍋からザルを一気に引き上げると、湯気をまとった麺がどっさりと持ち上がった。しっかりとお湯を切り、勢いよくフライパンへ投入する。
トングで全体を混ぜ、フライパンを豪快に揺する。するとパスタが具材と絡み合い、赤いソースが麺一本一本にまとわりついていく。香りが一層濃くなり、鮮やかな色合いに染まっていく。ナポリタン、完成。
それをまた大皿に盛り付け、すぐさまフライパンを魔法で清める。今度はバターをどっさりと落とし、火にかける。じゅわっと溶け出す芳醇な香りに、思わず頬が緩む。
同時にボウルへ卵を割り入れ、塩胡椒で味を整えてしっかりと混ぜ合わせる。溶けたバターの上に流し込み、ふんわりと火を入れていく。半熟に固まりかけたところで手早く形を整え、オムレツの形に仕上げた。
その黄金色のオムレツを、先ほど盛り付けたケチャップライスの上にふわりと乗せる。最後にナイフを入れると――中からとろりとした半熟の卵が流れ出し、ライスを覆って輝いた。
残るはカレーライス。ちょうどその時、オーブンがチンと軽快な音を立てる。ご飯を山盛りに盛り付け、熱々のカレールーをたっぷりとかける。そこへオーブンで焼き上げた肉と野菜を取り出し、彩りよく飾れば完成だ。
こうして調理台の上には――三種のデカ盛りがずらりと並んだ。最初は本当に作り切れるのか不安だった。けれど、やりきった。ずらりと並んだ大皿を前に、胸の奥から安堵が広がる。
深く息を整えて顔を上げる。
「お待たせしました! オムライス、ナポリタン、カレーライス――それぞれ五人前です」
出来立ての湯気を立てる大皿を、三人の前へ丁寧に並べる。男たちの眼差しが料理に吸い寄せられた瞬間、厨房に充実した静けさが訪れた。




