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35歳、年下御曹司に本気で溺愛されていました  作者: 真夜中さん


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30/31

ついに!



圭介が、タバコを吸いにベランダへ出たのは、

深夜を過ぎた頃だった。

ガラス戸が閉まる。


——今。


光莉は、反射みたいに立ち上がった。


音を立てない。

かばんはない。

スマホもない。


でも、

出入口まで辿り着ければ。

心臓が、喉の奥で暴れている。

玄関の鍵を開ける。


指先が震える。


圭介は、

本当に閉じ込めているつもりが薄い。


「戻しただけ」

だと思っている。


これが最後のチャンスだと思った光莉は、

ゆっくりドアノブを回した。


廊下。

暗い。

古い蛍光灯。


まるでホラーゲームの中のような雰囲気…

息を殺して、一歩。

もう一歩。

後ろを見ない、見たら終わるような気がした。

エレベーターに乗ろうとしたが待つ時間が怖く階段で行くことにした。


薄暗い踊り場を、足音を殺して降りる。

足が震えて、何度も踏み外しそうになる。

でも止まれない。

外にさえ出れば、どうにかなるかもしれない。


しかし上の階から、ドアが閉まる音がした。

心臓が止まりそうになる。


「光莉ーーーー」

圭介の叫び声。


静かな場所で響く圭介の声に、

一気に血の気が引く。


見つかった。


光莉は、反射的に走った。

階段を駆け下りる。


「待て!」


初めて、圭介の声に焦りが混じる。

光莉は、転びそうになりながら、

一階まで降り、出口付近までやってきた。


あと少しのその瞬間。

後ろから腕を掴まれた。


「っ……!」


強い。

逃げようとしても、びくともしない。


「離して!」


「っ、なんで逃げるんだよ!」


圭介の声が、今までで一番荒れていた。


「帰る場所、なくなるぞ!」


「ある……!」


叫んだ瞬間、圭介の動きが止まる。


光莉は、息を切らしながら、

振り返った。


涙で視界が滲む。

それでも。


「……あるの」


圭介を見る目が、もう昔とは違っていた。

縋る目じゃない。


怯えながらも、ちゃんと“拒絶”している目。


「蓮さんがいるから……!」


その名前。

圭介の顔から、一瞬で熱が消える。


代わりに、どす黒いものが落ちる。


「……そんなにかよ」


掴む力が強くなる。


「数週間だろ」


「そんなの関係ない……!」


声が、建物に響く。


「お前、俺といる時そんな顔しなかった!」


呼吸が止まる。


圭介は、自分で言ってから、はっとしたように黙る。

でも、止まれない。


「なんでだよ……」


掠れた声。


「俺といた時は、 ずっと諦めた顔してたくせに」


光莉の胸が、ぎゅっと痛む。


——違う。

諦めさせられてた。


でも、その言葉を飲み込む。

今は、刺激しちゃだめだ。


その時だった。

外から、急ブレーキの音が響いた。

圭介が反応した直後、階段を駆け上がってくる足音。


複数。速い。


圭介の顔色が変わる。


「……は?」


次の瞬間。


「光莉さん!」


聞き慣れた声が、階段に響いた。


蓮が息を切らしながら、そこに立っていた。

スーツの上着も乱れている。

でも目だけが、異様なほど冷えている。


光莉の腕を掴む圭介を見る。

一瞬、本当に一瞬だけ。

蓮の表情から、感情が消えたような気がした。


「——その手を離せ」

低い声。


圭介が、反射的に笑う。

「なんだよ。迎えに来たのか?」


蓮は答えない。

ただ、光莉だけを見ている。


「光莉さん」


その声だけで、涙が溢れた。


「……蓮さん」


掠れた声。

その瞬間、蓮が、一歩前に出る。


「もう大丈夫です」


そのたった一言で、

光莉の中で張っていた糸が、完全に切れた。


我慢していたものが切れたのか

涙が止まらなくなった。




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