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美女たちとの無人島スローライフ ~何をしても「神」評価の男、規格外のサバイバル技術でのんびり楽しむ~  作者: 絢乃


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008 ポイントの仕様

 燻製ハウスを組み上げて、三つ首ライオンの肉をすべて燻製し終えた頃には、すっかり夜も更けていた。

 森の合間から見える星空は明るいが、辺りの茂みは闇に覆われている。

 すぐ近くに猛獣が潜んでいてもおかしくないので危険だ。


 ということで、俺たちは急ぎ足でハンモックの場所まで戻った。

 先程まで使っていた焚き火が辛うじて生きていて、周囲を弱々しく照らしている。

 燃料となる薪をくべて、火力と燃焼時間を強化した。


「ゆーきん、燻製した肉はどうするっすか?」


 晴菜が尋ねてくる。

 彼女は両手で大量の燻製肉を持っていた。

 さらに、肉の詰まった竹編みの籠を背負っている。

 籠は燻製中に三人で作った物だ。


「吊して保管するよ」


 ハンモックがある大きな木の幹から、しっかりした枝が何本も伸びている。

 ロープ代わりのツタを使えば、燻製肉をまとめてぶら下げられるわけだ。

 風通しいいし、害獣や害虫の被害も抑えられる。


「よーし、それなら私がやるっす! 吊るせば肉にも風が通るだろうし、安全そうだし!」


 そう言うやいなや、晴菜は滑らかな脚力を活かしてひょいっと木に登った。

 俺の使ったハシゴを使ったとはいえ、かなりの身のこなしだ。

 さすがは陸上部といった動きで、あっという間にハンモックのまで到達した。


「ゆーきん、ロープをパスっす!」


「はいよ」


 晴菜は俺から受け取ったロープをくるくる巻き付けていく。

 あっという間に吊すための環境が完成した。


「かなりの手際だな」


「すごいですね」


 俺と亜希が感心する。

 そして、そのAIも認めた。


『神』


 晴菜の頭上に初めての神評価が表示される。


「やった! 神っすよ! 神!」


「おう、神ってるな!」


「これなら当分は食料に困らないっすね!」


 晴菜は可愛い丸顔に満足気な表情を浮かべていた。


「ああ、これでしばらく安泰だ。川の水があるから、食糧問題はひとまず解決したと言っていい」


 俺は吊るした燻製肉を軽く指でつついた。

 適度に水分が抜けており、表面も色濃く仕上がっている。

 保存性はそこそこ高いはずだ。


「悠希くん、お肉は分かるのですが、骨と牙は何に使うのですか? 皮はまだ分かるのですが……」


 俺は肉だけでなく、他のパーツも持ち帰っていた。

 ただし、野生動物が好む内臓各種は川に残してある。

 俺たちには不要だし、持っていると獣が寄ってきそうだからだ。


「具体的なことは考えていないが、何かと使い道があると思ってな。とりあえず、皮だけは既に使い道を考えているよ」


 他の荷物も可能な限り樹上に避難させることにした。


 ◇


 全ての作業が終わり、俺たちはハンモックで休んでいた。

 体を包み込むような独特の寝心地だ。


(かなり気持ちいいが……さすがに厳しいな)


 ハンモックには避けては通れない問題がある。


 腰に対する負担だ。

 これはどれだけ質の良いハンモックでも変わらない。

 一般的な布団やベッドに比べて腰を酷使してしまう。

 今日はこれでいいが、可能な限り速やかに改善したいところだ。

 腰を負傷すると、全ての作業に深刻な影響を及ぼす。


「そういや、ゆーきんの予想、外れたっすね」


「予想?」


「雨っすよ! 降らなかったじゃないっすか! せっかく雨よけを用意したのに!」


 晴菜の言葉に、俺は「ああ」と思い出した。


 俺たちが使っているハンモックの頭上には、雨よけが設置してあるのだ。

 三つ首ライオンの皮をなめし、防水&防腐処理を施したものである。


「別にかまわないんだ。こういうのは備えあれば憂いなしさ」


 笑いながら応じると、晴菜は「まあ、そうっすよね」と楽しげに頷いた。


「でも、皮をなめす作業は苦労しましたよね」と亜希。


 俺は「違いねぇ」と笑った。


 ライオンの皮をなめしたときの作業はなかなか大変だった。

 昼間のうちにある程度の肉や脂分を削ぎ落とし、川で洗い、薬草の成分を使った簡易的な加工を施す。

 そして、風通しの良い木陰で乾燥させる過程で、適宜揉んで柔らかさを保つ。

 こういった作業には、根気だけでなく化学的な知識が必要だ。


 そこで化学を専攻している亜希が活躍した。

 彼女は「脂分の除去にはアルカリ性の草をすり潰して使うといい」やら「この植物は○○の代わりに使える」など、詳しいことを教えてくれたのだ。


「ところで、ちょっと聞いてほしいっす!」


 なめした皮を触っていると、晴菜が体をこちらに向けて言った。

 普段よりも声のトーンが少し低くて、言葉に真剣味が感じられる。


「私、本気で1位を狙っているんすよ。それで相談なんですけど、RPの伸ばし方って、特化型と万能型のどっちが効率的か教えてほしいっす!」


「特化型? 万能型? なんだそれ? RPっていうのは、ステータスの数値だよな?」


 首を傾げる俺に対して、亜希が口を挟んだ。


「晴菜さんの話を進める前に確認させてください。悠希くん、順位の具体的な決め方ってご存じですか?」


「もちろん知らない」


 亜希が「ふふっ」と笑う。


「なんでやる気のないゆーきんが3位で私が45位なんすかー!」


 晴菜が不満そうに叫ぶ。


「では、少し説明しますね」


 そう言って、亜希はランキングの決め方を教えてくれた。


「最終スコアの順位は、ステータスの数値にランク補正を掛けたもので決まります」


「そこまでは何となく知っているな」


「このランク補正を、一般的には〈最終補正〉と呼ばれていまして、ランクが高いほど補正も高くなります。具体的には、Gランクだと0.5倍、Fは1.0倍、Eは1.1倍、Dは1.2倍、Cは1.3倍、Bは1.5倍、Aは1.7倍、Sは3.0倍です」


「ふむ」


 俺は実際に計算してみるべく、自分のステータスを確認した。


――――――――――――――――――――――

【名前】久世 悠希

【順位】3位

【狩猟】282 (G)

【採集】168 (G)

【農業】0 (G)

【製作】552 (F)

【料理】270 (G)

【医療】72 (G)

――――――――――――――――――――――


 いつの間にやら3位である。

 そして【製作】のランクがFに上がっていた。

 ログを確認したところ、500ポイントで昇格したようだ。


 それはさておき、亜希の話をもとに計算すると以下の通りになる。

 Fランクの【製作】は552ポイント。

 他は合計で792ポイントだが、Gランク補正で半減して396ポイント。

 これらを合わせた結果が948ポイントで、それが俺の最終順位を決めるスコアだ。


「なら特定の項目に特化しまくった方がいいんじゃないか?」


「ところがそうもいきません。ランクが上がると、〈獲得効率〉が下がるからです」


「か、獲得効率……?」


 早くも頭が混乱してくる。


「話を分かりやすくするため、ステータスの数値を『SP』、最終的な順位を決める数値を『RP』と分けて考えてください」


「分かった。それで、SPの獲得効率って?」


「作業をした時に獲得するポイントのランク補正を指します。獲得効率は最終補正と違い、ランクが上がるほど低くなります。具体的にはGランクが1.5倍、Fは1.2倍、Eは1.0倍、Dは0.9倍、Cは0.8倍、Bは0.7倍、Aは0.5倍、Sは0.2倍です」


「つまり、同じ作業をしてもEランクの時に100ポイント獲得できるものが、Sランクだと20ポイントしか手には入らないわけか」


「そうです。今の悠希くんの例に最終補正を当てはめると、Eランクは100SPの1.1倍で110RP、Sランクは20SPの3倍で60RPとなり、Eランクのほうが最終順位に与える恩恵が大きいのです」


「なるほど」


「ここまでをまとめますと、【一つの作業によって得られるSPは、基礎となるポイントに五段階の評価補正と獲得効率=ランク補正を掛けたもの】で、【SPにランク補正を掛けたものがRPになる】ということです」


「そういうことか」


 亜希の説明は非常に分かりやすい。


 俺は脳内で今の説明をまとめた。

 SP:基礎ポイント×評価補正×ランク補正

 RP:SP×ランク補正

 そして、順位はRPの合計値の高い順によって決まる。


「質問なんだけど、基礎ポイントと評価補正はどうなっているの?」


「基礎ポイントは作業の規模によって細かく分かれているようですが、具体的な仕様は明かされていません。一方、評価補正に関しては明らかになっていて、失敗は0倍、低評価は0.5倍、中評価は1.0倍、高評価は2.0倍、神評価は3.0倍になります」


「かなり大きいな」


「今日の経験から言うと、悠希くんのような例外を除いて、大抵の人は神評価を連発できません。ですので、いかに高評価を連発するかが肝になるのだと思います」


 俺と晴菜が「なるほど」と口を揃えた。


「もう仕様は分かったっすよね!? それで、どうすればいいっすか? 私、真剣なんすよ! 奨学金もあるし、親の会社だって生成AIのせいで倒産して借金まみれだし……」


「なるほど、それで晴菜は1位を狙っていたのか」


「そうっす……。かなり切羽詰まってて……」


「とはいえ、張り切りすぎるのは問題なんじゃないか。実験の期間は3年だ。無理をして体を壊したら元も子もないよ」


「分かっているっすけど、でも、効率を意識するくらいはしたいじゃないっすか!」


「まぁな。そういうことなら……亜希、あとは頼んだ!」


 効率云々という難しい話は苦手だ。

 晴菜よりはマシだと思うが、俺だって頭が悪い。

 だからこのご時世に就活で苦しんでいるのだ。


「私も悠希くんと同じ意見です。そのうえで理想論を述べるなら、全ての項目で効率良くポイントを稼いでBランクを目指すのが最も効率的です。AランクとSランクはSPの獲得効率が低いので」


「なるほど! 万能型っすね!」


「ですが、これはあらゆる作業を同じクオリティでこなせる場合の話です。例えば苦手な分野では高評価を取れなかったり、果てには失敗したりすることもありますよね。そういうことも含めると、『理論上の正解』が『晴菜さんにとっての正解』とは限らないのが現実です」


「うっ……」


 晴菜が言葉を詰まらせる。

 亜希の回答に納得しつつ、望んでいた答えではなかったのだろう。

 明確な正解を知りたかったに違いない。


「とりあえず、自分の得意な分野を見つけるというのはどうだ? 今日は採集に明け暮れていたが、もしかしたら狩猟や他の分野でも活躍できるかもしれないぞ」


「同感です」


「了解っす! じゃあ、明日は他のことにもチャレンジするっす!」


 晴菜の顔がパッと明るくなった。


 ◇


 その後も、俺たちは雑談や仮眠をとって過ごした。

 待っているのは0時――ショップで購入したアイテムの到着だ。


 レンズのUIに表示されている時刻によれば、現在は23時50分過ぎ。

 あと10分ということもあって、俺たちはウキウキしていた。


「そういえば、2人は何も買わないんすか? このままだと私が買った水だけっすけど」


 晴菜はハンモックから身を乗り出し、地面を眺めながら言った。


「私は温存しておきます。有事の際に備えておきたいので」


「じゃあ私だけっすね! ゆーきんはサバイバルマニアっぽいし、ショップは邪道って考えっすから」


「いいや、俺は買ったぞ」


 二人が「えっ」と驚く。


「ゆーきん、何を買ったんすか?」


「気になります」


「ふふふ、それは10分後のお楽しみだ」


「うわ、気になるっす!」


「ちなみに買ったのは一つじゃなくて三つだ」


「「三つも!?」」


「俺は亜希と違って温存しない主義なんでな」


 と言いつつ、三つ買ってもゴールドは余っていた。

 安いものばかり選んだからだ。


「悠希くんが積極的にアイテムを買うのは意外でした」


「一人だったら買わないと思うけど、チームで行動しているからな。俺のエゴで縛りプレイをするわけにもいかないさ」


「そういうところ、素敵だと思います」


 亜希が微笑む。

 視界に表示されている時間が進み、0時になる。


「ちゃんとレンズの設定を暗視モードにしておけよ!」


「もちろんっす!」


「しました!」


 ゴトゴト、ゴトゴト。

 何やら地面から音が聞こえる。


「来るぞ!」


 周囲を確認してからハンモックを下りた。


 ウィーン。

 地面が音を立てて開き、二つの箱が並んで出てきた。

 どちらも同じサイズ――縦横2mに高さ1m――の木箱だ。

 箱の蓋には購入者の名前が書いてあった。


「さっそく開けよう」


 俺と晴菜は、緊張の面持ちで木箱の蓋を開けた。

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