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美女たちとの無人島スローライフ ~何をしても「神」評価の男、規格外のサバイバル技術でのんびり楽しむ~  作者: 絢乃


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007 解体と問題

 黒曜石の石包丁が完成し、いよいよライオンの解体が始まった。

 ライオンを捌いた経験はないが、まぁどうにかなるだろう。


「まずは血抜きからだ」


 俺は作ったばかりの石包丁で、ライオンの腹側、胸骨の辺りに刃を入れた。

 獣の体を扱うときは、動脈や静脈の位置を大まかに把握することが大事だ。

 さもないと、血が噴き出して自分も周囲も汚れてしまいかねない。


 ゆっくりと切り開いてから、血をしっかりと流した。

 大型な上に三つ首なだけあって、出てくる血の量が尋常ではない。


「うわ……すごい量っすね」


 晴菜が少し引き気味に見守る。

 亜希は冷静に観察しているが、その瞳には好奇心が窺える。

 目を背けてもおかしくない状況なのに、どちらもたくましいものだ。

 この実験に応募するだけのことはある。


「血がある程度抜けたら、次は筋膜の処理だ。筋肉の繊維と筋膜をスッと切り離すことで、あとの解体が楽になる」


 内臓の位置を把握しながら、肝臓や心臓、胃袋を摘出する。

 傷んでいる部分がないかチェックしつつ、廃棄する部位を決めていく。

 それが済んだら、あらかじめ用意しておいた川水で中身を軽く洗う。


 諸々の処理が済み、今度は肉を選別していく。


「この辺りは柔らかそうだな。あとで焼いて食べてみるか」


 俺はモモ肉やロースに当たる部分をそぎ取るように切り出した。

 脚の付け根の辺りだ。


「ゆーきん、ここはどうなるっすか?」


 晴菜が尋ねてきた。

 彼女が指したのは首筋の辺りだ。


「首回りの肉は噛み応えがあるかもしれない。筋が多いから薄切りにして煮込み系にするか、保存食に回すかだな」


 少しずつ切り離していく。

 黒曜石の石包丁があるおかげで作業が快適だ。


 最終的には、肉、骨、皮、内臓などの形に分けられた。

 肉の質は部位によって異なるものの、思った以上に食べられそうだ。

 ライオンの肉は臭くて不味いという先入観があったので驚いた。


「ふう、これで大まかに片付いたな。あとは適当なサイズに切り、食べる分だけ串に刺して火にかけよう。残りは適当に包んで後で保存方法を検討だ」


 俺が大きく息をつくと、晴菜が興味津々で肉の塊を手に取った。


「どんな味なんすかね! 見た目は牛肉ぽいっすよね!」


「試しに焼いてみよう。味は……旨いことを祈る!」


 大きめの枝を何本か用意し、ナイフ代わりの石包丁で削って串を作る。

 肉を通して焚き火にかざすと、じゅうじゅうと香ばしい煙が立ち上った。


「思ったより期待できるんじゃないか? これ」


「そっすよね! 私もそんな感じがするっす!」


 俺と晴菜は目を輝かせる。

 一方――。


「あの、悠希くん……」


 亜希が恐る恐る口を開いた。


「今さらで恐縮なのですが、このライオン、本当に食べても大丈夫なんでしょうか?」


「「えっ」」


 俺たちは固まった。

 三つ首の突然変異ともいえるライオンを人間が口にしていいのかどうか。

 その答えを知っている者など、この場にはいない。


「たしかに……三つ首のライオンとか食べたら危険かも!? 遺伝子をいじっているわけだし! 万一、体になんか変な影響が出たりしたら困るっすよ!」


 晴菜が一転して不安がった。

 しかし、口の端からは(よだれ)が垂れている。

 空腹と好奇心も根強く残っているのであろう。


「安全かどうかは断言できない。しかし、ただちに悪影響が出るかどうかと言われたら、俺は大丈夫だと思う」


 それが俺の意見だった。


「その根拠はなんですか?」


 亜希が真っ直ぐに俺を見る。


「この実験を企画した側のことを考えたら、そういう結論に至ったんだ」


「実験者側の思惑ですか」


「この実験には、官民合わせて数十兆円規模の予算が投じられている。準備にだって長い年月をかけた。兵庫県の中部にある山岳地帯をほぼ全て掘削しただけでなく、その地に住んでいる人を移住させたわけだ」


「ですね」


「だとすれば、ここにいる被験者が無闇に死んだり障害を負ったりするリスクは、最小限に抑えようとするはずなんだよ」


「ええ、確かに。こんな巨大施設を作るくらいですから、その点は納得です」


 亜希が淡々と相槌を打つ。


「ちょっと口を挟んでいいっすか?」と晴菜が手を挙げた。


「どうした?」


「無闇に死なれたくないなら最初から家を用意して食べ物を準備しておけばいいんじゃないっすか? サバイバル生活って意味不明っすよね。自由参加の簡単な講習しかなかったし」


「その点は今から話そうとしていたが、政府の目的は諸々の事情で日本が孤立したり、インフラが停止したりした場合に備えてのことだ。裸一貫でサバイバル生活を強いるというのは極端に思えるが、自給自足で生き延びる方法を探るという思惑であることは理解できる」


「なるほどっす!」


「そういった事情を踏まえると、悠希くんはこのライオンが安全だと?」


「そうだな。遺伝子を弄って作られたであろうことが明らかな三つ首ライオンを放つなら、当然、運営側はそれなりに対策を講じているはず。サバイバル生活を強制している以上、ライオンの肉を食うと考えるのが普通なわけで、だとすれば目先は問題ないと思う」


 亜希は少し考え込んでから「筋が通っていますね」と頷いた。


「たしかに短期的に問題があるようなものであれば、今回の実験に投入されていないと考えるのが普通です。ありがとうございます、悠希くん。おかげで納得することができました」


「とはいえ、これは目先の話だ。1年後や2年後、下手するともっと先に、何かしらの健康被害が生じるかもしれない。だから、嫌なら無理して食べなくていいよ。ショップを活用すれば、0時にはまともな物が食えるわけだし」


 そう言いながら、俺は串を手に取った。

 肉の表面は、ほのかに焦げるほど焼けている。

 いい感じだ。


「私も食べるっす! 不安っすけど、せっかくのお肉だし、何より貴重なゴールドを食べ物に使いたくないっすから!」


 晴菜も串を取った。


「私も……興味があります」


 亜希が静かにうなずく。

 不安もあるが、それ以上に好奇心が勝ったのだろう。


「じゃ、皆で食べようぜ! 何かあっても恨みっこなしで!」


 俺たちは「いただきます!」の掛け声とともに肉を食らった。


「んんーっ!」


 食べた瞬間に感動した。

 程よい弾力とともにジワリと肉汁が広がる。

 想像していたような獣臭さは感じず、むしろ上質な脂の甘味が感じられた。


「なんだ、これ! すげー旨いぞ!」


「牛肉より美味しいっす!」


「すごいですね。これほど美味しいライオンのお肉があるとは……」


 俺を含め、三人とも大絶賛だ。

 文句なしの旨さで、思わずパクパク食べてしまう。


「味の傾向としては牛肉みたいですよね」と亜希。


「そうだな。高級和牛のリブロースに近い感じがする」


「分かります」


「私は分かんないっす! そんなに高い肉は食べたことないっすから!」


 その後も俺たちは、満腹になるまで肉を食べ続けた。

 煮沸した水で喉も潤い、一気に体力が回復する。


「少なくとも直ちに悪影響はないようだな。舌や体に痺れなどは起きていない」


「十分に加熱しているので、食中毒の問題もなさそうですね」


「こんなに美味しいなら食中毒になっても許せるっす! なはは!」


 一息つく。

 それから、俺は余っている肉に目を向けた。

 思った以上に食べたが、それでもまだまだ残っている。

 このまま放置していると、すぐに腐ってしまうだろう。


「残りは燻製にするか。腐らせるのはもったいないしな」


「燻製といえば、低温で煙を当てて乾燥させるわけですが、その煙に殺菌作用が含まれていまして――」


 ペラペラ、ペラペラ。

 亜希は燻製の専門的な内容を分かりやすく説明してくれた。

 もちろん俺は全て知っていたし、亜希もそのことは理解している。

 彼女が説明している相手は晴菜だ。


「へー、なるほどっす! それが燻製っすかぁ!」


「念のために確認しておくが、燻製が何かってことは知っているよな?」


「もちろんっすよ! 私だってこれでも大学生っすから!」


「なら安心だ」


 亜希の話が落ち着いたところで、燻製に関する作業を進めることにした。


「無難に燻製用の簡易ハウスを作る方向でいくか」


「ハウス!? 家を建てるんすか!?」


「いや、家というより箱だ。あとイメージしているよりも小さいよ。木材でドラム缶を再現すると思ってくれ」


「ドラム缶で燻製ですか」と亜希。


「本格的には無理だけど、少し囲いを作って煙を閉じ込めれば、それっぽいことはできるはずだ」


 自然環境で燻製肉を作ることは、カジュアルなアウトドアでも行われている。

 火加減や煙の量にコツがあるが、さほど難しいことではない。

 どちらかといえば、燻製そのものより香り付けに使う材料探しが大変だ。

 ホームセンターと違って適切な物がポンと用意されているわけではない。


「問題は燻製材だが――」


 俺が話していると、突然、晴菜が「もう分かったっす!」と立ち上がった。


「木材を集めればいいわけっすね! それなら私の出番っすよ!」


 晴菜は猛ダッシュで森へ入っていった。


「いや、これからが一番大事なんだが……」


 燻製材は好き放題に木材を燃やせばいいというわけではない。

 味の決め手となる香りを付与するわけだから、適切な木材が求められるのだ。

 定番なのはヒッコリーやサクラが、きっと晴菜には見分けがつかない。


「悠希くん、私たちも材料を探しに行きましょう。燻製もそうですが、火を絶やさないための薪も必要になりますから」


「そうだな。あと燻製用の土台も作っておかないと」


 俺と亜希も、晴菜の後を追うように森へ向かった。

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