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美女たちとの無人島スローライフ ~何をしても「神」評価の男、規格外のサバイバル技術でのんびり楽しむ~  作者: 絢乃


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035 断崖の洞窟

 昼食を終えると、俺は洞窟に向かう準備を整えた。

 自作の矢筒を腰に、弓を背中に装備する。

 水分補給用に水の入った竹筒も何本か持った。


「こっちはいつでもいけるよ。玲奈、そっちは?」


「問題ございませんわ!」


 玲奈も自分用に竹筒を持っている。

 あと、背負っている籠には火熾し用の道具などが入っていた。


「オーケー」


 俺は頷くと、晴菜、亜希、境野の三人に言った。


「俺と玲奈は洞窟の下見に行ってくる。晴菜、何かあった時は皆を守るんだぞ。薙刀を託す」


「えー! 久世、そこは男の俺だろ!?」


 境野が自分の顔を指す。


「そうは言うけど、お前は恋人の捜索で拠点を離れていることが多いだろ」


「たしかに……!」


「じゃあ、ゆーきんが戻ってくるまでの間、私が亜希を守るっす!」


 亜希が「頼もしいです」と微笑んだ。


「それと、もし俺たちが戻らなかったとしても、捜索には出ないでくれ」


 俺が言うと、皆が一斉に「え?」と声を上げた。

 境野にいたっては苦笑いで首を振っている。


「大袈裟だなあ、久世。そんなことにはならないだろ」


「縁起でもないですよ、悠希くん」


 亜希は憂いを帯びた表情でそう言うし、晴菜は不安げに眉を寄せた。


「大丈夫とは思うが、そういう事態は想定しておく必要がある。こういう環境だと死ぬ時は一瞬だ。それは俺だって例外ではない」


 俺は口調を抑えながらも、しっかりと目を合わせて語る。


「あと、ウェアラブルレンズのマッピング機能があるから、問題がなければ自力で戻ってこられるはずなんだ」


「戻ってこなかったら、その時点で問題に巻き込まれている……ということですね」


 亜希の言葉に、俺は「そういうこと」と頷いた。


「そういうわけだから……境野」


「え、俺!?」


「おう。お前も拡声器で喚きながら動き回るわけだし、悪党や猛獣に襲われる可能性を常に警戒しておくんだぞ」


「はいよ!」


「よし、じゃあ、行こうか」


 玲奈が「はい!」と隣を歩く。


「必ず戻ってきてください、悠希くん。でないと恨みますからね」


「ゆーきん、がんばっすよー!」


「俺も少ししたら発つぜ! 久世、また夜に会おう!」


 晴菜、亜希、境野の三人に別れを告げ、俺は玲奈と拠点を出た。


 ◇


 俺と玲奈は、遠目に見える崖を目指していた。

 岩が剥き出しの断崖で、境野曰く、ふもとに洞窟があるとのこと。


「朋絵ちゃーん! 俺はここにいるぞー! 聞こえているかー!」


 境野の声がどこからともなく聞こえてくる。

 しかし、残念ながら朋絵からの応答はなかった。


「境野さんの呼びかけ、力強いですわね」


 クスクスと笑う玲奈。


「ほんとにな。声だけなら猛獣だって逃げ出しそうだ」


 軽い雑談を交わしつつ、俺たちは森の奥へ。


「ところで玲奈、拠点で作業をしなくてよかったのか?」


「何ですの、今さら」


「いや、ふと気になってな。まだまだ拠点を発展させようとしていたからさ」


「たしかにそうですが、同じくらい島の探険をしたかったので問題ございませんわ。それに、何かあれば悠希さんが守ってくださるでしょう? 初めて会った時のように」


「あの時はビンタをされたけどね」


「そうでしたわね」


 玲奈が「あはは」と上品に笑う。


 今回、玲奈が同行しているのは彼女の意思によるものだ。

 俺が洞窟に向かうと言ったら、自分も一緒に行きたいと言い出した。


「おっ」


 俺は地面にある動物のサインを発見して立ち止まった。


「どうされましたの?」


「近くにイノシシがいるな」


「え?」


「かなり新しい足跡だ」


 地面に残された足跡には、色々な情報が含まれている。

 歩いていたのか、走っていたのか。

 最近のものか、古いものか。

 もっと言えば、怪我をしているのかどうかすら分かる。


 今回見つけたイノシシの足跡は非常に新しかった。

 おそらく今日……もっと言えば少し前につけられたものだ。

 サイズは小柄で、うり坊から成獣になる途中といったところか。


「いたいた」


 周囲を見回すと、足跡の主を発見した。


「普通のイノシシですわね」


「だな、キメラでも何でもない。可愛らしい個体だ」


 イノシシはこちらに背を向けて、木の根に顔を突っ込んでいる。

 距離があるため、何の意図があってそうしているのかは不明だ。


「悠希さん、あそこの木を見てくださいまし」


「あれは……珍しい組み合わせだな」


 イノシシの近くにある木の上に、大きめのニホンザルがいた。

 その頭にはちょこんとシマリスが座っている。

 微笑ましい光景だった。


「今はイノシシを狩る必要もないし、そっとしておくか」


「ですわね」


 俺たちは移動を再開した。


(思えばこっちのほうに来るのは初めてだな)


 これまでは拠点と川の往来ばかりだった。

 緊急クエストで川を南下した時が唯一の遠出だ。


「悠希さんって、この実験が終わったらどうされる予定ですの?」


 ぼんやり歩いていると、玲奈が尋ねてきた。


「報酬の2000万円で当面を凌ぎつつ就職活動かな」


「え? 内定先の企業は実験を認めてくれなかったのですか?」


 驚いた様子の玲奈。


「いや、俺はそもそも内定を取れなかったんだ。この人手不足と騒がれているご時世に連戦連敗でさー。……って、この話、前にも言わなかったっけ」


「聞いたかもしれませんが、あまりにも信じられなくて忘れたのかもしれませんわ」


「はは。そんなわけだから就活から始めないとな。玲奈のほうはどうなんだ? たしか父親の会社で働いているんだよな」


「そうです。私のほうは特に問題ございません。というより、おそらく大半の企業が認めていると思います。前代未聞の国策ですし、どの企業も非協力的な態度をとって政府に睨まれたくありませんから」


「なるほど」


 そうこうしている間に、目的の崖が近くまで迫ってきていた。


「あれだな、洞窟」


「そのようですわね」


 出入口は小さめで、幅は大人二人分といったところ。


「たしかに外からだと中の様子がよく分からないな」


 俺たちは出入口のすぐ手前から中を窺った。

 広々とした空間が見えるものの、動物の気配は感じられない。

 洞窟内の湿度が高いようで、岩肌の壁は汗を掻いたように濡れている。

 また、ところどころに苔のようなものが生えているのも見えた。


「入ってみますか?」


「そうしよう。リスクがあるから、できればカナリアを先行させたいところだが、ないものをねだっても仕方ない」


「カナリアって、鳥のカナリアですか?」


 玲奈が首を傾げる。


「うん、そのカナリアだよ。炭鉱のカナリアって知らない?」


「存じませんわ」


「カナリアって普段は鳴きまくっているんだけど、危険を察知するとピタリと鳴き止むんだ。だから、炭鉱を探索する時に、炭鉱の労働者は鳥かごにカナリアを入れて連れていっていた……と言われている」


「カナリアが毒の検知器として機能するわけですか」


「うむ」


 そんな話をしつつ、洞窟の奥へ進む。

 毒の危険を考慮したが、特に問題はなさそうだ。

 ただ――。


「本当に何もないな」


「ですわね」


 ゲームなら宝箱の一つでもあるものだ。

 そして実際の無人島なら、コウモリなどの洞穴生物が棲息している。

 しかし、ここの洞窟には何もなかった。


 ただただ広い空間があるだけだ。

 天井は非常に高くて、氷柱の如き尖った岩がこちらを睨んでいる。

 鍾乳洞のような場所だ。


「悠希さん、こちらに道が続いていますわ」


 玲奈が広場の奥を指す。

 細長い通路があったので、俺たちは先に進んだ。


「行き止まりだな」


 だが、すぐに突き当たりまで到着した。

 宝箱がなければ、緊急クエストが発令されることもない。

 かといってキメラや他の動物がいる気配もない。


「何なんでしょう、この洞窟……」


「もしかしたら、拠点にしてもらう目的で作られたのかもな」


 何もない洞窟だが、だからこそ拠点には向いている。

 大人数で過ごせるだけのスペースがあるし、衛生環境も良さそうだ。


「災害時などはここに避難できますわね」


「川が近ければこっちをメインに据えても――」


 そんな話をしている最中のことだった。


 ドゴゴォ!


 突然、洞窟全体が大きく揺れたのだ。


「地震だ!」


 初っ端からとてつもなく強い揺れ方をしている。

 立っていることすらできず、自然と床に伏せる格好になった。


「きゃっ!」


 両手で頭を守る玲奈。


「まずいな……」


 震動が落ち着くのを待つが、いっこうに止む気配がない。

 むしろ強まってきており、天井の岩が崩れるのではないかと思えてきた。


「悠希さん、ここで天井が崩れたら生き埋めになりますわ」


「それはそうだが……」


 地を這って外を目指すか、揺れが収まるまで待機するか。


 ゴゴゴォ!


 悩んでいると、さらに強烈な横揺れが俺たちを襲った。


「どうにかして外に出よう!」


 俺はリスクを承知で判断を下した。

 玲奈の言う通り、このままだと生き埋めになりかねない。

 外は外で危険だから、これはもう賭けだ。

 どう転ぶかは神のみぞ知る。


「行くぞ、玲奈」


「は、はい!」


 二人で匍匐前進をする。

 しかし、ここで新たな問題が発生した。


「悠希さん、先に行ってください!」


 玲奈が全く進めなかったのだ。

 ロングドレスのせいで動きにくいのだろう。


「そんなことできるか」


 ということで、俺は玲奈を負ぶった。

 豊満な胸が背中に当たるが、今は喜ぶ余裕がない。


「しっかりしがみついていろよ。このまま匍匐前進で進むからな!」


「す、すみません……わたくしのせいで……」


「同じ格好なら俺も手こずっていたさ」


 玲奈を乗せた状態で、俺は激しい揺れの中を進んでいく。

 天井から岩が降ってこないことを祈りながら。


 いよいよ出入口が近づいてくる。

 だが、ここで最悪の事態が起きた。


 ドガンッ!


 激しい揺れとともに崖が崩落したのだ。

 それによって、俺たちの目指していた出入口が完全に塞がれてしまった。

 先ほどまで見えていた外の景色が、完全に潰えてしまったのだ。

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