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聖女らしきものたちの暗躍  作者: お伝


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12/18

聖女 ローザリア

一刻も早く。


逸る気持ちを抑え、慌ただしく開かれた議会で、宰相とマークスはブルーノの専横と暴挙を説明した。全会一致で王太子の摂政権限停止の承認を得、国王が帰還するまでの摂政権限を得たマークスは、書類を携えた宰相と共に王宮騎士と衛士を引き連れてパーティー会場へ戻った。


会場の扉が勢いよく開け放ち、王太子の摂政権限剥奪の書状を掲げた宰相とマークスは王宮騎士と衛士を引き連れて雪崩れ込んだ。

加担したものは誰一人逃がさない。


先頭の宰相が、議会は王太子の専横による摂政権限の剥奪と、臨時の摂政に王弟マークスを指名したと書状を掲げて宣言すると同時にマークスの大音声が響き渡る。


「王太子とアッシュベル嬢、そして夜会を開いた関係者全一人残らず捕縛しろ!」


無関係の者は我先にと入り口を目指し、関係者は奥に追い詰められる混乱の最中。


突如、礼拝堂の鐘の音が響き渡った。

単調に4度鳴らされたその音は、聖女が女神の下に召された事を知らしめる合図だ。


その音を聞き、顔色を変えたマークスは捕縛と地下牢への連行を宰相に委ねると、飛び出すように会場を後にした。



◇◇◇

ローザリアを拘束して地下牢に到着した騎士たちは、牢のあまりの劣悪な状況に絶句した。

床に溜まった水の湿気で壁は一面黴に覆われ、かろうじて布であることが分かる汚れたシーツが掛けてあるだけの木の寝台の他には椅子すらない。

暗闇に光るいくつもの小さな光はこの場所に巣くう鼠たちだ。


ここにローザリアを入れれば、たちどころに鼠に襲われてしまう。

この状況に怯んだ騎士たちと牢番は、せめて鼠からだけでも守ろうと、そこにあった残り物の固いパンを牢の隅に投げ入れた。それをめがけて一斉に集った鼠を捕まえて処分し、申し訳なさそうにローザリアを牢に入れて言った。


「少しの間だけ辛抱してください。新しい毛布と、濡れてしまった靴の代わりに丈夫なブーツを持ってきます!」


ちらりと垣間見えた繊細な布製の靴は、床に溜まった汚染された水に到底耐えられない。牢番と騎士たちが持ち場を離れ時だった。


「すぐにここを出ましょう」


外で様子を窺っていたという顔なじみの王弟近衛騎士二人が牢に入って来た。


「我らは王弟殿下より貴方様を救い出して、裏門の馬車までお連れするように命を受けております。さあ、急いでここを出ましょう」


そう言ってこれが命令書替わりですとマークスのブローチを渡された。

代わりに、彼らが私を救い出した証拠となる物をと、髪に挿した髪飾りを二人に託すと、

地下牢を出て裏門を目指した。


しかし、目当ての裏門まであと少しと言う所で衛兵に見とがめられてしまったのだ。

尋問する衛士を相手にする騎士二人の背に庇われながら、一番近くにあった小さな潜り扉に少しずつ近づき、手が届いた扉に手を掛けた。

振り返って見た騎士たちに頷かれ、そのまま扉の隙間から外に出たが、そこから馬車の待っている場所までどうっやって行けば良いか分からなかった。


絶望に立ち尽くしていたローザリアがふと顔を上げると、中央礼拝堂の鐘楼が目に飛び込んで来た。


ローザリアは鐘楼をめがけて駆け出した。



◇◇◇

夢中で駆け込んだ礼拝堂の重い扉がいつも案内してくれているシスターの手で固く閉ざされたことに安堵すると、傷だらけになった裸足で神聖な場所に踏み入れてしまったことに気付き、祭壇の前へ進むことを躊躇してしまった。


(マエへ オススミクダサイ)


目の前の祭壇から微かに聞こえる声にハッとし、胸に下げた印章の指輪を服の上から握りしめて促されるまま足を踏み出し、祭壇の前へ進んだ。

ポケットに大切に忍ばせたあの方のブローチの存在を確かめて心を落ち着かせた。


すると、不意に女神像から声が聞こえた。


「どうしよう動かないわ。壊れてしまったのかしら」


「もしもの時にずれてしまっては大変ですから、この位が妥当かと」


いつの間にか祭壇の後ろに移動して女神像と会話をしているシスターをあっけにとられて眺めているうちに、シスターはあろうことか女神像を押し動かして隙間を作った。


手を取られて隙間に押し込まれると、そこは王宮に負けない豪奢な作りの邸宅に繋がっている。


「どうしよう動かせないわ」


「大丈夫です」


後ろの声に我に返って振り返ると、女神像を元に戻したシスターがこちらに手を出している。その手を取ると、シスターは膝を折って私の手を捧げて言った。


「私はエレノアと申します

嘆きの碑に最初に名を刻まれた元子爵家の娘です。家名はございません」



◇◇◇

うっすらと白む空に山の端から日の光が射したその時、中央礼拝堂の大鐘の音が厳かに王都中に響き渡った。

単調に4度鳴らされたその音は、聖女が女神の下に召された事を知らしめる合図だった。


寄る辺ない無辜の乙女の清らかな祈りにのみ開かれる女神の扉

その扉の向こうに召されたものは聖女と呼ばれこの世に戻ることはない。


召された無辜の乙女は誰なのか。


王太子ブルーノ殿下が主催した婚約者であるリンデル侯爵令嬢の誕生日を祝うパーティーで、その婚約者の侍女であるマノン・アッシュベル伯爵令嬢とそろいの衣装でその腰を抱き、べったりと張り付けた王太子ブルーノ殿下から婚約破棄を宣言され、更に地下牢への収監を命じられたローザリア・リンデル侯爵令嬢。

度重なる冤罪や醜聞にも毅然と無実を訴え続け、家門の令嬢・令息の名誉を守り抜いた。


収監後まもなく地下牢から忽然と姿を消したという看守からの報告は、その日の内に王宮から社交界へ瞬く間に広がっていった。


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