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聖女らしきものたちの暗躍  作者: お伝


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13/32

ルーファスの決意

◇◇◇

鐘の音は告げる。

姉の最期の意思を心に刻めと。


ルーファスは、王弟殿下からの緊急の使者から知らせを受け、そのまま宿を飛び出してきた。

空が白み始め夜明けが近い。眼下に捕らえた王都の城門に辿り着くまでもう間もなくと逸る気持ちにさらに手綱に力を込めて馬を駆る僕の耳に、遠く厳かに響く大鐘の音が届いた。

聖女が女神の御許へ召された事を知らしめる大鐘の音。


まさか!


それでもなお一縷の望みに掛けて馬を疾走させた。

辿り着いた王宮で姉が忽然と姿を消したことを知らされ、案内された地下牢の前で僕は絶句した。

姉が元婚約者の王太子の命で最期に過ごした場所は、床にはあちこちに水が溜まり壁は一面黴に覆われ、かろうじて布であることが分かる汚れたシーツが掛けてあるだけの木の寝台の他には椅子すらなく、恐らく投げ入れられたのであろう小さな固いパンは、半分が床の水につかってふやけ、それに鼠が数匹集っている。

呆然と立ち尽くす僕の背後から、王弟マークス殿下を先頭にした一行がやってきた。


王弟殿下は、拘束され猿轡をかまされた王太子ブルーノ殿下とその不貞相手のマノン・アッシュベル伯爵令嬢を目の前の地下牢に放り込み、国王陛下が視察先から帰還するまでここに留め置き厳しく監視するよう命じると僕に深く一礼し、王太子が姉に数々の冤罪を掛けた事と爵位簒奪を企てていた事、更に地下牢に収監するという暴挙を防げなかったことを詫びた。


王弟殿下は僕を執務室に招くとすぐに母のロベール女子爵から送られてきた爵位継承の書類に議会承認と摂政の印章を押すと、即刻貴族院へ提出し即時施行するよう側近と文官たちに命じて各所に送り出した。

本日の日の出と共に僕は成人し、先ほどの書類の提出で正式にリンデル侯爵位を継承した。

それと同時に父は侯爵代行の任を解かれ平民となった。


城門に共に入った従者と領兵には親書を持たせて旧リンデル侯爵邸に向かわせている。今頃父とその妻であるあの女は侯爵代行として許されていない資産横領と職権乱用の罪により、新リンデル侯爵邸の地下牢に収監されている頃だろう。

旧侯爵邸の使用人は下働きの者たちも含め、誰一人として邸を出られない様に周囲を騎士たちが囲んでいる。


王弟マークス殿下は執務室で二人になると、パーティーが始まってすぐに君と陛下に早馬を出したが間に合わず本当に申し訳なかったと、そう言って改めて深々と頭を下げた。


「地下牢に向かったリンデル嬢を何とか取り返そうとしたが、議会で王太子の摂政権限停止の承認が降りるまで手出しが出来ず、近衛騎士を向かわせたがあと一歩の所で収監が実行されてしまった。

あんなところに一秒だって置いておきたくなかったのに本当にすまない。

何とか救い出す事が出来て、エーヴェル王国の元女伯が待っているところに送り届けるはずだったのに、彼女の向かった先は中央礼拝堂だった」


収監前に姉を救い出して迎えの馬車に乗せるように指示を出し、自身は王太子と不貞相手の令嬢、そして大小問わずその冤罪に加担した者たちを悉く捕縛した。

夜明けと共に鳴り響いた鐘の音に、まさかと思いながら宰相たちに後を任せて礼拝堂に駆け込んだ時には、もう既に聖女像に姉ローザリアの名が新しく刻まれていたそうだ。


リンデル嬢の救出は私自身が行うべきだったと後悔を滲ませ、助けられなくて済まないと王弟殿下は何度も何度も呟いていた。


「姉は、たとえ冤罪が晴れたとしても一度社交界に広まった疑念や偏見が完全になくなることはないと考えていました。その事がリンデル侯爵を継承した私の瑕疵になるとも思っていたようです。それに、聖女として召された事で姉が今まで描いた肖像画は、罪人の描いた絵として打ち捨てられることなく、寧ろ聖女の描いた遺物として今まで通りそれぞれの場所を飾ることが出来ます。姉は自分を慕い、祖父母亡き後も支え続けてくれた一門の令息、令嬢たちの立場を悪くしてしまう事を一番に心配していましたから。どうかお顔を上げてください。私は、あの場所から姉を救い出して下さっただけで本当に感謝しているのです。」


「それでも、私は彼女にこの世に留まって欲しかった。必ず彼女の元へ行くと約束したんだ」


憔悴しきって髪飾りを両手で包み込み、呟いた王弟殿下の言葉は私の心に温かく響いた。

王宮内で孤軍奮闘してきたと思っていた姉に、こんなにも心を砕いてくれていた人がいたことが心底嬉しかった。

真心を通じ合わせた二人がどこかで幸せになる未来もあったのに。



それと同時に激しい憎悪が沸き上がる。

父とあの女、婚約者でありながら姉を陥れて冤罪を被せ醜聞を流し続け、あろう事か劣悪極まりないあの地下牢に収監した王太子とあの女の娘は、両侯爵家一門を挙げて決して許さない。

当然、阿り協力した下位貴族など跡形もなく消えてもらう。

国内の混乱など知った事ではない。それを治めるのは元王太子の愚かしい行動を諫められなかった国王の仕事だ。


そして、それが叶う身分と立場を守ってくれた姉が側に居ない事が何よりも辛く悔やまれた。


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