第10話 計画の遂行といろいろな準備
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少し整理しよう。私が生きていた時代からすでに200年がたっていること。軍本部も現時点では私のことを把握していないこと。しかし、昇進したことで、何らかの調査が行われる可能性がある。
国のために戦い国のために死を覚悟した私を、裏切り者として汚名を着せ、懸賞金まで懸けるこの国に対し、忠誠心はもうなかった。今ある目的は、なぜ私に裏切り者の汚名を着せたのかその理由を知ることと、愛する恋人と娘と安寧を得ることだけである。
とりあえず、首都シンキョウトで私に関する調査を実施するとともに、逃走のための軍資金確保と逃走先を見つけることが優先順位の高い目的である。ありがたいことに軍資金と逃走先にはめどが立っている。
更に軍からもらえた報奨金は携帯端末に入金されている。この時代では現金はなく、すべて端末により決済される。これだけあれば、しばらくは大丈夫だが、行動経路が補足されるし、逃走にはもっと多くの資金が必要だ。とりあえず、まずは軍資金の確保をしなくては。私はあらかじめ確認していた宇宙艇のレンタルショップに向かった。
「ヤタくん~どこいくの~」アイ達が声をかけてきた。
「もしかして、奥さんか婚約者に会いに行くの?私たちのことを紹介してくれるのよね?」ミィが言った。
「お別れなんて言わないよな」マイが腕に縋り付いてきた。
ちょうどいい機会だ。アイ達に私の秘密について話をしよう。
「ちょっと三人に話があるんだけどいいかな」
「ふ~ん。するとヤタは九頭一史大尉本人だというだな」マイが言った。
「ヤタ君~疲れているの~すこし休もうよ~」アイが心配そうに言った。
「あんた頭大丈夫?」ミィが冷たい声で言った。
「まあ、そういう反応になるよな。とりあえず、この話は置いておいて、とりあえず旅行に行くことにしたのだけど、アイ達はどうする?」
「どこへ行くのかな~」
「サイパン。独立戦争のとき大きな宙戦があった場所だ」
「サイパンか~いいかも~」アイさんはにこっとしながら言った。
「おいおい、サイパンかよ。ヤタも気が利いているな」マイはにやにやしながら言った。
「ほんとスケベね。あんたって。まあ、いいけど」ミィは顔を赤くしながら言った。
古戦場にいくのになんかみんな変な反応だが、どういうことだろうか。私は思った。
「サイパンって何かあるのかい?」
「結婚したばかりの夫婦や結婚前の恋人が愛を深めに行く場所よ」ミィが顔を赤らめながら続けて言った。
「男女の愛を深めるアトラクションや観光地が用意され、きれいなホテルとおいしい食事もあって人気の観光地なのよ」ミィは照れたように言った。
「そんなところに俺たちを誘うなんて、こりゃプロポーズされそうだな」マイはにやにや笑いながら言った。
「報奨金で連れて行ってくれるの~ありがとう~一生の思い出にするね~」アイがニコニコ顔で言った。
そんなことになっているとは思いもしなかった。
「ごめん。実はその場所にいかなくてはならない用事があるんだ。目的が終わったら遊びに連れて行ってあげるけど」私は申し訳なさそうに言った。
「用事があるってなに?」ミィが言った。
「それは行ってのお楽しみ」
ミィの提案で小型宇宙艇を購入した。定期便も出ているが、事情があって自由に行動できることが望ましかったので、船を調達することとした。最初はレンタルしようと思ったが、借りてもかなりかかるし、サイパンまで行くとなると保険料も相当な額になるらしい。かえって買ったほうが安上がりだったりするそうだ。
サイパンまでは多少距離はあるが、危険は全くないらしい。
宇宙航行は特に問題なく進んだ。
サイパン海域の手前で航路からはずれ、小惑星帯に入っていった。
「ねえ、どこ行くの~」アイが言った。
「ここって独立戦争の時、独立軍がサイパン海戦で大敗した時、本隊の撤退を助けるため、殿部隊が立てこもって抵抗し、玉砕したところよね」ミィが言った。
「へぇー詳しいな。勉強したのかい?」私はミィに聞いた。
「いいえ、勉強というよりうわさで聞いたの」とミィは答えた。
「噂?」
「ここ、すごく有名な心霊スポットで、ネットを見ればいの一番に乗ってくるところよ」
「俺もネットで見たことがある。ミサイルやレーザー砲を打ち尽くしたあと、敵艦に特攻して敵を足止めしたんだろう」マイが恐る恐る言った。
「私も読んだことあるよ~この小惑星帯では特攻した兵士たちの叫び声が聞こえるって~」アイがぶるぶる震えながらいった。
「死んだ兵士たちが、仲間を求めて宇宙を漂っていて、見つけた船を沈めようとするって聞いたことがあるわ」ミィは冷静に声でいった。しかし手足は震えていた。
「この小惑星帯で肝試ししていた連中に何もないところからいきなりレーザーが飛んできて危うく死ぬところだったという話を聞いたことがあるぜ。そのあと声がして、「何で当たらない~」と聞こえたそうだ」マイはそう言って、私に振り返っていった。
「ヤタ、こんな所に何の用があるんだ。早く出ようよ」
「私は200年前ここにいたんだ」質問には答えず、私はそう答えた。
「「「え!」」」
宇宙艇は小惑星帯を進んでいった。この辺りは放置されているらしく、あちこちに船の残骸が浮かんでおり、おどろおどろしい雰囲気を出していた。
奥へと進んでいくと、200年前に戦死した兵士の手が腐ることもなく、ミイラ化したままゆらゆらと漂ってこちらを招いているようだった。
アイ・マイ・ミィの三人は、叫び声をあげながらプルプル震えていた。
しばらく進んだ後、とある小惑星に着陸した。
「ええと、たしかここに暗号を打ち込むと開くはず」
宇宙艇についているマジックハンドを使って暗号を打ち込むと岩盤がゆっくりと開き、中に入れるようになった。
「なかにはいるよ」みんなに声をかけたが、返事がなかった。まあいいやと思い、中に入っていった。
「うん、昔のままだな」私は独り言をいった。
「これはどういうことだ」マイは震えた声で訪ねてきた。
振り替えるとアイとミィは硬直していた。
「これは、超大型武装輸送船みずほという船だよ」
「ちょっと待って。みずほって聞いたことがあるわ。たしかヤマト史上最大の船で、独立戦争時、サイパン海戦で沈んだときいているわ」ミイが言った。
「詳しいじゃないか。どうして知っているんだい」私はミィに行った。
「だってあなたよく独立戦争のこと調べているじゃない。私もすこし手伝おうと思って」ミィが照れたようにそっぽを向いた。なんかかわいい。
「サイパン海戦は偶発戦なんだ。本来はヴィシー要塞の近くまで進出し、敵に奇襲攻撃をかける予定だった。ところが、当時の指揮官のミスで情報が洩れ、地球軍がここサイパンで待ち伏せ独立軍は惨敗したわけだ。その際、みずほは後方にいて直接戦闘に巻き込まれなかった。それで生き残りの部隊でみずほをここに隠し、デコイを敵に沈めさせたんだ」
「その生き残り部隊も追撃してきた敵と交戦し、そのほとんどが戦死したよ。生き残ったのはわずかだった。独立軍司令部は起死回生の作戦として神風特別攻撃隊による特攻作戦を実施、生き残った者はすべて桜花隊に編入された」
「えっどういうこと。桜花は志願者で編成されたって」ミィはいった。
「いいや、建前的には志願だけど、ほぼ命令だよ。だけど、命令がなくても志願したと思うけどね。なにせ仲間のほとんどが戦死して、生き残ったことを恥と考えるものが多かったし。同志よ、我々もあとから行くぞ、という感じかな」
「ヤタはどうしてそんなことを知っているの~」アイは尋ねた。
「200年前の独立戦争、その時私は軍にいて戦っていた。前にも言ったとおり、自分の本名は九頭一史、階級は大尉、神風特別攻撃隊副隊長だった男だよ」
「その話。本当だったの」ミィは震える声で言った。
「噓をいう必要もないし、その意味もないよ」そういって、今までのことを話し始めた。
三人とも黙って聞いていた。
「さて、三人共私の秘密を知ってこれからどうする?」
「あなたは裏切り者として、ヤマト政府に追われているのよね」ミィは言った。
「そのとおり」
「私はヤタ、九頭君って言ったほうがいいのかな~、についていくよ~」アイは言った。
「俺もだ。好きになった男だ。一緒に付き合うよ。でも、ヤタは200年前の人間だったんだ」
「おじいちゃんは嫌いかい」私は冗談めかして言った。
「いいや、全然OK」にゃって笑ってマイは答えた。
「二人がそのつもりなら私も付き合うわ。ところでこれからどうするの」マイはあきれたように言った。
「この輸送船には莫大な物資と、軍資金として希少鉱石が積まれている。それらを換金して、惑星開発用の機器を手に入れる。実は私は軍に入る前は惑星開発公社にいて、居住可能惑星の探索や開発の仕事をしていたんだ。その仕事をしているとき、飛び切り優良な居住可能惑星を発見してね。公社に報告する前に戦争がはじまって、そのままになってしまった星があるんだ。現在の星図を見ても載っていないので、おそらく再発見されていないと思う。そこに行こうと思っている」
「すぐに行くの~」アイが言った。
「いいや、とりあえず、シンキョウトでなぜ私が裏切り者扱いされることとなったのか調べてから行こうと思っている。まあ、その前にバカンスを楽しんでもいいと思うよ」
「やったー。とりあえず遊びだな」マイが喜んで声で言った。
「まだ、捕まる気配もないし、報奨金もまだかなりある。みずほも見つけたし、こいつの中身を換金しながら、サイパンでゆっくりするのもいいだろう」
「その仕事私が手伝うわ。換金できるもののうち、重要度の低いものから売って、惑星開発の機器を買えばいいのね」ミィが言った。
「ミィ、手伝ってくれるのか。どうもまだこの世界の相場やら売買の仕組みがよくわからなくて。助かる」私はミィに頭を下げた。
「任してちょうだい。そういうのは得意よ」ミィはどや顔で言った。
そして四人はサイパンに向かった。
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