6(return to world)
無事ポータルを潜ったかゆとれいは狭間世界に戻って来た。周りは移動する前と違いが無いゲーム部の部室である。二人して一息ついていると、声がかけられた。
「お疲れ様ですわ。お二人とも。」
「あ、ゼロ。」
二人に向かって歩いてくるゼロは相変わらず本を手に持っており、微笑んだ顔からは感情は読み取れない。れいがゼロを見て話しかける。
「た、ただいま。ゼロ。」
「おかえりなさいですわ。れい。」
「えっと、雰囲気…変わった?」
「こちらも色々ありましたもの。いくら時の進みが遅いこの世界でもある程度時間は立っていますわ。」
「どれくらい?」
れいが聞くとゼロすぐには分からないのかは少し考えてから答える。
「1年近く、かしらね。」
「1年!?」
れいが驚く中、かゆはゼロに質問を投げかける、
「つまり、ゼロが生まれてからまだ一年しか経っていないって事?それにしてはゼロの雰囲気は普通の人とはかなり違うと思うけれど。」
「そうね。私はこの世界ではまだ1歳という事になりますわね。」
「それって…」
かゆはその言葉の意味がゼロが過ごしたのは1年ではないという風に感じた。
「まぁとりあえず二人とも戻って来たことだし、しばらくはゆっくりしていなさい。私も少しはゆっくりしますわ。」
ゼロが部室の出入り口とは別の扉に入ろうとする所をかゆは呼び止める。
「ねぇ!元の世界に戻す話は!」
「あら?まだしばらくは戻らないのでしょう?れいに色々教えてくれると言ってくれたものね。」
「うっ…。」
確かにかゆはれいを説得する為、生きる事の良さを教えるつもりだった。
「それにあなたと一緒にいた、ギル…だったかしら?彼、今あなたの知っている世界に居ませんわよ?」
「えっ?」
かゆは訳が分からなく思考が止まる。そんなかゆに気付いているのかいないのか、ゼロは続ける。
「どうやら何らかの手段で偶然世界を移動してしまったみたいですわ。」
「それって…大…丈夫なの?」
「どうかしら?移動した世界によりますわね。」
「は、早く探さないと。」
かゆはどうすればいいか分からずオロオロし始める。
「安心なさい。私が今全力で探していますわ。だからあなたはれいともっと話をしていてもらえるかしら。れいと話すのはあなたが適任ですもの。よろしくお願いしますわ。」
ゼロのその発言はかなり力がこもっているようであった。ゼロは言い終えたのか扉の先に消えていく。
(ゼロだったら大丈夫かも。大事になる前にきっと見つけてくれる。)
ゼロと出会って間もないかゆだったが、経験上からゼロという人物は信用に足ると判断していた。
「ねぇ、かゆさん。元の世界って?」
れいが先程の話を聞いてかゆに説明を求める。
「私は元々別の世界に居たんだけどゼロに呼び出されたみたいなんだよね。自分では戻る事できないし、ゼロから依頼されてれいちゃんの事助けに行ったんだ。」
「それは、いずれは元の世界に戻るという事ですか?」
れいは少し不安そうに言う。
「うーん、どうだろう?帰りたくないって事は無いけど、どうやら私の身内がその世界から移動しちゃったみたいで、ギルっていう子なんだけど私の弟子なんだよね。その子を先に見つけないと。」
「弟子ですか?一体何の?」
「うーん、剣術?」
「…確かに帰って来る時凄かったですね。」
「まぁ、私としては実際の所旅仲間って感じだけどね。」
「そうなんですか。じゃあその子が見つかったら?」
「うーん?まぁ、ギルが見つかってもしばらくこの世界に残るよ。ギルと合流できれば別に急いで元の世界に戻る必要も無いしね。」
「えっと、家族…とかは?」
「私捨て子なんだ。それに育ててくれた両親も子供の頃に居なくなっちゃった。ギルも同じく家族は居ないから大丈夫。」
かゆは手をひらひらさせて明るく振る舞うが少し寂しそうに見える。
「…ごめんなさい。」
「だ、大丈夫!大丈夫!気にしてないから!でも、ギルは今私が守りたい物の一つなんだ。だからそこら辺は分かってて欲しいかな。」
「うん。分かった。」
二人は互いの顔を見て笑い合い、話題を変える事にした。
「れいちゃんの事何か教えてよ。全然知らない事だらけだから。」
「えっと。色々考えるからちょっと待ってて。」
そしてれいが考え込んで数分後、
「大体考えたから、言ってみていいかな。」
「はい!どうぞ!」
「えっと、私の名前はしらもり れい。特技?は材料から過程を飛ばして完成品を錬成する事。好きな事は音楽を聴く事と料理を作る事。好きな食べ物はご飯…です。おかずはあってもなくてもかな。」
「はい!質問!」
「ど、どうぞ。」
「特技を実際に見てみたいです!」
かゆは目をキラキラさせながられいを見ている。その視線に少し身を引きながらもれいは材料を探す。部室内を見渡し、ふと目に留まったのは入り口付近に見える水たまり。れいは水たまりに近づき手をかざす。すると、水たまりが白く輝きを放ち、輝きが収まるとそこには氷の塊が出来ていた。
「水は温度が下がると氷になるし、温度が高くなれば蒸気になる。常識だよね。」
「おぉ、凄い!冷やした感じでも無かったのに氷が出来てる。」
「簡単な所でこんな感じかな。料理も飛ばそうと思えば飛ばせるけどあまりそうする事は無いかな。」
「どうして?」
「さっき言ったけど料理を作る事自体が好きなの。過程が大事だからね。」
「へぇ~こだわりがあるんだね~」
「ふふっ、そんな所。」
話をするれいはとても楽しそうだ。かゆはその事をれいに伝える。
「れいちゃん、とっても楽しそう。」
「そ、そうかな。」
「そうだよ。これじゃあとても生きる事を諦めてた人には見えないなぁ。」
「ちょ、ちょっと恥ずかしい…かな。」
れいは照れながらも言い返す。
「かゆさんが居るからですよ。かゆさんが居てくれるから私もなんか元気がもらえている気がするんです。」
「う、うみゅ~。何だかこっちも恥ずかしくなってくるね。」
二人はお互い照れて少し間が開く。
「…そういえば名前の呼び方、かゆでいいよ。」
「え?でも…。」
「私達、友達でしょ。気軽に呼んで欲しいな~なんて。」
「とも…だち…。そっか…友達。」
「そう!友達だよ!」
「…ありがとう。うん。分かった。これからはかゆって呼ぶよ。」
「よーし!じゃあ呼んで!」
「かゆ。」
「はい!私も!れいちゃん!」
「…うん。」
その後二人はお互いの名前をしばらく呼び合った。それを戻って来たゼロに見られニコニコされて二人とも顔を赤くしたのはちょっとした思い出になった。




