2.コメントがキツイ(2回目)
放課後、僕は彼女――校條史佳を屋上に呼び出した。
僕が二人きりで話がしたいなんて言ったもんだから、史佳は告白されると勘違いしたかもしれない。
実際、史佳は僕と目を合わせずキョロキョロと辺りを見回していた。そしてその頬を染めている。
僕の史佳の関係性から鑑みれば、確かにそう思っても無理はないかもしれない。
彼女にとって僕は唯一の異性。幼い時からずっと。
史佳には男っ気と言うものが一切ない。僕以外の男子と話をしているところを見たことがない。
異性という色眼鏡を抜きにしても男と会話がないというのは異常だ。
それに容姿端麗、富豪の娘、成績優秀、スポーツ万能、器量良し、と役満クラスの条件が揃ってる。星の数ぐらい男が寄って来てもおかしくない。
そうならないのは――高嶺の花過ぎるからだ。
史佳はお嬢様、彼女と付き合った後のことを考えるとどんなチャラ男でも手を出せないのだろう。
仮に付き合えたとして、史佳とのあまりの差に劣等感を覚えるはずだ。
幼馴染の僕ですら感じているのだから、彼氏となれば強烈なものになるに違いない。
むしろ僕が雲の上の存在の史佳と、こうして話ができるのは奇跡に近い。
お互い立場というものを理解していなかった時に、知り合ったのが大きかった。
あの時は、史佳がお嬢様なんて僕は欠片も思ってもいなかったのだ。幼馴染様様というやつだ。
「あのさ――」
「
うん、もちろんオッケーよ! 私みつが告白してくれるのずっと待ってたんだから!
土曜日空いてる? 空いてるわよね? 早速デートしよ!
うちが経営してる遊園地があるんだけど、そこで遊びましょ。
安心して、ちゃんと貸しきりにしておくから。並ばなくてもすぐに楽しめるわ。
そうね、最初はお化け屋敷。怖いお化けが出てくるから、手を繋いで見て回ろうよ。
ふふふ、暗いところで男女が二人きりなんてお誂え向きじゃない?
やっぱり最後は観覧車よね。最高のシチュエーションだし、降りる前に絶対キスしましょ!
」
僕の言葉を遮って、開口一番に飛び出したのはデートプラン。やっぱり史佳は僕が告白するものだと思い違いをしていた。
正直に言えば、史佳と付き合えるならば付き合いたい。
これほどのスペックを持つ女の子は世界中どこを探してもいないだろう。いたとしても顔を拝むことも僕には難しい。
史佳は僕のことを好いてくれている。僕も史佳のことが好きだ。
彼女にとって僕が唯一の異性であるように、僕にとっても史佳は唯一の異性。他に女の子の知人なんていない。
何も問題はないように思える。だけど、僕は史佳と比べ圧倒的に劣っている。
このままだとヒモのようになってしまう。史佳の恋人になるのは、釣り合いがとれるようになってからだ。
そもそも動画を投稿したのだって、人から褒めてもらうことだけが目的じゃない。史佳に相応しい男と呼ばれるようになるために―――。
いや、今は止めておこう。まずは誤解を解かないと。
「ご、ごめん……実は史佳にお願いがあって屋上に呼んだんだ。告白するつもりはなくて……」
「え?」
史佳が目を丸くする。
「…………!?」
暫く硬直したあと、史佳は自分が早とちりをしてしまったことに気付いたようだった。
羞恥の余り、さきほどとは比較にならないくらい、茹で上がりそうなほど顔を赤らめる。
「わああああああああ!! さっきのナシ! なかったことにして!」
「う、うん、わかったよ」
恋愛事の勘違いはよくあることだとは言え、穴があるなら入りたい気分なのだろう。心が痛い。本を正せば僕が原因なのだから。
「それで、お願いって?」
さっきのことは二人ともきっぱりと忘れ、取り繕うように史佳が聞いてきた。
「実は――」
僕は動画を投稿し始めたこと、投稿した動画に罵詈雑言が溢れていること、そして再生数はそれほど悪くないため投稿は止めたくないことを史佳に話した。
「何だ、そんなことか。みつは動画に辛口なコメントが書かれないようにしたいのね?」
「そうなんだ。史佳なら何とかできるかなって思って……」
「分かったわ。多分いい感じにできると思う」
「ありがとう!」
★★★★★
家に帰り、僕はいつものようにパソコンを立ち上げる。
動画サイトにログインし、あらかじめ編集しておいた動画ファイルを選択した。
アップロードをする瞬間、これが一番ドキドキする。何回やってもこれは慣れることはない。
やることはマウスをクリックするだけ。でも、全世界に自分の作品を公開するのだと思うと緊張する。
見てもらえるのか、とんなコメントがつくのか、それを考えると不安は尽きない。
史佳は大丈夫だと言ってくれた。きっと問題ない。
カチッ!
そう自分に言い聞かせ、僕はボタンを押下する。
マウスをクリックした音は、僕の心配とは裏腹に無機質なものだった――。
――コメントが書かれました!
@あーるおでん大根 : こんな動画があるなんて知らなかった。面白すぎる!!
滑り出しは順調だ。投稿して、数分も経たない内に称賛のコメントが届いた。
――コメントが書かれました!
@猫ふりゃ~MKV : 投稿主様の見識の深さに驚きました! それにお声がとても素敵で聞き入ってしまいます!
えヘヘ、照れるなぁ。
――コメントが書かれました!
@ゴリラキースZZZ : なるほど、ここに神がいたか。凄すぎて評価ボタンを二回押しちまったよ。
え? それ評価消えてない?
――コメントが書かれました!
@ガスマスクの非常口 : 流暢な話し方、飽きさせないトークスキル、投稿主様はきっとイケメンなんでしょうね(^.^)
そんなことないよ。普通の顔だよ、普通。
――コメントが書かれました!
@ミートボールパイ : あなたの動画の中毒になってしまいました。私はもう、あなたから離れられない。どうしてくれるの?
…………。
――コメントが書かれました!
@まるまるまるしかく : ダメ! 投稿主様が神過ぎて私耐えられない! 主様が愛おしすぎて私死んじゃいそう!
………………。
――コメントが書かれました!
@めもりーずあいあいあい : 投稿主様好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き!!
……………………。
史佳のおかけで、確かに僕を貶すコメントは書かれなくなった。動画のコメントは僕を絶賛するものばかり。
嬉しい……嬉しいんだけど……。これはこれで――。
キツイ――。




