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腰掛け公爵令嬢のモットーは  作者: nobu
王都 御令嬢いちねんせい編
20/70

幼き日の

「コーネリア」

「おはようございます、アルバート様」


朝食を終え部屋に戻ろうと階段に差し掛かったとき、通りがかったアルバート様に声をかけられた。

私を探していたのかもしれない、御当主様によく似た双眸には安堵の光が見え、何かあったかと疑問に思う。


「おはよう。相変わらず早いな」

「いえ…どうされましたか」


アルバート様は私の顔を覗き込むようにして広い背中を丸めた。

じっと見つめられるが意図が分からずきょとんとしていると、満足したように頷いた。


「いや、最近忙しそうだったが顔色は悪くなくて安心したよ。無理は言われてないか」


思いがけない言葉に目を瞬く。


「…いいえ。お気遣いいただきまして」

「陛下の誕生パーティの準備は順調?」

「はい。分からないことばかりですが、クライヴが助けてくれています」

「そうか。まあ当日は父上も私もいるから安心して。同じくらいの他家の子達も参加するんだろう、楽しむといい」

「はい、有難うございます」


頷くとぽんと頭に手を置かれた。

なんでも、高位貴族ともなると当主夫妻及び嫡男はこのガーデンパーティにほぼ強制参加らしい。寄宿学校を卒業した後は連日続く夜会にも出なければいけないという。

今回の夜会にはフレドリックも引きずって行く、と奮い立つ姿に笑いを噛み殺した。

気づけばアルバート様も優しげに笑っていたが、少し迷ったような様子を見せた後伺うように私に視線を向けた。


「あー…それで、コーネリア。クローディアの誕生日プレゼントの話なんだが」

「…?はい」


急な話題にはて、と首を傾げるとアルバート様は言いづらそうに言葉を選んだ。


「クローディアに刺繍を贈ると聞いたよ。リジウェイ夫人に習っているんだって?」

「はい、明後日また来ていただく予定です。…なにか」

「いや、そうか。ええと、手巾とか?君はまだ刺繍なんてやったことないだろう」


話が見えず素直に頷くと、アルバート様はそわそわと落ち着かなそうに視線を動かした。それほど一緒にいる機会が多いわけではないが、鷹揚とした様子しか見たことがなかったため驚いた。

どうされたのですか、と声をかけようとした時アルバート様が口を開いた。


「…その、嫌でなければなんだが。あとで私にも刺繍を贈ってもらうことはできるだろうか」

「…は、い」


はい?と語尾が上がりそうになるのを無理矢理止めたら承諾の返事となってしまった。

するとアルバート様はぱっと表情を輝かせた。

あ、だめじゃない、これ。


「本当か?ありがとう」

「…いえ。でも、どうしてまた。私は本当に習ったばかりなのですが」


あどけなささえ感じられる嬉しそうな表情を見て撤回の言葉は喉の奥で消えていった。あれで断れるやつがいるならここに連れてきてほしい。


流れに逆らえずお断りの言葉を口に出すのは早々に諦めたが、それにしたって理由がよく分からなかった。

まだ練習布を卒業したばかりの超初心者で、そもそもクローディア様の贈り物を間に合わせるための特急コースで習っているのだ。

出来栄えやスピードを期待されているのなら代替案を用意する必要がある。そう思って尋ねると、アルバート様は照れ臭そうに笑った。


「笑ってくれて構わないんだが。なんというか…壮大な憧れと言うべきか」

「そうだいな、あこがれ」


フィッツロイ公爵家の嫡男から階段下の立ち話にそぐわない単語が出てきて思わず復唱する。

アルバート様は気にした様子も見せずに続けた。


「ああ、幼い頃フレッドと二人でよく話をしていた。妹がほしいなって。妹ができたらああしよう、こうしようって計画を立てて、母上は可笑しそうに笑っていたが」


ああ、と心の中で声を上げた。

アルバート様とフレドリック様の御生母様は既にお亡くなりなっている。病に臥される前の温かな思い出なのだろうか。


「妹の手製の刺繍はそんな計画のなかでも上位のやつでね。贈ってくれるのは幼いうちだけだろうな、とか、想い人に贈るようになったらどうする、とか。はは、今考えると妄想だな。すまない、こんな話をして」


首の後ろに手をやるアルバート様がお可愛らしく、思わず微かに笑みを浮かべていた。いいえ、と首を振る。


「私でよろしいのでしたら、喜んで。クローディア様への刺繍が完成した後になりますが、是非アルバート様とフレドリック様へ刺繍を贈らせてください」

「とても嬉しい、楽しみにしている。…フレドリックの分は別にとも思ったが、後で見つかったらあいつは絶対ぐちぐち言うから、助かるよ」


忙しそうなのにこんなこと頼んですまない、とも続けられ、もう一度首を横に振る。

アルバート様はお兄さんの顔をしていてとても好ましかった。クローディア様が大きくなったら、きっと大喜びで刺繍しちゃうと思う。


「いいえ。でも、精一杯頑張って刺しますが、本当に拙い出来なのです。習い始めた幼な子の手とお目溢しくださいね」


とはいえ、予防線はしっかり張らせてもらいました。

リジウェイ夫人に相談しよう。

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