自己主張の激しい百合
間引かれた百合の苗は優美な硝子の花瓶に挿され、私の部屋にしばらくの間飾られた。
少しずつ蕾を膨らませる姿に、大変珍しいことにメイですら気を引かれていた。
しかし美しい花を咲かせたのはほんの少しのこと。最終的には百合の花の形をした美しい石へと姿を変え、人の目に触れにくい机の引き出しに仕舞われている。
非常に反省している。
公爵家の養い子となっておよそ一年、日々を過ごすのに懸命になりすぎてうっかりしていたが、私一応精霊の娘でして。植物とは非常に親和性が良いのだ。
それに気付いたのは、花瓶に生けられた百合を受け取り一人で眺めていた時だった。
「きみはどんな花が咲くのかな」
メイは家令に呼ばれ席を外していた。
美しい硝子の花瓶は深い青が流線を描いていて、堂々とした百合ととても合っている。うっとりと見つめながらついつい話しかけてしまったのは、色々迷いもしたが百合を手に入れたことが嬉しかったのかもしれない。
ふと、視界の端で蕾がふるりと震えた気がした。
見間違いか、と一層じっと見つめていると、固く小さな蕾がむくむくと膨らんでいき、蕾を縁取るガクが解け、とろりと濃密な芳香が漂ってーーー
「まって、まって、ストップ」
なんで咲こうとしてるの、おかしくない!?とつっこめば、開きかけた花弁は暫し動きを止め、そして逆再生でもするように蕾に戻って固く身を縮こまらせた。
明らかに私の言葉を理解している動きに、古森の花々を思い出す。直感的に気付いた。これはやってしまったと。
それを裏付けるように、百合はその小さな姿の中に不釣り合いなほど濃い魔力を湛えていた。
「うわあ…放っておいたら凝集して魔石にでもなりそうだよ」
ぽつりと何の気無しに呟いた一言がトドメだったと今では分かる。声を掛けたことがきっかけなのだから、不用意な発言は控えるべきだった。
でもさ、そんな荒唐無稽な思いつきを(百合が)聞いて、ああじゃあそうしますって(百合が)なっちゃうとは思わないでしょう。
いや、今は非常に反省しておりますとも。
ちなみにフライングしたことなどなかったかのように少しずつ少しずつ膨らみを大きくしていった百合は、たまに人目のないところでつん、と茎をつつけば照れるように葉をくねらせるようになった。
一応私とそれ以外を区別しているようで、メイがいるときなどはスンとしているのが余計に腹立たしかった。
また自己主張が激しく蕾の頃から濃く甘い薫りを放つので、髪や肌に匂いが残ると文句を言ったら、濃厚な甘さから瑞々しい清らかな甘さに変わり、近付かなければ気にならない程度になった。清楚な花だと思っていたけれど、生き残るために必死にゴマをする姿が重なって見えて閉口した。
さてそれから数日後、花瓶に挿した一つの苗から大小様々な大きさの花が一斉に咲いた。
花弁はとろりとした乳白色で透き通るような、発光するような白さ。中央が黄色く輝くグラデーションで大層美しかったが、メイが「こんな百合、庭に咲いていた覚えがないのですが」と困惑していて頭痛がした。
自己主張激しすぎなんだよ!と内心罵詈雑言の嵐だったが、「珍しい苗が混ざっていたのかしら、幸運だったのね」と笑って誤魔化した。誤魔化されてくれたかは分からないけれど。
そしてその次の日には、大ぶりな花はその花弁を落とし、小ぶりな花は魔石化していて、さらに頭痛がした。前日まで生命力漲るかの如くつやつやと咲いていたというのに、もうどうやって誤魔化そうかなと遠い目になった。
結局、急に過ぎた見頃も、数の合わない花弁も、「不思議ね」の一言でゴリ押しをした。誤魔化されてくれたかは分からない。
まじまじと観察すれば、魔石は咲き誇る百合の形をしており、花と同じように乳白色で中心が黄金に輝いていた。
魔石は一定濃度以上の魔力が固まって生じた結晶だ。古森にいた頃、高い魔力を有する魔獣の体内や魔力溜まりみたいなところで結晶化しているのを見たことがあった。
人間の世界では、御当主様の指輪や奥様のネックレスに使われていた気がするから、宝飾品の扱いなのかもしれない。
魔石に顔を寄せるとほのかに甘い香りがした。百合の執念を感じる。
…私が持っていてもしょうがないし、誰かにあげようかな。
メイにあげたら喜ぶだろうか。聞いてみよう。
別に自分で持っているのが嫌になったわけじゃないよ。ほんとだよ。
自分の財産を持たない身なので、日頃の献身に報いる術がなかったのだ。
優秀なあのメイドのことだ、怪しい百合の花とこの百合の形をした魔石の繋がりにすぐ気が付きそうだけど。
しかし、と今後を思ってため息がもれる。
国王陛下の誕生パーティに持っていく薔薇のお世話に一応私も関わっていいとのことなので今度薔薇の苗を見せてもらう予定なのだが、同じようことにならないか結構心配だ。




