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第26話 闇を照らす月

 

 乗務員に一定のゴールドを乗車賃として支払い、馬車の中に入っていく。

 先頭にある連馬車の入口から、内部に入ると木造の廊下がユーリを出迎えた。


 「中はこうなってるのか~」

 「俺も入るのは初めてだな」


 中は木造で出来ていた。廊下は細く一本道になっており、その両脇には扉が取り付けられている様で、それぞれが個室になっているのだとわかる。

 連結部分は見るからに丈夫そうな木の板が橋の要領で取り付けられており、万が一落ちた時のためと思われる布が板製の橋の下に設置されている。


 「僕たちの部屋はどこなの?」

 「最後尾というわけじゃないけど、やや後ろの方みたいだな」


 道中、人を避けながら、自分たちの部屋に向かう。自分みたいに魔法使い然とした紫色のローブをしている人。かなりのサイズと思われるリュックサックを背負っている商人らしき男性。2本の剣を腰に差している少女。

 さまざまな、人間が連馬車に乗っている様であった。




 通路を程無く歩いたところで、前方を歩いているジークが歩みを止めた。


 「この部屋みたいだな」


 そう言いながら、連馬車に乗る時に、乗務員から受け取っていた個室の鍵を取り出す。鍵を鍵穴にさし、部屋の鍵を開けた。

 個室の中は少し手狭であった。部屋の両端にはベッドが二つ設置されており、人が歩けるスペースは中央の隙間だけであった。

 ベッドの枕側の上には、簡単な荷物なら置くことが出来そうな、小さな棚が取り付けられている、


 「お~、ベッドが二つ」

 「あっ、あれは何?」


 ユーリが指さしたのは、部屋の天井に取り付けてある機械のような物であった。


 「広音器だよ。ある一定の距離がある場所に声を届ける事ができるんだ」

 「へぇ~」


 現代社会で例えるなら、スピーカーみたいなものか、とユーリは心の中で広音器とやらを当てはめていた。


 「ネクイドには明日着くみたいだな。それまではこの部屋でゆっくりするか」

 「そうだね」


 そう言いながらユーリは部屋の奥に備え付けられている窓を開け放つ。窓はある程度の間隔でしか開けられないようで、全体の四分の一を開けた所で自動動的にロックがかかってしまう。

 半開きとはいえ窓から流れてくる風をユーリは感じていた。


 「これかな」


 今日中には目的地のネクイドに付かないので、時間つぶしの為に、アイテムボックスの中から、ゲーム時代にNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が経営するショップで買ったまま放置されていた小説を実体化させた。

 本は2020年ごろに流通していた紙製の文庫本であった。

 現在では資源の節約という事も有り、電子データの本が主流となっている。

 ユーリが暮らしていた日本では電子媒体で読むことが当たり前となっていたが、ミッドガルズでは紙媒体とデータ媒体の2種類があり、現実世界では珍しくなった紙の本をユーリは購入していた。


 「何もない所から本が出てきた!? それって魔法なのか?」

 「うん。そうだよ」


 そういえば、彼にはアイテムボックスのことを教えていなかったことを思い出したユーリは、いちいち説明するのも面倒なので、魔法の一種であると誤魔化した。

 これも客観的に見れば、アイテムボックスという概念も一種の魔法のようなものであるし、嘘はついていないだろうと、言い訳がましいことをユーリは考えていた。






 個室の窓から燦然(さんぜんと)輝く満月を、ユーリはぼんやりと眺めていた。先程実体化させた本は読み終わってしまい、暇を持て余していた。

 まだ読んでいない本は幾つかあったが、読み疲れてしまったので、今日はもう新しい本を読む気にはなれなかった。

 暗がりで今一つ、外がどうなっているのかわからないが、真横にある岩場は良く見える、その岩場があっという間に離れていってしまうので、結構な速さで連馬車は走っていることが分かる。


 「綺麗な満月だなぁ・・・・・・」


 小さな声で呟くユーリは、夜空を照らす丸い月を見つめていた。

 まるで自分の魂が吸い込まれるみたいな月だ、とユーリは感想を抱く。

 あの月を見ていると、心なしか動悸が早くなっていく気がする。


 『あー、聞こえるか?』


 突如部屋に男の声が響き渡る。


 『この連馬車は乗っ取らせてもらった。お前たちは大事な人質だから、今のところは無暗に暴れなければ危害は加えるつもりはない』


 ユーリは、一瞬だけ身構えるが、どうやら声の主は頭上にある広音器からのものと気付き身体の力を抜いた。

 向かい側のベッドに腰を掛けていたジークもそのことに気が付いたようで剣から手を離す。


 「・・・・・・なぁ、ユーリ」


 何かを言いたそうにジークはユーリに話しかける。


 「何を言いたいのかはわかるよ」


 その問いに渋い顔で答える。

 悪事を企てる集団に、この連馬車が乗っ取られたという事に気付かないほど、自分は鈍感ではないとユーリは考えている。

 さしずめ、もとの世界で例えるならばバスジャックみたいなものか、と呑気に分析していた。


 「さて、と」


 ユーリは脇に置いてある若葉色のローブに袖を通しながら、中央のスペースを歩いて個室のドアの前まで向かう。


 「やっぱり行くのか?」


 半分呆れ顔のジークは、今にも部屋を出ていきそうなユーリに声を掛け、引き留めようとした。


 「当然でしょ。“今のところ”は手を出さないって言ってたけど、あれ絶対に気が変わるやつだよ」

 「そうなるよな」


 ドアノブに手を掛け、後ろを振り返りながら、ユーリはまだベッドに座っているジークに自ら出した予想を述べていく。

 こういった輩は、心変わりが早い。なればこそ、不意を付けるうちに敵を無力化しておくのが最善の策であると導き出した。

 一介の学生であった頃ならば部屋に籠城することを選択していたであろう。

 しかし、この世界では強力な魔法使いなのだから怯えて部屋に閉じこもっている必要は無い。

 こうしている間にも、狼藉者は個室の部屋に侵入してくる可能性も大であるので、脅威は取り除けるうちに取り除いておく方が良い。


 「ジーク君は部屋で待ってる?」

 「女の子を一人で戦場に放り出したら、村長にぶん殴られそうだ」


 その返事を聞いたユーリは、ドアノブを回し、昼間の弛緩した空気の廊下とは違い、どこか張りつめた空気の漂う廊下に足を踏み入れた。



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