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第25話 連馬車

 

 エルヴ村から歩くこと数分、ネクイド行の馬車乗り場は、草原の中央にあった。

 目を引かれるのは、なんといってもそのサイズであった。通常の馬車であれば、馬を一頭から二頭で荷台を引くのがユーリの中では常識となっていたが、遠目で見えるあの馬車はそうではなかった。


 大きな荷台が幾つも連結されており、その荷台の両脇には体格の良い馬が2頭ずつ配置されている。遠目で見ただけでもその大きさに驚いてしまう。目測で直径50メートルを優に超えているだろう。


 さながら、数十年前に旧東京駅で乗車されていたとされる『新幹線』という乗り物を彷彿とさせた。最もユーリは、新幹線という乗り物はインターネット上のアーカイブでしか見たことはなかったが。


 「見えてきたな」

 「おー、すごい! 大きいね!」


 ユーリが想像していた馬車というのは、一頭の馬が荷台を引っ張っている荷台に乗る、といった小規模のものだったので、良い意味で期待を裏切られていた。

 遠めなので判断しにくいが、エルヴ村で見かけた顔もちらほらと見受けられる。おそらくは、自分たちと目的が同じなのだろうとユーリは推理する。


 「ねぇねぇ。あれなんて言うの?」


 サファイアの宝石の様に透き通った眼をきらきらと輝かせながら、質問してくる少女にジークは頬を緩ませながら質問に答えていく。


 「連馬車だよ」

 「そうなんだ!」


 いつもの少女は、少年めいた口調で、どこか悟ったような態度をとっていたが、今は違う。

 年相応にはしゃぐ彼女はとても可愛らしく、保護欲が掻き立てられるものであった。


 「中では個室が分けられていて。個室の中には、寝るスペースとしてベッドが備え付けられているらしいな」

 「寝台特急みたいだね!」

 「シンダイトッキュウ?」


 気持ちが高ぶっているせいか、ユーリは余計な事を口走りそうになってしまい、テンションを抑えようと努めた。


 「あ、いやなんでもないよ。うん」


 問題ないという意思を手を動かす事で伝える。


 「それにしても凄いな~!」


 ゲームであったころのミッドガルズにはこのような乗り物など存在しなかった。この異世界も便利な物を作ろうと、世界中の人達が頑張っているのだろうと思いを馳せる。


 「うん。すごいよ!」

 「・・・・・・」


 今にも空飛びそうな程に喜びの意を示している少女にジークは無言で、ゆっくりと歩み寄りながら手を伸ばした。


 「んっ・・・・・・な、なにするのさ!?」

 「いやなんとなく」


 突然髪の毛を触られて、ユーリは狼狽してしまう。ユーリの動揺を知ってか知らずか、ジークは銀色の髪の毛を撫でていく。


 「・・・・・・んぅ・・・・・・っ!」

 「嫌か?」

 「い・・・・や・・・・・・・・じゃない・・・・・・!」


 彼に髪を触られているにも関わらずユーリは嫌悪感を抱いたりはしなかった。どちらかといえば、安心感を抱いていた。くすぐったいような気持ちいいような、なんともいえない気持ちになってしまう。


 「ユーリは髪長いよな」

 「・・・・・・ん・・・・短い方が好き?」

 「俺はどちらかといえば長い方が好きかな」

 「・・・・・・じゃあ長いままにしとく」


 顔を赤くしながらユーリは小さく呟く。

 目を開けていることが出来ずに目を閉じてしまう。


 「そうか?」

 「・・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・んんっ!?」


 彼が、銀色の髪に指を絡ませながら撫でていき、全身が熱くなっていくのをユーリはひたすら耐えていた。動悸が早くなり、呼吸も荒くなってしまう。

 髪の毛を撫でている指が、ふとした拍子にユーリの首筋に触れてしまい、ぴくりと身体が動いてしまう。


 「も、もういいだろう!」


 流石に恥ずかしいと思ったユーリは、ジークに対して抗議の声をあげた。


 「あーっと、悪い。つい手が」

 「君は、この技術で何人の少女を泣かせてきたのかな? ・・・・この色魔」


 ユーリは小さな両手で、自分の頭を押さえながら、精一杯の言葉を投げかける。

 そのサファイア色の瞳を潤ませながら、目の前に立っている青年を見上げて文句を言う。


 「色魔って、失礼な奴だな。こんなことユーリくらいにしかしないぞ」


 ジークとしては、その言葉に、特に含みがあったわけでもないのだが、ユーリはその言葉に気を良くした。

 連馬車の方に歩いていく青年の背中を見ながら、ユーリは何かを考えていたが。


 「そ、そうなの? ・・・・・・・・・・なら良いよ」


 彼女が、ぽつりとつぶやいた瞬間、周囲に風が吹いた。


 「最後の方は、良く聞こえなかったけど何か言ったか?」

 「何でもないよ」



 ユーリは、連馬車の方に歩いて行ってしまう青年を追いかけた。



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