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第22話 深紅の槍

 

 「さてと、ここがゴームの森か」


 エルヴ村の男達から道を教えてもらい、辿り着いた場所はキングオークが住み着いているとされる森であった。


 「サモンビースト。デビルデーモン」


 エルヴ村で男達の前で実演したとき同様に、召喚獣たる悪魔を呼び寄せる。

 万が一に備えて1体ではなく、2体召喚しておく。


 「じゃあ、突撃といこうか」


 生い茂る森の中、ユーリは2体のデビルデーモンを両脇に(はべ)らせながら、森の中を歩き続ける。

 木の葉がちょうど、日差し避けになってくれるのは、吸血鬼という職業上、太陽光を苦手とするユーリにとってありがたい話であった。

 小鳥のさえずりが聞こえてくる森の中で、頭の中で今回の依頼内容を整理する。



 村人を脅かすキングオークの討伐。可能であれば、倒した証として部位を取って来てほしいとのこと。

 モンスターを倒し、その証拠としてモンスターの身体の一部を持ち帰る。そして報酬として金銭を得るという、実に単純で明快な依頼であった。


 「今回は、攻撃魔法を使わないでおこうかな」


 キングオークという手頃な敵に、ユーリの攻撃魔法を使えば文字通り“蒸発”してしまうだろう。

 無論、千年の時を経てキングオークの強さが変わっている可能性もあるが。

 ユーリとしては、身体の一部を残してキングオークを蒸発させても良かったのだが、今回はある目的があった。


 「この身体にも慣れておきたいし」


 現状、ユーリは魔法を問題なく行使しているが、万が一魔法が使えなくなった場合、どうなるかは知れたものではない。

 魔法に頼れないとなると、この身一つで身を守っていくしかない。

 つまり、魔法に依存し過ぎず、ある程度の接近戦も覚えておいた方が良いとユーリは判断していた。


 「ブラッディランス」


 血のように赤く染まった深紅の槍を何もない空間から出現させる。

 ブラッディランスは、吸血鬼という種族を選択したもののみが使用できる魔法であった。

 この深紅の槍は、術者のINTに応じた攻撃力を持つので、吸血鬼を選択した魔法職のプレイヤーは、この魔法を良く使っており、ユーリもその一人であった。

 ゲーム時代のミッドガルズでは、魔法職は重い武器や防具を装備できないデメリットが存在した。

 マジックロードは後衛職なのでATKは決して高くないが、高レベルによるステータスの暴力は行使することが出来る。

 この世界の平均レベルまでは知らないが、レベルが高い分、ユーリはある程度の実力を持った人間なら魔法を使わずとも接近戦で対処は出来るだろうと考えていた。


 魔法が使えなくなった場合、このブラッディランスも使えなくなってしまう可能性は高いと思われるが、その辺はその場で見繕った棒状の物で代用は出来るはず。


 「よっと」


 自分の身長よりも長く、大きい深紅の槍を振り回し、見えない敵と戦うようにして、構えてみる。


 「うん、こんなものかな」


 そう言いながら槍を構えているユーリは満足げな顔を浮かべる。


 「アークサモナーに比べれば高位の召喚獣は使役できないけど、キングオーク程度ならデスデーモンでも大丈夫そうだね」


 マジックロードは攻撃魔法、回復魔法、補助魔法というほぼすべての魔法を使いこなせるが、召喚魔法に関しては、召喚魔法に特化した職業『アークサモナー』の方が上であった。

 流石に全種類の魔法に特化してしまったら、ゲームバランスが悪いとユーリは考えているので、あまり気にしたことはない。

 自分の使っている職業がゲームバランスの調整の為に、弱体化してしまうというのはどこかさびしいものが有るので、この強さのまま維持してほしいとユーリはゲームであった頃のミッドガルズでは常々(つねづね)思っていた。


 「まさか、君たちが主戦力になる日が来るなんてね」


 デビルデーモンはとりわけ戦闘力に特化した召喚獣ではないが、ゲーム時代では戦闘中の囮として使っていた。

 MPさえあれば何度でも呼べるので、ユーリは都合の良い盾役として運用していた。

 戦闘力はそう高くないとはいえ、キングオーク程度の敵であれば補助魔法や回復魔法で援護することなく、デビルデーモンだけで倒せてしまう。

 文字通りユーリは棒立ちで勝利を収める事が出来るだろう。

 しかし今回の目的は、キングオークを討伐すると同時に、接近戦に慣れることが目的である。

 今回はデビルデーモンには、自分の護衛を命令する算段であった。

 ユーリが高レベルのマジックロードであっても、視覚外からの攻撃には対処できない。

 そこで、このデビルデーモンで両脇を固め、自分はキングオークと一対一で戦うことが出来るという理にかなった作戦なのではないか、とユーリは考えていた。


 木の茂みから大きな影が姿を(あらわ)した。


 「さっそく、お出ましか」


 ユーリの目の前に現れた大きな影は、目測で体長1メートル半ば。

 そのモンスターは、豚のような顔をしており、手には少し曲がった剣。カットラスが握られている。

 見間違えることはない。目の前に居るモンスターはゲーム時代に幾度となく戦ったモンスター。キングオークであった。


 「・・・・」


 圧倒的に格下の敵ではあったが、今回は魔法を使わない戦いであるので油断はできない。

 ユーリは無言で深紅の槍を構え、腰を落とし、戦闘態勢に入った。


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