第23話 赤い軌跡
目の前にいる豚のモンスター。キングオークが咆哮する。その声は地面をびりびりと振動させるほどの衝撃。
「あー、来ちゃった」
咆哮を聞いて、思わずユーリはため息をついてしまう。
キングオークの咆哮を聞いたユーリの表情は渋いものになる。
「仲間を呼んだか」
ゲーム時代では、さんざん聞いた、この咆哮。それが意味するものは即ち。仲間を呼ぶ動作であった。
ザッザッとどこからともなく聞こえてくる足音。少しの間と共に、キングオークを小さくしたモンスター。オークがキングオークの背後から出現する。
「ちょっと面倒かも」
オークは単体では、たいしたことのないモンスターであるが、数が多く囲まれると、面倒なことになる。
じわじわとオークの攻撃を受け、パーティを組んでいるのであれば隊列が瓦解したところにキングオークの一撃が振るわれ全滅するというパターンがある、と有志が作ったミッドガルズの攻略サイトに書いてあったことをユーリはなんとなく思い出す。
「取り巻きは全力で潰せ。あと僕の背後から襲おうとするオークがいた場合、優先的に潰すように」
両脇に侍らせておいたデビルデーモンに命令を飛ばす。
2メートル超の悪魔が、取り巻きのオークへと一直線に突進する。デビルデーモンは、その大きな足で地面の土を抉りながら疾走する。
デビルデーモンはその大きな爪を振り回し、オークが風に吹かれた紙風船のように吹き飛ばされていく。
口から吐き出される氷のブレスが周囲の地面を凍らせていく。
その氷は太陽光を反射しており、キラキラと光っていた。
「ふっ!」
短く息を吐き、ユーリはキングオークへと肉薄する。
そのまま勢いよく地面を蹴り上げ、ユーリは疾風の速さを持って突進する。
深紅の槍でキングオークの胴体へ刺突を行なう。胴体を貫かれたことによりキングオークは苦悶の声をあげる。
ユーリを脅威と見なしたキングオークは、その太い腕から繰り出される一撃を持って少女に斬りつける。
単純な力を持って行われ、斜めから振るわれる袈裟切り。その威力はユーリが年相応の少女であれば、掠っただけでも胴体を両断する一撃。
「よっ」
しかし、ユーリはその一撃にひるむことなくバックステップをして回避する。
キングオークは躱されたことに、驚愕の雰囲気を見せたが、すぐさま調子を取り戻し、ユーリに向けて剣を構える。
その太い腕で、カットラスを勢いよく振りかざす。その空気を斬り捨てるように、轟然と振るわれた太刀筋は、一筋の剣閃となって、ユーリに迫る。
――薙ぎ払い攻撃。
ゲーム時代のミッドガルズにおいて、数多のプレイヤー達を一閃のもと、両断してきたキングオークの必殺技。並大抵の装備であれば、防御力などお構いなしにプレイヤーのHPを削り取る一撃。
「・・・・!」
その一太刀をユーリは深紅の槍を持って受け止める。剣と槍がぶつかり合い、辺り周辺に破裂したような音が響き渡る。
槍を持つ手に、微かに感じる痺れ。しかし、ユーリはそれは戦闘を続行するうえでは問題ないと判断する。
マジックロードは、接近戦は得手ではない。
身長差からキングオークとは、少し分が悪いが、吸血鬼の所有するスキル『ノスフェラトゥ』の影響を受け、日中の弱体化した現状の身体能力でも、キングオークを討伐することは問題ないとユーリは結論付ける。
周囲の風を切りながら、深紅の槍を構え直し、ユーリはキングオークと対峙する。
「そらっ!」
長い槍を振るう。それだけで空気が振動し、周囲に風が巻き起こる。
「はぁっ!」
自分の身長より遥かに大きい深紅の槍を自在に操り、キングオークに放たれる一撃。
その勢いたるや凄まじい物で、弾丸の如きスピードで槍の穂先が、赤い軌跡を描きながら、キングオークに迫る。
深紅の槍が生み出す赤い“槍閃”をもって、キングオークの胴体を深く傷つける。
そして、キングオークはその上体をぐらりと倒し、土の地面に突っ伏したまま動きを止める。
予想を遥かに超える的確な刺突が、キングオークに命中していたらしく、ユーリはわずかに瞠目する。
自分たちの主が敗れ去ったことを察した取り巻きのオークは雲の子を散らすように森の中に消え去る。
ここで逃げたオークを追跡し、殲滅したところで得るものは多くない。今回の依頼はキングオークの討伐なのでわざわざ時間を割いてまで追う必要はないと判断を下した。
「こんなものかな」
動かなくなったキングオークに近づき、その太い首を槍先を使い、剣で斬り捨てるように槍でキングオークの首を刎ねる。
これで依頼は完遂した。そう考えたユーリは、その小柄な身体とは不釣り合いな大きいキングオークの首を片手に森の外へと歩き出した。
念のために、デビルデーモンに両脇を守るように指示を飛ばすことも忘れずに行った。




