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第20話 心境

 

 「僕は宿に戻ろうかな」

 「そうか? 俺はもう少しうろついてから戻るかな、もう少しだけ見て回りたいところとかあるし」


 仲間に別れを告げたユーリはその足で青山羊(あおやぎ)亭へと戻った。

 そして、部屋に備え付けてあったバスタオルと、体を洗うための小さめのタオルを手に取り浴場に入っていく。

 部屋から脱衣所までの間、人の気配がしなかったので、おそらくは自分達以外には宿泊客はいないのだろうと考えていた。

 脱衣所はそれなりの広さの様で、目測で縦横ともに15メートル前後の広さであった。

 Tシャツと半ズボンを脱いでカゴに入れる。

 そのまま白い下着もカゴに入れて一糸纏わぬ姿になる。


 「うーん、もうあまり興奮しないな・・・・」


 最初に見た時は心臓が高鳴ったが、今はそんなことはまったくなく、興奮するという事はなかった。


 「自分以外の身体なら興奮するとか?」


 そんなことをぼやきながら、ガラス戸を引いて、風呂場へと入っていく。


 「広いなー」


 風呂場は大きめであり、10メートルくらいだろうか、5人程度なら問題なく入れそうな広さであった。

 お湯から出てくる湯気によって浴室はすっかり暖まっていた。


 「大浴場って感じだー」


 この世界に来てから、この広さの風呂に入るのは初めてであるユーリは感嘆の声を漏らす。

 手を軽く濡らしてから、石鹸を使い泡を手のひら一杯に増やしていく。


 「まだ慣れないし」


 泡を使って、爪を立てない様に優しく、汚れを落としていく。まだ長い髪に慣れないため、洗う時の手つきも、どこかぎこちない物になってしまう。

 あらかじめ、浴槽からお湯を汲んでおいた風呂桶を使い、頭から温かいお湯を浴びる。

 頭が温かくなり、全身の体温が上がるのを感じる。

 腰まで届いている銀色の髪を洗い流し、軽く水気を取る。

 その後もタオルを使って見るからに繊細そうな白い肌を優しく撫でまわし、汚れを落としていく。


 「やっぱり長い気がする」


 お湯に濡れて、しっとりとした銀色の髪を手に取って見る。水分を含んでいることでユーリは、いつもに増して重みを感じていた。


 「誰かに見せるわけでも無いし、切ってしまうとか・・・・?」


 ハサミ等を使えば簡単に、髪の毛を短くすること自体は可能ではある。


 「勿体ないのかな」


 髪の毛はそんなにすぐ伸びるものでは無い、なので切ってしまうのは一瞬だが、伸ばすことになると長い時間が必要になる。

 今決める必要はないし、髪を切るか決めるのはもう少し先でも良いと、ユーリは考えていた。


 「こんなものでいいや」


 タオルを使って長い髪の毛を持ち上げる。

 このままだと、湯船に髪が使ってしまい汚い。それに湯船から出るとき髪の毛が背中にペタリと張り付いてしまうのを嫌がったユーリは、ターバンの要領で長い髪の毛をまとめあげた。


 「あー、生きてるって感じがする」


 足を目いっぱい伸ばしたユーリは、湯気のお湯の中で心身ともに疲れが癒されていくのを全身で感じていた。

 天井をボーっと眺めていたが、十分に身体が温まったので、浴槽から立ち上がり、そのまま浴室の扉を開けて脱衣所に足を踏み入れる。


 「ふぅ、あとは髪を乾かして」


 カゴに入れておいたバスタオルで身体を良く吹いた後、下着を身に着けてから髪の毛を乾かす作業に入る。

 長いので一瞬で乾かないのが面倒だとユーリは感じていた。


 「さて、と風呂に入るかな」


 髪を乾かしていると、脱衣所の扉が開く音が聞こえ、人の気配を感じたユーリは、顔をそちらの方へと向ける。


 「うん?」

 「あ」


 脱衣所に入ってきた青年と目があう。ユーリは、その青年がジークという旅の仲間であることに気付く。

 ジークは人がいるとは思っていなかったのだろう、驚きのあまり瞠目している。


 「あ、いや別に覗きに来たわけじゃないんだ!」


 青年の必死の弁明に、ユーリは思わずため息を吐いてしまう。

 この男は、こういったイベントには縁があるのだろうか。


 「き、君もゆくゆくこういった場面に縁があるね・・・・」


 髪を拭いていたバスタオルで身体を隠しながら、ユーリはジークに呆れ顔を浮かべる。

 しかし、以前の様に見られても平気では無かったようで、声は震えており、身体もバスタオルで覆い隠すように縮こまってしまう。


 「ごめん! 時間空けてから入りに来るから!」


 ここに居ては不味いのだと、ジークはようやく察したようで慌てて脱衣所を勢いよく飛び出す。


 服を着てから脱衣所を後にするユーリ。客の出入りは少ない為か、木造の廊下には誰もおらず、彼の姿も見当たらなかった。



 鍵を開けて部屋の中に入る。

 木でできた床を歩いてベッドにうつぶせのまま飛び込む。腰まで届いている長い銀色の髪は、まだ少し濡れている様でしっとりとした感触をユーリは感じていた。


 「まだちょっとだけドキドキしてる」


 うつ伏せになっているので、ベッドに押し付けられる形で心臓の鼓動がはっきりと伝わってくる。

 脱衣所での彼とのやりとりを思い出すと、動悸が激しくなる。小さな手で握りしめているシーツが、手汗で湿り気を帯びていくのがわかる。


 「僕ってば、どうしちゃったのかな・・・・・・」


 しばらくの間ユーリは、ベッドの上で足をばたばたさせていたが、睡魔に襲われたのであろう、小さな寝息を立て始めた。


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