第19話 エルヴ村
アサギを出立して数刻。
フィールドで襲いくるモンスターを蹴散らしながら歩き続けたユーリの前に、2メートルほどの外壁で囲まれた村が見えてきた。
「地図によると、あれがエルヴ村みたいだな」
「思ったより早く着いたね」
「ユーリの魔法のおかげで、囲まれた時の対処が楽できているのもあるしな」
「・・・・・・・・えへへ」
空中から飛来する鳥型のモンスターであるネイルバード。周囲を囲んでくる犬型のモンスターであるハウンドドックはユーリの範囲魔法で対処。
単体で出現するサンドベアーという大きな熊型のモンスターは経験を積むという意味合いも兼ねて、ユーリは補助魔法、回復魔法でジークの援護に徹していた。
もっとも、彼もまた高レベルのユーリ程ではないにしろ、かなりの戦闘力を有している様で、危なげなく敵を蹴散らしていた。
昨日の風の精霊との戦いでも、ユーリの補助魔法があったとはいえ、問題なく対処していたので彼についてはさほど心配せずとも大丈夫だろうと踏んでいる。
エルヴ村は、人が街の至るところで歩いており、活気にあふれていた。
「おおー、結構活気があるね」
思い返せば、オルヌ村は良い肩を悪くすれば田舎であったし、アサギは宿泊施設なので、微妙に違う。
なので、エルヴ村の人の活気に、ユーリは自然とそわそわしてしまった。
村を歩きながら、空いていそうな宿を探す二人。
人通りが少ない場所を探していると、一軒の宿を見つける。
立てかけてある看板には「青山羊亭」と書かれていた。
「ここでいいか。中央から離れていれば人も少ないだろうし」
「結構外れた場所にあるね」
思い思いのことを口にしながら、ドアを開けて、建物の中に入る二人。
宿は木造で、落ち着いた雰囲気を匂わせている。
建物の規模はさほど、大きいものでは無いようで、受付は小さめの広さであった。
どこか日本旅館を彷彿とさせる造りにユーリは感慨深いものを感じていた。
「お泊りですか?」
「はい二人分で」
ジークを先頭にしてユーリは受付へと歩く。
店主の年齢は目測で三十代前後の女性であった。
「お部屋はどうなさいますか」
「別々でいいんじゃないかな?」
見た所、他の客の姿は見えないので、一人一部屋使っても問題ないとユーリは考えていた。
この世界に来てから、一人になれる時間はあまりなかったので、たまには一人でゆっくりしたいと思っていた。
「そうだな、なら別でお願いします」
「こちらが部屋の鍵となります」
そう言って、店主は二人に鍵を一つずつ手渡してくる。
「あと浴場の方ですが、お客様同士で譲り合ってお使いください」
「はい」
アサギは部屋に備え付けられている風呂だったので、共同の風呂ともなれば、それなりの大きさになるのだろうと予想したユーリは、楽しみだと内心喜んだ。
身体が小さくなったとはいえ、アサギの風呂は少し窮屈に感じていた。
「ここが部屋か」
「荷物置いたら、これからについて話そうか」
一度部屋に荷物をおくために、ユーリはドアを開けて部屋に入る。
部屋は一人部屋ということもあり、狭いのかと思えば、思っていたより広いものであった。詰めれば3人くらいなら寝泊りできそうな広さだろうか。
「よいしょっと」
ユーリは机に荷物を置いた。
「村の中だから、ローブはいらないかな」
モンスターも入ってくることはないだろうし、ステータスも周りから見ればかなり高い方なので、危険は少ないと考え、ユーリは若葉色のローブをハンガーにかける。
「お、出てきたな」
Tシャツと半ズボンという楽な格好になったユーリは、そのままドアを開けて、宿屋の廊下に出ていく。
ジークの方は荷物を置いてきたようで、壁にもたれかかる形でユーリのことをまっていた。
「これからどうするの?」
「うーん、ネクイド行の馬車が出るのは明後日だからなぁ、ひとまず今日の所は自由行動で良いだろ」
余裕を持ってエルヴ村に着いたようで、だいぶゆっくり出来るみたいであった。
さっそくユーリは、周囲を散策したい行動に駆られる。
「じゃあ僕は散歩してくるね」
「俺もぶらぶらしてくるかな」
旅の相棒でもあるジークと別れたユーリは、エルヴ村の散策を始めた。
始めての活気にあふれた村ということもあり、心なしか歩くスピードも自覚できる程度には、普段と比べて早いと思った。
活気にあふれるエルヴ村をあてもなくフラフラと散策している、銀髪に翡翠色の少女の姿。
きょろきょろともの珍しそうに周囲を観察している。
「うん?」
ふとユーリが視線を落とすと、地面に小さなボールが落ちていた。村の子供たちのものだろうか。
そんなことを考えながら、ボールを小さな手の中に収めてみる。
「ボールか。少しだけ懐かしいな」
いつだったかは忘れたが、暇つぶしにボールをお手玉のようにして遊んでいた時期もあった。
なんとなく、昔を思い出したユーリは、ポイポイとお手玉を始めて見た。
エルヴ村にある一角、椅子が置いてあるそのスペースは、村人の中では休憩所として扱われている。
普段は人通りが少ない場所であるが、今に限っては喧騒に包まれていた。
「うわー、お姉ちゃんすごい!」
「4つ! 4つは出来る?」
「はっはっはっ、余裕で出来るとも」
ボールをお手玉のようにして遊んでいたユーリの周りにはいつのまにか、エルヴ村に住んでいる子供たちが集まっていた。
観客が増えていくことに少しのプレッシャーを感じながらもユーリは慣れた手つきでボールを使い、お手玉を続けていく。
その光景は子供たちの目には、外部の人間による大道芸として映っていることだろう。
子供達から褒めてもらい、まんざらでもない表情を浮かべるユーリは、次々にボールの数を増やしていく。
「すごいな」
聞きなれた声がユーリに届き、お手玉を止める。
「あれ? ジーク君か」
自身に近づいてくる人間は旅の仲間であることに気付く。
「器用なものだな」
おそらくジークは今しがた来たのではなく、少しの間、自分の路上パフォーマンスを見物していたのであろう。
「お姉ちゃんたちタビビトって奴でしょ!」
二人が知り合いであることに気付いた子供たちが質問を投げつけていく。
「コイビト同士なんでしょ!」
「違うぞ」
「ち、違うよ・・・・」
どこで知ったのかは知らないが、そのような誤解をされるのは心外ともいえるユーリは否定の言葉を発する。
その質問に少しだけ言い淀んでしまったことに当事者であるユーリ以外は誰も気付かなかった。




