Battle of Tokyo Bay(3)
戦闘機の格納ハッチから入った俺たちは格納庫内で台車の上に乗せられているニルの愛車86を発見し、それに乗っているニルも見つけた。
さっきクレーンで持ち上げられていたが、まさか中に入れてしまうとは。
格納庫内は段差やレールが引いてある関係で凹凸が多く、フラットでないため車は入り辛い。そのため台車に乗せている。
俺たちが入って来るのを見たニルが車からそっと降りた。ドアを開けるスペースがわずかしかないからだ。
「無事収まったみたいだな」
「私はどっかにぶつけないか心配だったけど」
だろうな、こんな所に入れること自体間違ってるし。
「ニル、わかってると思うがエンジンは掛けるなよ、俺は一酸化炭素中毒で死にたくない」
左手を駆け寄って来たニルの前に出す。
潜水艦は密閉構造になっているのは言うまでもない。
そんな場所でエンジンを掛けると酸素が無駄に消費され、一酸化炭素と窒素酸化物が量産されることとなり、艦内は一瞬でカオス空間へと変わる。
「そんなことわかってるよ、何その手?」
「一応だが鍵は預かっておく」
「えっ?嫌だよ!」
「お前の車好きは異常だ。もしものことがあったら困る」
「別に大丈夫じゃないの? ニルだってわかってると思うし」
二人の間にリアが割って入りまあまあと手を動かす。
「リアは忘れたのか? ニルには前科がある。それはリアも知ってるだろ?」
「そ、そうだったわね」
そう、俺がこっち来て間もない頃のことだ。
LEGEND月宮高等学園の一年では戦闘訓練も受けるが、高校教育が基本となっているため、座学であることが多い。特に国際科は戦闘力よりも学力重視の学科だ。座学は尚の事増える。
そんなとある日の四時限目が終わり、昼休みに入ろうかという時のことだ。その日偶々来日していたイギリス軍の佐官が全校合同演習を行うと言ったため、急遽、昼休みから八時限目まで実戦訓練となったのだ。
国際科も他の学科同様に実戦に参加したのだが、ニルは先程も言ったように車中毒、主に86が大好物だ。
昼休みは一から四時限目までお預けにされた86に乗っている。そのため昼休みはほぼ百パーセント教室にいない。86が恋人と言わんばかりに一緒に昼食を取っている。
その日は昼休み自体が無かったので言うまでもないが86とスキンシップを取っていない。
それまでは知らなかったのだが、どうやら戦闘訓練は苦手らしく、次第にストレスが溜まっているようにも見えた。
六時限目過ぎたあたりでついにニルのストレスが限界に達し、演習中にトイレに行ってきますと車両庫に走って行ったきり帰って来ることはなかった。
その時リアも同じ班だった。
後からわかったことだが、ニルは一定時間置きに愛車に触らないと禁断症状を起こす変態だったということだ。
その一定時間はストレスが溜まれば溜まるほど短くなるらしい。
よって今回もストレスが溜まりやすい状況にある。そのため鍵を持たせることは危険だと判断したのだ。
「二人して顔見合わせて何だよ!!」
「ごめん。ニル……お願いだから鍵渡して……」
ポケットから鍵を出して三十秒くらい渋った後で「わかったよ、渡せばいいんでしょ」とか言って俺ではなくリアに渡した。
それから間もなく艦内放送で作戦開始五分前が告げられる。
放送を聞いた格納庫の作業員は外で待機している晴嵐に集まっている。甲板の下からフロートが見えてるので、どうやら装着作業を行うらしい。
外で晴嵐のエンジン始動音が聞こえる。暖機運転を開始したようだ。
フロートはまるでプラモデルであるかのように淡々と取り付けられ、一分もしない内に水上機のあるべき姿に戻る。
数名を残し、作業員が格納庫に戻り、奥の梯子で下に降りた。
俺たちは格納庫待機なので、86の近くで待機する。
86の後ろの方にもう一機の晴嵐が見えるが86が邪魔でどう考えても出撃は無理だろう。
もう一機の晴嵐は発進準備が整っている。
何もせずに待っていると格納庫のハッチから中佐が入って来た。
「出航準備が完了したようです。角谷さんはわたしと一緒に機関室へ少々お話がありますので、御二方は発令所で待機していてください」
「ああ」
「わかりました」
梯子を降りると赤系のランプで薄暗く照らされた発令所があった。ここは主に操縦桿やセンサ関係などあらゆる電気系統が集中している潜水艦の核となる部分だ。俺たちは空いている席に座ってみる。
発令所には軍服を着た人が三人いて、それぞれコンピュータの前の椅子に座り画面を見つめている。
ニルは中佐に連れられ潜水艦後部へと続く扉に入って行った。
「何でニルだけ呼ばれたんだろうね?」
少し高めの椅子で足を子供のようにプラプラさせながら言う。
「さあな」
「もう…。適当に返しすぎ」
リアが手刀を俺の頭に軽く入れた。
「そういえば、対物はどうした? いつも背負ってるあのバカでかい奴」
「あれって結構重たくて肩凝るから格納庫に置いてきたの」
それにDanel NTW-20を背負ったまま狭い梯子を降りるのは大変だろう。絶対どこかで閊える
「そうじゃなくてもこれが重たいからね」
腕を組んで上に押し上げるようにCカップの胸を強調した。
無駄に色っぽい表情をしているが俺は気にしない。
「もう少し大きくなってからその台詞は使うべきだな」
「女の子に対して失礼極まりないわね、それにストレートすぎてチョー傷つく」
「Danelを振り回す奴を女の子なんて可愛い言い方はしないぜ」
「でも私ってその辺と比べなくてもかなり可愛いと思うんだけど、ソウスケの好みかな?」
最後の方はなぜか声が小さくなったが……まあいい。
「そうだな、自分で言ってる時点でイラッと来たが、可愛いのは事実だしな、好みかと言うとそうでもないな、俺はもっと御淑やかな方が断然好みだ」
特に彼女みたいなとは言わなかった。
口に出せば、色々と面倒なことになりそうだし、それにその言葉を口にする勇気も心の強さもなかった。
「努力はするわ、でも可愛いって言ってくれてちょっとだけうれしかった」
何でこんなにも喜んでいるのか、彼女曰く、女の子は可愛いと言われればそれが誰であっても大概は嬉しいそうだ。
「そうかい」
俺も言ってて気恥ずかしくなったのか顔をリアから背けた。




