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∞クロニクル・アルディア∞ ~101年目の未来~  作者: 空乃真芽
第六章 繰り返された百年編

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第九十八話 覚えている者

 北から届いた処理を。


 クロニクルへ記録する。


【維持処理起点:神崎蓮】


【対象:世界線境界】


【処理履歴:継続】


「昨日だけではない。」


 レインが読み上げる。


「前から続けてる。」


「どのくらい前ですか?」


【現在世界線の開始以前】


 世界暦0年より前ではない。


 今の世界線が始まる前。


 存在しないはずの時点だった。


「世界線が始まる前は、何があるんだ?」


【境界移行領域】


【通常の時間情報は適用されません】


「時間の外みたいな場所か。」


 神崎がそこでどう存在するのかは分からない。


「世界の外側から始めた処理か。」


 学院長が言う。


「それなら、神崎蓮は世界線が変わる時にも存在している。」


     ◇


「記憶情報を照合。」


【対象:神崎蓮】


【世界線移行時の連続性:あり】


 文字を読んだ瞬間。


 レインの背中が冷たくなった。


「連続してる。」


「身体が同じということですか?」


【物質情報:再構成】


【魂情報:連続】


「身体は、その世界ごとに作り直される。」


「でも魂は続いてる。」


 トーマが言った。


「つまり、覚えてる?」


【記憶保持:確認】


 神崎は。


 別の世界へ移っても。


 前の百年を忘れていない。


「何回分ですか?」


【集計中】


     ◇


 表示が止まっている間に。


 レインは雪原の戦いを書き直した。


 神崎が先に避けた場所。


 黒い光を放つ前の手の動き。


 レインの剣が届く瞬間だけ。


 神崎は動かなかった。


 黒い光をレインの胸へ向けた時も。


 攻撃を途中で止めていた。


 倒す機会があったのに使わなかった。


 迷いだったのか、何かを守ろうとしたのかは分からない。


「避けられたのに。」


 セレスが紙を見る。


「最後は受けたんですね。」


「うん。」


「倒されることを選んだ?」


「そこまでは分からない。」


 傷を負っていたから。


 避ける力が残っていなかった可能性もある。


 けれど。


 それまでの動きは。


 レインの剣を何度も見た者のものだった。


「今回、と言ったのも。」


 トーマが呟く。


「前を覚えてたからか。」


     ◇


【集計完了】


【保持履歴数:表示上限超過】


「また上限か。」


【概数:万単位】


 レインは。


 すぐには読み上げられなかった。


「どうした?」


「万単位。」


 トーマの手が止まる。


「一万回以上ってことか?」


「概数だから、正確には分からない。」


 一回が百年。


 それが一万以上。


 数字にしても。


 時間の長さを理解できない。


 最初の百年で話した人の声を。


 一万回目にも覚えていたのか。


 それとも、新しい記憶に押されて消えたのか。


 欠損という表示は。


 神崎が全てを同じ鮮明さで持つわけではないことも示していた。


 何度、勇者が現れ。


 何度、神崎へ剣を向けたのか。


 何度、世界が終わったのか。


「その全部を。」


 セレスが息を飲む。


「神崎蓮は覚えているんですか。」


【記憶保持:継続】


【欠損:あり】


 完全ではない。


 名前を失い。


 自己認識も薄れている。


 それでも百年の記憶は消えず、積み重なっている。


     ◇


「一人で?」


 トーマの問いに。


 誰も答えられなかった。


 世界が変わるたび。


 仲間も。


 街も。


 交わした言葉も作り直される。


 同じ姿の人がいても。


 前の百年を知らない。


 神崎だけが。


 全てを覚えたまま次へ進む。


 昨日まで味方だった者が。


 次の世界では初対面の顔で剣を向ける。


 助けた街が壊れ。


 守った約束も、神崎以外には存在しなくなる。


「だから、遅かったな、と。」


 レインは雪原の声を思い出す。


 怒りではなかった。


 諦めだけでもなかった。


 長く待ち続けた者の声だった。


 今のレインが。


 何万回目の待ち人なのか。


 まだ分からなかった。


 一万冊の本を読むだけでも、一生では足りない。


 神崎はそれを読んだのではなく。


 一冊ずつ、自分の時間として生きていた。

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