第九十九話 違う結末
「神崎蓮が覚えている世界線の中に。」
レインは尋ねる。
「俺がいた履歴はいくつある?」
【対象:レイン・アークライト】
【照合を開始】
禁書庫の前室で。
全員が表示を待つ。
【名称一致:多数】
【対象識別:不一致を含む】
「同じ名前の別人もいる。」
「世界線が変われば。」
学院長が言う。
「生まれなかった世界もあるのでしょう。」
同じ家に。
同じ日に生まれても。
魂まで同じとは限らない。
「セレスや俺も同じなのか?」
「今は俺を調べてる。」
レインは答えた。
「一度に広げたら、誰の記憶か分からなくなる。」
セレスの既視感も、同じ理由とは限らない。
「今の俺と一致するものだけ。」
【魂情報による照合:制限付きで実行】
◇
最初に見えたのは。
剣を持たないレインだった。
学院の制服を着たまま。
北門の外へ倒れている。
魔物の爪が迫る。
身体は動かない。
魔力を断つ方法を知らなかった。
「やめろ!」
トーマの風が魔物へ当たる。
わずかに進路が変わる。
爪が肩を裂いた。
痛みが走る。
今の肩には傷がないのに。
レインは床へ手をついた。
景色が変わる。
今度は。
剣を抜くのが早すぎた。
魔物を斬り倒し。
逃げていた群れが一斉に襲いかかる。
セレスの水が弾かれ。
トーマの風が乱れる。
選んだ一手で。
戦いの結末が変わった。
倒した個体の後ろから。
白く染まった魔物が飛び込む。
レインは剣を返せない。
ガレスが間へ入り、風で群れを押し返す。
その背中へ白い光が触れた。
景色はそこで途切れた。
◇
さらに景色が変わる。
魔物はいない。
北門も壊れていない。
レインは学院にすらいなかった。
遠い村の道を。
一人で歩いている。
クロニクルも見えない。
桐谷玲の記憶もない。
ただ。
北の空を見上げていた。
『行かなければ。』
理由を知らないまま歩き出す。
その背中が遠ざかる。
「切れ!」
ガレスの声で。
レインは目を開けた。
◇
「三つ見た。」
呼吸を整えながら説明する。
傷ついた自分。
魔物を倒した自分。
学院にいない自分。
「全部、今のレインと同じ魂ですか?」
セレスが尋ねる。
【魂情報:一致】
「同じ。」
「でも、桐谷玲の記憶がなかった。」
「見えなかっただけでは?」
「そうかもしれない。」
日本語を知らない。
クロニクルを認識できない。
その二つは。
短い景色だけでは断定できない。
「ほかの履歴にも、日本語の反応があるか調べる。」
【利用者言語情報を照合】
【初期履歴群:反応なし】
【途中履歴から反応を確認】
最初からではない。
何度も繰り返した途中で。
レインの中に日本語が現れた。
◇
「桐谷玲が。」
トーマが言う。
「途中から、レインの中にいた?」
「可能性は高い。」
レインは胸へ手を置く。
二人分の人生が。
どちらも自分のものとして存在している。
だが。
そうなった始まりを知らない。
「誰が日本語の魂をつないだ?」
【魂経路の作成者を検索】
【対象識別:神崎蓮】
神崎の名前が現れた。
初代魔王を倒した勇者。
何万もの百年を覚える魔王。
その人が。
世界の外側から。
桐谷玲へ届く経路を作っていた。
なぜ玲だったのか。
狙って選んだのか。
この表示だけでは分からない。
「経路が作られたことと、魂が来たことは別です。」
学院長が言う。
「はい。」
決めつけない。
次に探すべきものは。
桐谷玲が初めて現れた世界線だった。
日本の記憶が偶然残ったものではないなら。
神崎は何を求めて、世界の外へ道を伸ばしたのか。
玲が来る前の失敗から調べる必要があった。
成功だけを見ても。
神崎が何を恐れ、何を諦めなかったのかは分からない。
失敗した世界線にこそ。
最初の願いが残っているかもしれなかった。




