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∞クロニクル・アルディア∞ ~101年目の未来~  作者: 空乃真芽
第五章 失われた名前編

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第八十八話 剣の署名

 翌朝。


 レインたちは王都記録院へ向かった。


 学院長と司書。


 ガレス。


 レイン、トーマ、セレス。


 北門の周辺には。


 昨日の爪痕が残っている。


 森へ逃げた魔物は。


 学院から離れたと報告されていた。


「また戻ってきますかね。」


 トーマが森を見る。


「北にある原因が残っていれば。」


 セレスが答える。


「可能性はあります。」


「白い角の調査も頼んだ。」


 ガレスが言う。


「今は名前の方だ。」


 一度に。


 すべてを追うことはできない。


     ◇


 記録院で。


 台紙は透明な板に挟まれていた。


「板からは出せません。」


 記録官が先に告げる。


「触れることも、魔法を直接当てることも禁止です。」


「承知しています。」


 学院長が答えた。


 見つけたいものがあっても。


 残っている資料を傷つけてはならない。


 表には。


『勇者到来時の聞き取り』


 以前見たものと同じ番号。


 裏には。


 写しより細い文字痕が残っている。


「光の角度を変えます。」


 記録官が魔法灯を動かした。


 浮かんだのは。


『崎』


 その前に、欠けた一文字。


 そして。


 離れた場所に。


 もう一つの線があった。


「これは文字ですか?」


 セレスが尋ねる。


「文字ではなく、図柄と判断されています。」


 小さな円。


 その中を横切る一本の線。


 レインは見たことがある。


「剣の紋章。」


 白銀の剣に刻まれていたもの。


     ◇


「台紙は、何に使われていたんですか?」


 学院長が尋ねる。


「現在の表題を付けられる前は不明です。」


 記録官が管理簿を開く。


「ただし、古い整理番号が残っています。」


 剣の紋章が付いた資料。


 番号をたどる。


 別の棚から。


 細長い箱が運ばれてきた。


 中には。


 白銀の剣を王から授けた式典の写し。


 以前調べたものと同じ記録群。


「また勇者としか書かれてない。」


 トーマが言う。


「本文は、そうです。」


 司書が末尾を指した。


 紙の端。


『受領確認』


 その横は削られている。


 だが。


 さらに下へ。


『本人署名は別紙』


 小さく書かれていた。


「署名があった。」


 レインの胸が鳴る。


「別紙は?」


 記録官が管理簿をめくる。


「現存していません。」


 期待が。


 すぐ空白へ戻る。


「待ってください。」


 セレスが台紙を見る。


「別紙が、この台紙に貼られていた可能性は?」


     ◇


 大きさを測る。


 式典記録に残った別紙の枠。


 到来記録に使われている台紙。


 縦も。


 横も一致した。


 綴じ穴の間隔も比べる。


 右端に二つ。


 片方だけが少し内側へずれている。


 台紙にも、同じ位置に浅い窪みがあった。


「寸法だけではありません。」


 セレスが言う。


「同じ場所で綴じられていた可能性があります。」


「再利用されたのか。」


「断定はできません。」


 記録官が答える。


「ですが、当時は古い紙を台紙へ転用することがありました。」


 普通の保存方法。


 特別な仕組みではない。


 署名の紙を剥がし。


 残った厚紙へ、別の記録を貼った。


 その圧力で。


 署名の一部が裏返って残った可能性がある。


「剣の紋章も。」


 レインが言う。


「署名を確認する印だったなら。」


 勇者へ剣を渡した記録とつながる。


 到来時の日本語話者。


 勇者の署名。


 かんざき、れんという音。


 別々だった記録の間に。


 一本の線が引かれる。


「クロニクルで照合できますか?」


「ここでは、俺にしか見えない。」


 レインは周囲を見た。


「結果を一人で確かめたくない。」


 台紙の写し。


 式典記録の番号。


 寸法。


 全員が確認できる形で記録する。


「学院へ戻ってからにします。」


 見つけたからこそ。


 急がない。


 帰りの馬車で。


 トーマは何度も口を開きかけた。


「かんざき、で合ってると思うけどな。」


「俺もそう思う。」


「思うことと、確かめたことは分ける。」


「分かってる。でも、近いんだろ?」


「うん。」


 今度は否定しなかった。


 名字の先頭に見える一文字も。


 まだ。


 線の一部しか残っていなかった。

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