第八十八話 剣の署名
翌朝。
レインたちは王都記録院へ向かった。
学院長と司書。
ガレス。
レイン、トーマ、セレス。
北門の周辺には。
昨日の爪痕が残っている。
森へ逃げた魔物は。
学院から離れたと報告されていた。
「また戻ってきますかね。」
トーマが森を見る。
「北にある原因が残っていれば。」
セレスが答える。
「可能性はあります。」
「白い角の調査も頼んだ。」
ガレスが言う。
「今は名前の方だ。」
一度に。
すべてを追うことはできない。
◇
記録院で。
台紙は透明な板に挟まれていた。
「板からは出せません。」
記録官が先に告げる。
「触れることも、魔法を直接当てることも禁止です。」
「承知しています。」
学院長が答えた。
見つけたいものがあっても。
残っている資料を傷つけてはならない。
表には。
『勇者到来時の聞き取り』
以前見たものと同じ番号。
裏には。
写しより細い文字痕が残っている。
「光の角度を変えます。」
記録官が魔法灯を動かした。
浮かんだのは。
『崎』
その前に、欠けた一文字。
そして。
離れた場所に。
もう一つの線があった。
「これは文字ですか?」
セレスが尋ねる。
「文字ではなく、図柄と判断されています。」
小さな円。
その中を横切る一本の線。
レインは見たことがある。
「剣の紋章。」
白銀の剣に刻まれていたもの。
◇
「台紙は、何に使われていたんですか?」
学院長が尋ねる。
「現在の表題を付けられる前は不明です。」
記録官が管理簿を開く。
「ただし、古い整理番号が残っています。」
剣の紋章が付いた資料。
番号をたどる。
別の棚から。
細長い箱が運ばれてきた。
中には。
白銀の剣を王から授けた式典の写し。
以前調べたものと同じ記録群。
「また勇者としか書かれてない。」
トーマが言う。
「本文は、そうです。」
司書が末尾を指した。
紙の端。
『受領確認』
その横は削られている。
だが。
さらに下へ。
『本人署名は別紙』
小さく書かれていた。
「署名があった。」
レインの胸が鳴る。
「別紙は?」
記録官が管理簿をめくる。
「現存していません。」
期待が。
すぐ空白へ戻る。
「待ってください。」
セレスが台紙を見る。
「別紙が、この台紙に貼られていた可能性は?」
◇
大きさを測る。
式典記録に残った別紙の枠。
到来記録に使われている台紙。
縦も。
横も一致した。
綴じ穴の間隔も比べる。
右端に二つ。
片方だけが少し内側へずれている。
台紙にも、同じ位置に浅い窪みがあった。
「寸法だけではありません。」
セレスが言う。
「同じ場所で綴じられていた可能性があります。」
「再利用されたのか。」
「断定はできません。」
記録官が答える。
「ですが、当時は古い紙を台紙へ転用することがありました。」
普通の保存方法。
特別な仕組みではない。
署名の紙を剥がし。
残った厚紙へ、別の記録を貼った。
その圧力で。
署名の一部が裏返って残った可能性がある。
「剣の紋章も。」
レインが言う。
「署名を確認する印だったなら。」
勇者へ剣を渡した記録とつながる。
到来時の日本語話者。
勇者の署名。
かんざき、れんという音。
別々だった記録の間に。
一本の線が引かれる。
「クロニクルで照合できますか?」
「ここでは、俺にしか見えない。」
レインは周囲を見た。
「結果を一人で確かめたくない。」
台紙の写し。
式典記録の番号。
寸法。
全員が確認できる形で記録する。
「学院へ戻ってからにします。」
見つけたからこそ。
急がない。
帰りの馬車で。
トーマは何度も口を開きかけた。
「かんざき、で合ってると思うけどな。」
「俺もそう思う。」
「思うことと、確かめたことは分ける。」
「分かってる。でも、近いんだろ?」
「うん。」
今度は否定しなかった。
名字の先頭に見える一文字も。
まだ。
線の一部しか残っていなかった。




