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∞クロニクル・アルディア∞ ~101年目の未来~  作者: 空乃真芽
第五章 失われた名前編

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第八十三話 日本から来た人

 到来記録との照合。


 使えるのは。


 学院に残った四枚の写し。


 日本語の音声。


 そして。


 後に勇者と呼ばれたという注釈。


「全部、同じ箱に入っていました。」


 セレスが言う。


「でも、同じ人物の記録とは限らない。」


「箱が途中で入れ替わった可能性もある。」


 レインは紙の番号を確認する。


 四枚とも。


 同じ参照番号の続きだった。


 筆跡も。


 紙も同じ。


「写した人は、一続きとして扱ってる。」


「元の記録もそうだったかは分かりません。」


 司書が言う。


「ですが、照合材料にはなります。」


     ◇


 禁書庫の前室で。


 四枚の写しを魔法陣の周りへ置く。


「到来記録として照合。」


【参照情報を確認】


【記録群:連続性あり】


【原記録:参照不能】


【写しによる限定照合を実行】


 原本ではない。


 そのため。


 完全な接続はできない。


「限定照合って?」


 トーマが尋ねる。


「写しの内容だけで確かめる、ということだと思う。」


 レインは答えた。


「原本にしかない情報は使えない。」


「写しが間違っていれば?」


「その間違いも含んだ結果になる。」


 クロニクルが表示しても。


 材料が不完全なら。


 答えまで完全になるわけではない。


 それでも。


【連続音声記録を一部開示】


 魔石が光る。


『ここは、どこだ。』


 昨日と同じ声。


 続けて。


 アルディア語の問いが流れる。


『名は。』


 若い男は答えない。


 言葉が通じていない。


 何度か。


 同じ問いが繰り返される。


 やがて男は。


 自分の胸を指したらしい。


『かん――』


 音が乱れる。


『――れん。』


 レインの指が止まった。


     ◇


「名前ですか?」


「たぶん。」


「聞かれた言葉は分かっていない。」


「でも、胸を指して答えてる。」


 レインは聞こえた音を書く。


『かん――れん』


 三件目の音声。


『――ざき、蓮』


 二つを並べる。


 欠けた場所は違う。


 重なるなら。


『かんざき、れん』


 一つの名前になる。


 レインは小さく発音した。


「かんざき、れん。」


 日本では。


 不自然ではない名前だった。


 だからこそ。


 自然に聞こえることを証拠にはできない。


「つなげていいのか?」


 トーマが尋ねる。


「候補としてなら。」


「別々の人の名前を合わせてる可能性は残る。」


「文字も、蓮しかありません。」


 セレスが言う。


「かんざきに当たる文字は、まだ。」


 レインは。


 ひらがなでだけ書いた。


『かんざき 蓮』


     ◇


「到来時の話者と、記録番号0003の話者を照合。」


【名称音声を追加】


【話者照合を更新】


【一致度:高】


【名称候補:カンザキ・レン】


【文字情報が不足しています】


「同じ人物の可能性は高い。」


 ガレスが言う。


「到来時の人物が、その後の勇者かは?」


【記録群の連続性:高】


【対象識別:未確定】


「まだ足りない。」


 レインは答えた。


 だが。


 日本語を話す人物が。


 世界暦以前に現れ。


 後に勇者と呼ばれた記録へ続いている。


 その人物の名前は。


 かんざき、れん。


 少なくとも。


 音では、そこまでつながった。


「蓮という字の読みも合います。」


 セレスが黒い本の写しを置く。


「はい。」


「ですが、家名の文字はありません。」


「カンザキを、アルディア文字で残すだけでは駄目ですか?」


「音の記録にはなる。」


「元の名前を復元したことにはならない。」


 どの文字を使っていたかは。


 本人が書いた記録か。


 同じ時代の正確な写しから探す必要がある。


     ◇


「日本から来たと思いますか?」


 学院長が尋ねる。


 レインは。


 最初の声を思い出す。


『ここは、どこだ。』


 知らない場所で。


 通じない言葉に囲まれ。


 最初に日本語を口にした。


「可能性は高いです。」


「日本語を教わっただけでは。」


「到来した直後に、あの言葉は出にくいと思う。」


「それでも、確定ではない。」


「はい。」


 事実の欄。


『世界暦以前、日本語を話す人物が到来した。』


 推測の欄。


『その人物は日本から来た可能性が高い。』


 名称候補。


『かんざき 蓮』


 漢字は一文字しかない。


 勇者との完全な接続もない。


 それでも。


 役割しかなかった百年前の人物に。


 初めて。


 人として呼べる音が並んだ。


 それでもレインは。


 黒衣の男を、その音では呼ばなかった。


 まだ。


 二つを結ぶ最後の記録が足りなかった。


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