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∞クロニクル・アルディア∞ ~101年目の未来~  作者: 空乃真芽
第五章 失われた名前編

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第七十六話 三つ目の声

 翌日の放課後。


 前室の机に。


 黒い本と音声魔石が並んだ。


「同じものか、先に確かめます。」


 司書が魔石の寸法を測る。


 レインの帳面にある窪みと。


 一つずつ比べた。


「長さは一致。」


「端の形も。」


「中央の溝は?」


「同じ位置です。」


 同じ形。


 だが。


 箱がこの魔石のために作られたとは。


 まだ言い切れない。


「置けば分かるかな。」


 トーマが言う。


「反応があれば。」


「反応がないことも、結果です。」


 セレスが記録用の紙を用意した。


 レインは二つを抱える。


「行ってきます。」


     ◇


 円形の部屋で。


 浅い箱を開く。


 先に黒い本を置いた。


【接続済み:一/二】


 次に。


 音声魔石を窪みへ近づける。


 触れる直前。


 魔石の中央が光った。


 箱の底にある溝と。


 同じ青い線が重なる。


 レインは手を止めた。


 決めた通りなら。


 新しい反応を見つけた時点で戻る。


 置く前に。


「ここまで。」


 魔石を離す。


 光は消えた。


     ◇


「置かなかったのか?」


 トーマが驚く。


「約束したから。」


「いや、そうだけど。」


「よく戻れたな。」


「俺も、少し迷った。」


 知りたい。


 家名につながる声が。


 すぐそこにあるかもしれない。


 けれど。


 急いで間違えれば。


 また、読めることだけを理由に。


 一人で答えを作ることになる。


 学院長が頷いた。


「反応があることは確認できました。」


「次は、置いた後に何が起きても記録できるようにします。」


 前室の魔法陣へ。


 記録用の導石を三つ加える。


 音声が流れた場合は。


 前室にも同じ振動を写す。


 声だけではなく。


 表示が出た時刻も記録する。


 深部にいるレインの帳面と。


 前室の記録を、後で合わせるためだった。


「聞こえた言葉を、すぐ答えにしないでください。」


 セレスが言う。


「戻ってから、もう一度確認します。」


「分かってる。」


「本当に?」


「今日は三人とも同じことを言うんだな。」


「大事なことだからだ。」


 ガレスの答えに。


 トーマまで頷いた。


 レインが聞き間違えても。


 戻ってから確かめられるように。


     ◇


 もう一度。


 深部へ入る。


 黒い本を置く。


 音声魔石を。


 隣の窪みへ収めた。


【接続済み:二/二】


【保管処理を再開】


【名称断片を確認】


【追加音声記録への接続を試行】


 魔石から。


 小さな雑音がした。


『――記録しておく。』


 男の声。


 一件目と。


 二件目に似ている。


『俺の名前は――』


 音が途切れる。


 レインは息を止めた。


『……蓮。』


 短い音声は。


 そこで終わった。


【記録番号:0003】


【一部欠損】


【名称情報:部分照合】


 蓮。


 黒い本にあった文字と。


 男が名乗った音が。


 初めて重なった。


     ◇


 前室へ戻る。


 導石には。


 同じ声が残っていた。


『俺の名前は――』


『……蓮。』


「名前だったんだな。」


 トーマが言う。


「人の名前ではありました。」


 レインは答える。


「でも。」


「誰の名前かは、まだ。」


「声は、前の二件と同じでは?」


 セレスが尋ねる。


 司書が三つの波形を並べた。


 高さ。


 間隔。


 魔力振動。


「酷似しています。」


「同一人物の可能性は高い。」


「確定は?」


「欠損部分が多すぎます。」


 レインはクロニクルへ尋ねた。


「三件の話者は同じ?」


【話者照合:高一致】


【完全照合には名称情報が不足しています】


 また。


 家名が足りない。


「百年前の勇者との照合は?」


【記録番号0001との話者照合:高一致】


【記録番号0002との話者照合:高一致】


【名称による対象確定:未達成】


「声はつながってる。」


 トーマが言う。


「蓮と名乗った人が、勇者だった可能性は高い。」


「可能性は。」


 セレスが念を押した。


「でも、前よりは近づきました。」


 同じように聞こえることと。


 同じ人物だと証明すること。


 その間には。


 まだ、名前の残りがある。


 それでも。


 一つだけ。


 推測から事実へ移せる。


『蓮は、人の個人名。』


『記録番号0003の話者が、自分の名前として発音した。』


 その声が。


 百年前の勇者と同じかどうかは。


 まだ、高い可能性。


 けれど。


 名前の空白は。


 一文字分だけ。


 確かに埋まった。


 黒衣の男へ。


 まだ、その名を重ねない。


 呼ぶためには。


 残りの名前と。


 同じ人物だと示す記録が必要だった。


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