↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
∞クロニクル・アルディア∞ ~101年目の未来~  作者: 空乃真芽
北方編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/138

第五十二話 倒さないための剣

翌朝。


 訓練場の中央に、三体の土人形が立っていた。


 どれも人と同じほどの大きさ。


 腕には木剣。


 胸元には、赤い印が浮かんでいる。


「また土人形か。」


 トーマが木剣を肩へ担ぐ。


「昨日と同じなら、魔力の薄いところを打てば止まる。」


「説明を聞く前に決めるな。」


 ガレスが三人の前へ立った。


「今日の課題は、魔力の膜を壊すことではない。」


「じゃあ、どうやって倒すんですか?」


「倒す必要はない。」


 トーマが木剣を下ろした。


「三体のうち、一体だけが情報を持っている。」


「胸の印へ触れれば、色が変わる。」


「正しい一体を見つけ、訓練場の外へ出せ。」


「ほかの二体は?」


 セレスが尋ねる。


「お前たちを妨害する。」


「壊した場合は失格だ。」


「三体とも?」


「三体ともだ。」


 倒せる相手を。


 倒さずに止める。


 レインは土人形を見る。


 魔力の流れは三体とも同じに見えた。


「始め。」


     ◇


 三体が同時に動いた。


 中央の一体が、真っ直ぐレインへ向かう。


 左右の二体は、トーマとセレスへ。


「まず止める!」


 トーマが木剣を振る。


 風が走り、土人形の足元を払った。


 だが。


 人形は片膝をついただけで、すぐに立ち上がる。


「硬いな!」


「壊すなよ!」


「分かってる!」


 レインも木剣を構える。


 振り下ろされた一撃を受け流す。


 土人形の胸が近づく。


 赤い印へ手を伸ばした。


 指先が触れる。


 印は赤いまま。


「違う!」


「なら、次です!」


 セレスの声。


 足元の水が細い帯になり、人形の腕へ巻き付く。


 動きが止まった一瞬に、セレスが印へ触れた。


「これも違います!」


 残る一体。


 トーマの前にいる人形だけが、まだ確認できていない。


「こいつか!」


 トーマが手を伸ばす。


 その横から、レインが確認した人形が迫った。


「危ない!」


 身体が先に動く。


 木剣を横へ振る。


 魔力の薄い場所を狙えば、一撃で止められる。


 けれど。


 壊せば失格。


 軌道を変える。


 剣の腹を、人形の手首へ当てた。


 木剣が弾かれる。


 そのまま肩を押し、進む方向だけをそらす。


「今!」


 トーマが残る印へ触れた。


 赤い光が、青へ変わる。


「当たり!」


「外へ運びます!」


 セレスが水の帯を、青く光る人形の腰へ巻き付ける。


 三人で引こうとする。


 だが。


 人形は外へ進まない。


 木剣を振り上げ、トーマへ打ち込む。


「情報を持ってても、味方じゃないのかよ!」


 トーマがぎりぎりで避けた。


「情報を持つ者が、協力するとは言っていない。」


 訓練場の外から、ガレスが言う。


「先に言ってください!」


「聞かなかっただろう。」


「絶対わざとだ!」


     ◇


 青い印の人形は、三体の中で最も強かった。


 水の帯を引きちぎり。


 トーマの風を、木剣で散らす。


 残る二体も動き続けている。


「このままじゃ運べない。」


 レインは距離を取った。


「足を止めよう。」


「壊さずに?」


「関節だけを狙う。」


 土人形の身体を、細い魔力が巡っている。


 胸元から肩へ。


 腰へ。


 膝へ。


 流れが細くなる場所がある。


「セレス。」


「右の膝に水を。」


「はい。」


「トーマは、左から風を当てて。」


「倒していいのか?」


「倒すだけ。」


「壊さない。」


 二人が頷く。


 セレスの水が、右膝へ絡む。


 トーマの風が、左肩を押す。


 人形の身体が傾いた。


 レインは懐へ入り。


 木剣の先を、膝裏へ差し込む。


 力を上へ逃がす。


 人形が地面へ倒れた。


「今度こそ運ぶぞ!」


 三人で人形を引く。


 重い。


 倒れたままでも、腕を振って抵抗する。


 残る二体が近づいてくる。


「トーマ、押して!」


「やってる!」


「セレス、もう少し左!」


「はい!」


 訓練場の端。


 白い線まで、あと少し。


 背後から木剣が迫る。


 レインは振り返り。


 自分の木剣で受けた。


 腕に衝撃が走る。


 それでも。


 相手の胸は狙わない。


 一歩。


 もう一歩。


 青い印の人形が、白線を越えた。


 三体の動きが同時に止まる。


     ◇


「成功だ。」


 ガレスが訓練場へ入ってくる。


 トーマはその場へ座り込んだ。


「倒した方が絶対早い。」


「そうだな。」


「否定しないんですか?」


「倒すだけなら、もっと早く終わった。」


 ガレスは停止した土人形の胸へ触れる。


 三体を覆う魔力の膜は、すべて残っている。


「だが。」


「必要な情報を持つ相手まで壊せば、何も聞けない。」


 レインは青い印を見る。


 情報を持っている。


 けれど、味方ではない。


 攻撃もしてくる。


 それでも。


 倒す以外の方法はあった。


「北方で会う相手が。」


 ガレスが言う。


「敵か、味方か。」


「お前たちにすぐ分かるとは限らない。」


「魔物も。」


「人も。」


「役割だけを見て剣を振れば、取り返しがつかん。」


 雪原で。


 自分は魔王へ剣を向けていた。


 何も聞かずに。


 名前も知らずに。


「倒さないためにも。」


 レインは木剣を見つめた。


「剣が必要なんですね。」


「場合によってはな。」


「剣を抜かない強さも必要だ。」


 ガレスはそう言って。


 訓練場の外を示した。


「今日は終わりだ。」


「三人とも、午後の授業に遅れるな。」


「え。」


 トーマが顔を上げる。


「これで終わりじゃないんですか?」


「一時間目の実技だ。」


「北方へ行く訓練なのに?」


「まだ行くと決まっていない。」


 ガレスは先に歩いていく。


 トーマが地面へ倒れ込んだ。


「北方より、午後の授業の方が遠い……。」


 セレスが小さく笑う。


 レインも。


 木剣を抱えたまま、笑った。


 けれど。


 手の中の重さは、前とは少し違っていた。


 倒すためだけではない剣。


 その使い方を。


 まだ、覚え始めたばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。