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∞クロニクル・アルディア∞ ~101年目の未来~  作者: 空乃真芽
消された歴史編

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第四十四話 門の外

出発の朝。


 学院の門は、まだ閉じていた。


 空が白み始めたばかりで、


 訓練場にも人の姿はない。


 レインは腰の剣へ手を触れた。


 木剣ではない。


 学院から貸し出された、刃のある剣。


 鞘に収まっていても、


 腰へ掛かる重さが違う。


「抜くなよ。」


 隣に立つトーマが言った。


「抜かないよ。」


「俺も言われた。」


「じゃあ、どうして俺に言うの?」


「一人だけ注意されたみたいで嫌だから。」


 セレスが小さく息を吐く。


「二人とも、出発前から怒られたいんですか?」


 その時、


 足音が近づいてきた。


 ガレスだった。


 普段の訓練着ではない。


 厚い外套を羽織り、腰には本物の剣を下げている。


「揃っているな。」


「はい。」


「道中の指示を確認する。」


 ガレスは三人を順に見る。


「私より先へ出るな。」


「街道を離れるな。」


「魔物を見ても追うな。」


「判断に迷ったら、戦わず下がれ。」


「分かりました。」


 今度は、トーマもゆっくり答えた。


 門の中央へ、学院長が立つ。


 片手を魔法陣へ触れると、青白い光が左右へ広がった。


 重い扉が開いていく。


 朝の風が、学院の中へ流れ込んだ。


「行ってきます。」


 レインは一歩、外へ出た。


 防護の魔法陣を越えた瞬間、


 空気が変わった気がした。


 道も、木々も、空も、


 門の内側から見たものと同じだ。


 それなのに、


 背中を守っていた何かがなくなっていた。


     ◇


 街道は、緩やかに南へ続いている。


 左右には背の高い草と、低い木々。


 朝露を踏む音が、足元で続いた。


「王都って、どんなところなんだ?」


 トーマが尋ねる。


「行ったことがないの?」


「小さい頃に一度だけ。」


「ほとんど覚えてない。」


「私もです。」


 セレスが答える。


「人が多かったことくらいしか。」


「レインは?」


「初めてだと思う。」


 言ってから、


 少しだけ違和感が残った。


 王都を見た記憶はない。


 桐谷玲としても、当然知らない。


 だが、


 南へ続く道を歩いていると、


 次に何が見えるのかを知っているような気がした。


 曲がり角。


 古い石柱。


 その先に、小さな橋。


「止まれ。」


 ガレスが片手を上げた。


 三人の足が止まる。


 道の脇に、古い石柱が立っていた。


 その向こうには、細い川へ架かる橋がある。


 レインの心臓が強く鳴った。


 知っていた。


「どうした。」


「この場所を。」


「前にも見た気がします。」


 ガレスの視線が鋭くなる。


「夢か?」


「分かりません。」


 セレスが橋を見る。


「私も。」


 小さな声だった。


「ここを知っている気がします。」


 風が止まった。


 草むらの奥から、枝の折れる音がする。


 一つではない。


 ガレスが剣を抜いた。


「後ろへ。」


 三人が下がる。


 黒い影が、草の中から現れた。


 学院の門に来たものと似ている。


 背に短い角を持つ、四つ足の魔物。


 今度は三体いた。


 低い唸り声。


 中央の一体が地面を蹴る。


 ガレスが剣を横へ振った。


 刃から風が走り、魔物を道の端へ弾く。


 残る二体が左右へ分かれた。


「一体、そっちへ行くぞ。」


 トーマが叫ぶ。


 右側の魔物が、セレスへ向かう。


 セレスは下がりながら、両手を前へ出した。


 足元の朝露が浮かび上がる。


 細い水の帯になり、魔物の前脚へ絡み付いた。


 魔物の身体が傾く。


「今です。」


 トーマが風を放つ。


 水に足を取られた魔物が、横へ転がった。


 倒れても、すぐに起き上がろうとする。


 レインは剣を抜いた。


 刃が朝の光を反す。


 魔物の身体を覆う、薄い魔力。


 訓練で見た土人形と同じように、


 流れが均一ではない。


 首の下。


 そこだけが薄い。


 一歩、踏み込む。


 剣を振る直前、


 別の光景が重なった。


 雪。


 血に濡れた剣。


 倒れる誰か。


 手が止まりかける。


「レイン!」


 トーマの声が響いた。


 魔物の牙が迫る。


 身体が先に動いた。


 剣の腹で牙を受け流し、


 身体をひねる。


 そのまま柄を首元へ打ち込んだ。


 魔力の膜が砕ける。


 魔物は地面へ倒れ、動かなくなった。


 残る一体も、ガレスの風に押されて草むらの奥へ逃げていく。


「追うな。」


 ガレスが言った。


 誰も動かなかった。


 静けさが戻る。


 レインは剣を握ったまま、倒れた魔物を見る。


「怪我は?」


 セレスが近づく。


「ない。」


「二人は?」


「大丈夫です。」


「俺も。」


 ガレスが魔物を確認し、剣を収める。


「今の判断は悪くなかった。」


「だが、途中で止まったな。」


「はい。」


「何を見た。」


「雪の中で。」


「誰かへ剣を向けていた時のことを。」


 ガレスはそれ以上、尋ねなかった。


「歩けるか。」


「はい。」


 一行は橋を渡る。


 レインは途中で振り返った。


 石柱。


 細い川。


 魔物が消えた草むら。


 視界に、青い文字が現れる。


【地点情報を記録しました】


【既存履歴との一致を確認】


「一致?」


【詳細情報は取得地点で確認できます】


 取得地点。


 王都記録院。


 この道を、


 百年前の誰かも通ったのかもしれない。


 街道の先。


 朝の光の中に、


 王都を囲む壁が見え始めていた。

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