第百二十五話 出発の鐘
夜明け前。
北門へ五人が集まった。
ロイドの盾。
ミリアの治療具。
セレスの水筒。
トーマの剣。
レインの剣。
持てるものは違う。
けれど。
目指す場所は同じだった。
◇
ガレスとリディアは。
学院に残る。
「先生たちは来ないんですか。」
ミリアが尋ねた。
「ここを空にできない。」
北門の防護は。
昨夜の白化で弱っている。
もう一度波が来れば。
学院を守る者が必要だった。
「途中までは教師が二人同行する。」
ガレスが。
森の外で待つ二人を見る。
「森を抜けたら戻す。」
「そこからは五人で。」
「自分たちで決めろ。」
◇
学院長が。
小さな鐘をレインへ渡した。
森で使ったものと同じ形。
「一度は異常の確認。」
「二度は退路の確保。」
「三度は撤退。」
レインは答える。
「四度目は。」
学院長が尋ねた。
決めていない合図。
トーマが鐘を見る。
「届いた、でどうですか。」
「何がだ。」
「俺たちが。神崎蓮のところへ。」
学院長は。
少しだけ考えた。
「四度目を鳴らせるなら、生きて帰れ。」
◇
北門が開く。
白い魔物は。
門の横で眠っていた。
呼吸は続いている。
前脚は。
やはり北を向いていた。
ミリアが一度しゃがみ。
胸の光を確かめる。
「戻るまで待っていてください。」
言葉が通じたのかは分からない。
白い耳だけが。
小さく動いた。
◇
森へ続く道を歩く。
以前の世界線では。
レインは一人で走った。
誰かを助けるために。
後ろを振り返らず。
その先で何を失ったのかも。
まだ分からない。
今は。
盾の重い足音がある。
水が草を撫でる音がある。
風が枝を避ける音がある。
治療具の小さな金具が鳴る。
四人の音が。
レインの後ろではなく。
隣にあった。
◇
森の端で。
レインは鐘を取り出した。
一度だけ鳴らす。
異常の確認。
北門から。
同じ音が返った。
出発の合図ではない。
まだ戻れるという合図。
レインは。
学院を振り返った。
そして。
四人と一緒に森へ入る。
白い糸の先。
雪原の向こう。
百年目で待ち続けた人へ。
百一年目を届けるために。




