第6話 お引っ越ししました
アウェイだ。
まだ馴染まない部屋で一人、樹は思う。
結局引越し業者は頼まず、車のハッチバックに樹の身の回りのものを詰めて、両親とクロデ不動産に到着したのは今日。
本家、といから、どんな厳しい和風の豪邸だろうと思っていた。店舗は駅からは少し離れるが、まだ駅前の賑わいの雰囲気が途切れきっていない場所にあった。名前を意識してか黒色のガリバリウムで覆われた3階建てで、不動産屋を営業してる一角だけ抜いたように白い。どちらかと言うとこじんまりした建物だった。
到着の予定は伝えてある。
あらかじめ伝えられていた専用の駐車場に車を置いた。裏口が見当たらないので、とりあえず、建物の白抜きの部分でわかりやすい店舗正面から父親が声をかける。カウンター奥のデスクに座った男性が立ち上がって頭を下げた。
両親とあまり歳の変わらない見かけで、体型とかを含めて全体的に小さくまとめた可愛げのある印象のおじさんだった。ちょっと薄くなりかけて白髪混じりだがハゲてはいない。
「遠いところをようこそ。」と笑顔で招かれて、奥の住宅部分に案内される。
2階のリビングに通されるて、勧められるままに親子3人腰を落ち着ける。奥さんと思われる人がソファーに並んで座る樹親子の前にコーヒーカップを置いてくれた。
女性はそのまま、目の前の椅子に着いた現当主と思われる不動産屋主人の横に座る。
「はじめまして、クロデです。黒いに出る、と書いて、クロテ。こちらは妻です。」
紹介され 隣の妻が頭を下げる。
父親が、妻と娘を紹介して、樹もぺこりと頭を下げた。
苗字が、と相手に言われ、ああ、妻で二代なので、妻の旧姓は、畔に出ると書いてクロイデです、と、父親が答える。ちょっと組合ならではの会話だな、と思って樹は聞いている。
うちも、組合の方が住み込みお手伝いなんて、ほんと、何年ぶりとかだから、よろしくお願いしますね、と、当主がにこにこと頭を下げる。
いえいえ、こちらこそ、と、樹家族も頭を下げて、早速、簡単に共有となる台所、トイレ、風呂の場所を案内されて、階段をひとつ上がって、3階の端ににある樹の部屋に案内された。
ベッドと寝具のセット、小さな冷蔵庫と冬はこたつにもなるテーブル、電気湯沸ポット、カーペットが前日配送されており、フローリングの部屋の真ん中に置かれていた。
シーリングの照明とエアコンは据付のものがあり、それを使わせてもらう。
今はおりませんが、家族はあと大学4年の長男と、高校3年の長女がおります、と、当主が説明する。コンセントは、そことここに、と、指さしてから、では、荷物の搬入もあることですしょうし、何かお手伝いできることがあれば、一階の事務所にいますから、声をかけて下さいね、と、当主夫妻は姿を消す。
適度なあっさりぶりで、いい人そう、と、これから一緒に住むことになる樹は安心した。