第5話 新生活はクロデ不動産で
結局、樹は、大学の入学とともに行ったこともない〈クロデ不動産〉にバイトとして住み込むことになった。
樹としては、親の言うところの自然退会をして、住み込みなんてやめて、大学近くの小綺麗なアパートで一人暮らしをするのが希望だった。だから、その規約など無視してもいいのではないか、と思った。
だいたい、守らなかったとして、何があると言うのだ。
樹の疑問に、わからない、と母親は答えた。だけど、なんとなく、いい感じがしないんだよね。
そう言われると樹も何やら不安になる。
さらに追い討ちをかけるように父親が、〈流れ〉っていうものがあるだろ?とか、言い出す。
風の流れ、潮の流れ、水の流れ。もちろん流れに逆らって進むこともできる。それで、目的地に着くこともできる。けれど、逆らえば危険も多い。吹き飛ばされたり、沈んだり。
と、こちらも何やら不吉なことを言い始める。
だから、お父さんは、ここは流れに乗ってもいいんじゃないか、って考えたわけだよ。
いいや。いいですよ。
わかりました。
なら、親とその組合の規約のままに、とりあえず何ヶ月かは住み込みってやつをやりましょう。住居費もうくみたいだし、初めての街に、親戚、というのとはちょっと違うみたいだけれど、一人娘を全くの一人暮らしをさせるよりは親としては安心なのかもしれない。
住み込みで暮らしてる間に引越し先の街にも慣れるでしょう。慣れた頃に、地元の不動産屋さんで、アパートを探せばいいのよ。
あ、本家さん、って、まさにその不動産屋さんなんだっけ?
じゃあ、そこで物件探せばいいじゃない。一石二鳥だね。
と、新生活は思った通りではなかったなりに始まった。




