24話 終わりは突然に
五月に入った頃、二年生になった空のクラスはようやく落ち着きを見せてきた。
空は誠司や実里、睦月の全員と違うクラスになった。また、毎日学校に空が行くわけもなく、ドッペルゲンガーのルガーに行かせている。
しかし、思い出したように空は学校へと赴く。それは気分転換の意味合いを込めてのものだった。
久しぶりの学校は何ら変わってはいなかった。学年が変わり、クラスが変わり、クラスメイトが変わり……そういった対外的なものは変化した。
だが、四月の初めこそ戸惑いの空気で満たされていた教室が、一月経った現在は一年生の時と変わらない空気になっていた。
知らない人同士で自然にグループを作り、友達になって言った。空は――空に変化しているルガーは元が空なので、クラスメイト達が各々輪を作って行く中、ただ一人でボッチ路線を貫いていた。
「じゃあ自由に二人組作ってトスの練習だ」
体育館でバレーボールを片手に体育教師が声を上げて言った。
バレーに限らずテニスやバスケ、野球にハンドボールなど、体育の時間は『◯人組』を作らされることが多い。その際には『自由に』とか『好きに』と付け足されることが多い。
ボッチには厳しい社会だ……本当の社会に出たらボッチではダメだと暗喩しているように空は思えてしまう。
「……余ってる人いるかな?」
キョロキョロと視線を泳がすも、余は出ていなかった。三人組がいる時点で余は出ないのであろう。
「はぁ、気配遮断しとけばいいか……こんな事のためにとったんじゃないんだけどな」
このまま一人でいると教師に怒られる。空にとってそれは面白くないので、スキルを使って隠れる。そしてのっさりとした動きで空は体育館の壁際に寄り、腰掛ける。
クラスメイト達が和気あいあいとボールをトスをし合っているのを見て空はふと「何が楽しいのだろうか」と疑問が浮かぶ。
空はボール遊びを楽しいと感じたことがない。感じるのは義務感、むしろ無感情だったりもする。また、するときは周りに流されてしているだけに過ぎなかった。
「球技、ねぇ……」
トン、トン、トンと空は手に持っているボールを、腰掛けている反対側の壁に設置されているバスケットゴールに向けてボールを投げた。
綺麗な弧を描き、ストンと小さな音と共にボールは輪を潜り、網にそって落ちて行く。
「皆んなこれが楽しくてやってるのか? 狂人の沙汰だな……」
怖い怖いと口にする空。傍目には体育教師が誰がゴールにボールを入れたのかと怒っていた。
床に転がっているボールを拾おうと空は近づき、そしてボールを取ろうと手を伸ばしたそのとき――それが空の頭の中に響き渡った。
『神の位を獲得しました』
抑揚のない機械的で男性とでも女性とでも取れる声だった。
その言葉を受け取った空は、今まで感じた事のない激痛を全身に受けた。
狂ったように叫び、あまりの痛みにのたうち回り、そして空は気を失った――
***
「ここは……」
目を覚ますと周りがカーテンに囲まれてたベットの上に空はいた。赤い明りがカーテンを照らし、時刻は夕方になったのだろうと分かる。
「病院か保健室……そもそもなんで俺はこんな状況に……」
細々とした声、空は働かない頭を動かし、どうにか気を失う前のことを何とか思い出した。
「確か『神の位』を得たって……それで激痛が来て気絶……。誰が『神の位』を得たって? 俺がかぁ?」
思い出せたはいいものの、状況を把握できていない空であった。
しかし、『自分が神の位を得た』と認識した途端、空は『神の位』が自分の中にあることが感じられてしまった。
「あ、あぁ……なんて言えばいいんだろうな……。元々持っていたように思えるような違和感のなさだぞ、これ……」
それがあって当然のごとく空の中にある。どんな感じがするのかと問われても、空は言葉に窮する。それは言い表せないのだ。ただ『ある』としか言いようがなく、それ以外の言葉は全て蛇足になってしまう……そんな感覚。
空は戸惑っているのかそうでないのか戸惑っている中、茜色に染まったカーテン越しに声がかけられた。
「あら、気がついたの? 大丈夫かしら、急に体育の時間に倒れて今まで気を失っていたのよ」
「……そうですか、異常とかありましたでしょうか?」
空の言葉の後、カーテンがゆっくりと開けられる。
「大丈夫みたいね、意識もはっきりとしている。それと、異常は全く見つからず。あとここは病院ね。学校で倒れてそのまま救急車で運ばれて来たのよ」
「そうですか。それにしたって救急車で搬送って……そんな大ごとみたいに」
「あなたは覚えてないのでしょうけれど、救急車に乗ってしばらくは意識がないまま暴れていたのよ?」
「ま、マジですか」
看護師の言葉に空は口の端をヒクヒクとひきつらせる。
「それで異常なしって逆に怖いですね……あはは」
「本当にね、笑い事じゃないのよ? こんな事例今までなかったんだから」
「そうですね。……ところでいつくらいに退院出来るんですか?」
「そうね……念のために精密検査をジックリとするらしいから、三日ってところよ。そう聞いた」
三日、仕方がないかと空は一息。あれだけの様を衆人環視の中で晒して、何の異常もなくその日のうちに退院しました。それは不自然にもほどがある。三日も不自然ではあるけれど……。
「入院の手続きとかしたいので案内してくれますか? 保護者は来てない思うのでしたいのですが……」
「あ、あぁそうですね、今から……で大丈夫ですか?」
「はい」
「それでは……はい……」
突然歯切れが悪くなった看護師の後ろに空は続く。病院特有の静けさに包まれた廊下を、ヒッソリと歩いていた。
***
空が精密検査のため入院している間、誠司達がお見舞いに来たのが精々であり、それ以外特筆すべきことが無かった。
入院中は空は、一日中誠司達に持って来てもらったゲーム機で遊んでいた。
そして退院してすぐ、ダンジョンに帰宅した。そして、これからどうなってしまうのかが空の頭から離れない。
目的を達成してしまい、空の行動指針がなくなってしまったのである。
目的であった『人類の進化』。『『神の位』を得ることができれば最良です』の言葉通りに空は『神の位』を手に入れた。
なぜ手に入ったのか、そもそも自分のどこが進化しているのか、全て空は分かっていないが得るべきものは得てしまったのだ。
神の期待に応えた今、世界はダンジョンのなかった頃に戻ってしまうのか、はたまたこのまま続いて行くのか、それとも俺が――――
『それはお主が決めることだ』
その先を空が考えようとした瞬間、声が聞こえ、そして空の意識は黒いものに塗りつぶされていった。
拙い文章ながら読んでくださったこと感謝します。
さて、あと数話で最終話を迎える予定になりました。
色々と理由がありますが、このまま話を続けてもダラダラとどうでもいい話を書いてしまいそうだからです。
プロットもなしにその場のノリで書いた結果、話を上手く着地させられないと思い、キッパリとここで切ることにしました。
この物語はあと数話投稿致しますので、最後まで読んでいただけたら、と思います。
あ、それと活動報告を上げました…….これ後書きに書いて良いのでしょうか?




