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10話 ダンジョンには常に危険が潜んでいる

 世の中には解決不可能な問題が山ほどある。しかしながら、その中の大体は小さなことを一つ一つ筋道をたどっていくと解決出来ることがほとんどだ。


 分かりやすい例をあげると、木の棒と少しばかしのお金をもらい魔王を討伐する有名なRPG。初期は武器無し、金無し、仲間無し、ついでにレベル1だよ? と中々に酷なことを目標にしている。

 やはり、いきなり魔王を倒す事など出来ず、近場で経験値とお金を稼ぎ装備を整え次の街に進み、そこでも同じような手順を踏んで、また次の街へ。

 それを繰り返すとレベルは高くなり、懐は厚く、仲間も十分集まっているだろう。

 そして、今までの積み重ねの結果、魔王を討伐と言う目的を達成出来る。



 そうやって初めは強大な敵でも順序をたどっていくことで難なく倒せることが出来るようになる。



 ただ、現実で努力して魔王を倒せなどと言われても、こればかりは不可能だ。現実はゲームの世界とは仕組みが全く異なり、努力した分だけ強くなれるわけではない。必ず頭打ちがくる。


 しかし、ゲームのような仕組みに現実がなればどうだろうか? 黒い門が急に現れ、その先の広間では必ずステータスが貰える。

 そして、それにはレベルの上限、スキルの所持上限がない。魔物を倒せば倒すほどレベルは上がって行き、ポイントの許す限りスキルを取ることが出来る。


 すなわち、それは人の上限を超えることを意味し、果てしなく強さを手に入れられると言うことだ。

 そして、神が作ったダンジョンは階層を降りても、難易度が急に上がるなんて事はない。緩やかに敵は強くなっていき、トラップの数と危険度も上がっていく。一つ前の階層を難なく突破できるようならば、ほどほどな難易度だ。しっかりと鍛錬をし、油断さえしなければの話だが……。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 優しい照明で明るすぎず暗すぎずのマスタールーム。現在そこには、4人以上が寝てもまだ余りあるようなベットに夏なのに何故か掘りごたつ、テレビは超薄型のすぐに割れそうでとても大きい、テレビの周辺にはゲームのハードが何種類も転がっており、ゲームソフトに至っては山のようだ。また、やたら高そうなソファーにはデブ猫とケットシーが寝そべっている。エアコンはもちろん完備だ。


 その中にダンジョンマスターである空が宙に浮くモニターをゲームをする手を休め見ていた。



「やっと自衛隊に人たちが来てくれた。1ヶ月だぞ! 1ヶ月! 何度モンスターを外に出してやろうと思ったことか!」



 空は、聞こえないとしりつつ今までの鬱憤をモニターの向こうの自衛隊にぶつける。



「何にも出来なかったんだぞ⁉︎ 六階層は作りかけだし、転移をそこそこ使うからDPがあまりたまらないし、それもこれも1ヶ月何もしてこなかったお前らが悪い!」



 六階層のことは仕方ないにしても、DPが貯まらなかったのは、どこかに移動するために面倒くさがって転移を日常的に使っていた空が悪い。


 

「けどまぁいっぱい来たことに関しては褒めてやる」



 自衛隊が初めてダンジョンに入ってから1ヶ月、その期間の間に部隊の各員に情報の共有をさせ、ダンジョン用にみっちりと訓練した結果、1ヶ月の期間が自衛邸には必要であった。


 その成果あってなのか、前回の13人のような少人数では無く、100人と大所帯であった。

 広間はそれだけ入ったとしても決して狭くはないし、ステータスを一気に獲得させようと言う腹だ。



「100人。アハハァ! 100人いればDPが……DPが……。どうせステ決めとかスキルとかその報告とかでかなりの時間ダンジョン内に居てくれるよな! あぁ、ワクワクが止まらん‼︎」



 空はやけにかん高い笑い声を上げながら楽しそうな表情で先の事を考える。


 そんな空の耳にに自衛隊の話が入る。



『ここはモンスターは来ない、と皆の頭の中に響いて来たと思う。そこで! ここに拠点を構えることにした! 万が一、情報が外に漏れでてしまっては混乱に陥ってしまうからだ!』



 それを聞いた空は腹がよじれるほどに笑い、転げ回る。



「バカだ、バカがいる! 確かに情報とか漏れないかもしれないけど、モンスターは来ないだけだよ? 文面通りに信じるなんて……脳筋だらけかよ、ダンジョンを笑い殺せるぞお前ら」



 『モンスターは来ない』これには隠されている言葉がある。それは『自発的に』の四文字だ。

 『自発的に』つまり自分の意思では来ない。ただしダンジョンマスターが指示を出せば広間にもモンスターは行くことが出来る方法がある。



「いまウルフを100匹くらい送り込んだら全滅じゃね? 地上も凄い被害出るだろうな。しないけどさ、もったいないし。レベル1で殺しても10000DPぽっちしかもらえないし、もっと育ててから殺す」



 笑いながらも、それに「けど……」と空は言葉を続ける。



「レベルが上がっったとしても、殺してポイントを回収するより、五分毎で貰えるポイントの方が効率は良いんだけどな……数にもよるけど」



 レベルが高い者はより深い階層に挑むだろう。そして階層はそこそこな広さがあるので、深い階層に挑むには長い時間ダンジョン内に居続けることになり、総じて五分毎に貰えるDPは合計すれば殺した時と比べ、より多くそして何度も手に入る。


 そもそもダンジョンの目的は人を殺すことでは無く、人類を進化させるためのものだ。



「まぁ、しばらくはそこにいてもいいけど、なるべく早く出て行った方がいいよ? 死んじゃうからね、たぶん」



 空は聞こえるはずもない画面の向こうの自衛隊に話しかける。



「そうならないように心の片隅の奥の奥の片隅くらいで祈っとくよ」



 そして空は宙に浮くモニターから目をそらし、手に持つゲームに視線を落とした。

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