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28.マジでふざけんな



『―――お父さん、あのね、おじさんたちがね、わたしはよく笑って、元気すぎて、とっても子どもらしいねえっていうの。ずーっと。変なのー』

『……彩羽。あの人たちの言うことは気にしちゃダメだよ』

『?』

『彩羽は、いつまでもそのまま、健やかに伸びやかに、自由に生きなさい』





―――やがて私は、あの人たちが言いたいことを知った。


本来、魔術師というものは冷静沈着で、こちらの考えを読ませず、人を上手く操り、常に「選ばれた者」として自らと一族を誇り、他者を見下して生きる。


なのに、甘えん坊で思うことをすぐ口にしてしまって、無駄に元気な私は――歴史ある「安居院」の後継にふさわしくないと、そう笑われていた。


どいつもこいつも、私を優しげな顔で甘やかし愛でながらも、内心では動物が餌をもらって喜んで食べるような様を晒すアホな私を哂っていたのだ。



『しかし、彩羽嬢と来たらまったく仕事しませんなあ』

『父君はあの年の頃、すでに大きな事件も扱っていましたが』

『甘やかされすぎなんですよ』

『なんでも、たかが一般人の小娘に監禁されたとかで。傷心のあまり伏せっているそうですよ』

『魔術師の名家の跡取りが、ただの小娘に、ねえ……』



―――まあ無能でも、容姿はいいから有能な婿を貰えるでしょう。

―――いいですなあ女は。外見が良ければ使い道もいくらでもあるんですから。







「―――とか言ってた親父たちがね!私が魔道書をゲットしてきたって知ったらすんごい顔してたの!ひゃっはあああすんごいスッキリした!!」

「………」

「それでね、『そういえば、お宅の息子さんは元気ですか?』って聞いたら真っ赤になってプルプルしてやんのー!はっははァ!あそこんちの息子ねー!普通の女性と駆け落ちしたの彩羽ちゃんは知ってるんだぞー!げっへへへへへ!」

「……………」

「でねでねー!お父さんがね!今度、高いお店でお食事しようねって!お母さんが好きなもの何でも買ってくれるって!うぇへへへへへ」

「………………」

「えっへはっ!どーしたの"継ちゃん"。なんか言ってよー褒めてよー」

「……………おばさん、こいつ酒臭いです」



"継ちゃん"に元気にほーこくしたら、なんかムシされた!


お母さんが「間違えてお父さんの洋酒入りチョコを大量に食べちゃったみたいなのよね」と言ったせいで、継ちゃんに頭叩かれた。なんでさ!撫でてよ!


「撫でて!褒めて!褒めて!」

「はいはいスゴイスゴイよく出来たね」

「でしょー!」

「………」

「継ちゃん良い子だからコレあげる!おいしーよ!」

「……これが元凶かっ」

「あっ!やぁーん何するの!ダメだよ一人一個!一個なの!」

「お前は一個以上食っといて何言ってんだ!もうダメ!食うな!」

「うあ゛ーあああ!!」

「服を掴むな揺さぶるな泣くな!!」

「―――あ、ごめんねー、ちょっと仕事の電話来ちゃったから…羽継君、彩羽をそのまま向こうであやしててくれるかな?」

「えっ、でも!」

「うううああああー!」

「お前は本当にうるさいから!」



継ちゃんはそう怒鳴ると、私に飴玉を一つ寄越した。


渋々頬張ってみると口の中にリンゴの味が広がる。とっても美味しい。

もごもご味わっていると継ちゃんは私と電話中のお母さんを交互に見て、私の腕を掴むとリビングから私の部屋へと移動した。


「―――まったく、これで何度目の飲酒なんだよ…」

「わかんないー!」

「……そうか」


肩を押されてベッドに座ると、継ちゃんは私の傍に腰を下ろした。

エアコンをつけて溜息も吐いた継ちゃんは、掠れた声で何か言っていたけど、聞き取れなかった。


だからジーッと継ちゃんを見ていると、継ちゃんは二度目の溜息を吐いて聞き取れる声を出した。


「……無事に済んでよかったな」

「おー!」

「今度からは、連絡入れろよ」

「おおー?」

「疑問符付けるな。…まあ、これで残るは今朝おじさんが言っていた――俺がこの家から逃がしてしまった【怪異】だけだな」

「まだあるよ」

「え」

「もうひとつねー、魔導書がゆくえふめーなんだって。この街にせんぷくちゃんしてるって」

「……最悪だな」

「ねー」


継ちゃんは頭を抱えた。



「……お前な、無駄にハイな状態で聞くのもアレだが―――」



継ちゃんは、なんかいろいろ言っていた。


たしか、やたらと「大丈夫か」ときいてきた気が、する。


私はよく分からなかったけど、継ちゃんが隣にいるからいいやと思って。


うんうんと頷いたあと、寝た。











ブブブブ、と、携帯が震えた。


なんだかズキズキする頭を摩りながら手にとって画面を見ると、見たことのない番号から電話がかかってきた。


半分寝ぼけていた私は、普段なら無視するか切ってしまうそれを繋いでしまった。



「はァーい?」

【――――し】

「え?」

【――――し】

「……へ?」



雑音がひどい。


もしかして私の携帯に問題があるのかと耳から離してみると、小さく、しかしはっきりと、聞こえた。






【         し   ね           】




―――ブツン、と。

顔の見えない誰かは、会話を切った。







.


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