エッセイ『人生で何度も職務質問された話』
『人生で何度も職務質問された話』
仕事上、髪型や髭の関係でよく職務質問されます。この十年程で起きた職務質問を纏めてみました。
一番最初に起きたのは今から九年前。二十歳の頃でした。演劇系の専門学校生で、髪の毛が腰の下まで行っていて、座ると髪の毛がお尻の下に入り込むくらい長い頃でした。深夜十一時頃、お腹が空いて、近所の夜中でも営業しているラーメン屋に行こうと道を歩いていると、パトカーがサイレンを鳴らして私の前に止まりました。「何だろう?」と思い通り過ぎようとすると、警察官がパトカーから出て来て私に声を掛けました。
「君、ちょっと良いかな?」
「はい?何でしょうか?」
「こんな所で髪の毛伸ばしてどうしたの?」
「は?」
今正に髪の毛が伸びている状態なら不審だろうけど、既にここまで伸び切っている状態で何言ってんだ?と思いました。
「いや、専門学校生なんで、髪の毛自由なんですよ」
「専門学校生?学生証ある?」
「はい」
学生証を見せると、「他に身分を証明出来る物は?」と言われ、保険証を出しました。すると、
「免許証は無いの?」
「免許持ってないんで」
「その歳で?」
「その歳って……免許取れない事情があるんですよ」
「何それ?」
「心療内科に通っているんです」
心療内科に通っていた、が正しい表記ですが、それを詳しく描いたのが「精神科の病院に入院してました」をご覧下さい。で、薬によっては運転が困難になる物もある為、車の運転は控えるようにと言われていました。それを聞いて、その時は持ってないと言いました。
「これから何処に行くの?」
「最寄り駅のラーメン屋です」
「こんな時間にやってるの?」
「深夜一時半までやってるんですよ」
「へー……」
不審がられたままその日は解放されました。そしてラーメンを食べに行きました。何だか美味しく感じませんでした。
二度目の職務質問は、翌日、また夜中にお腹が空いて同じラーメン屋に行くと、また巡回中のパトカーに捕まりました。
「君、ちょっと良いかな?」
「(またか……)はい?何でしょう?」
「ちょっと職務質問しても良いかな?」
「はぁ……良いですけど……」
すると助手席の刑事さんが現れました。
「あれ?昨日職務質問した子じゃない?」
昨日私を職務質問して来た刑事さんでした。
「あれ、昨日の……」
「まぁとりあえず学生証見せて?」
「昨日見せたじゃないですか」
「形だけだよ。形だけ」
納得がいかないまま学生証を見せ、すぐに返してもらいました。
「あの、何かここらであったんですか?」
「何でそんな事聞くの?」
「そりゃ二度もこんな事されたら気になりますよ。しかも一回は疑いが晴れたのに」
「疑いが晴れたとは一度も言ってないよ?昨日は見逃しただけ」
「って事は何か事件があったんですね?」
「そうなるね」
「そうですか。無事、事件が解決する事を祈ってます」
「君が犯人ならすぐ終わるんだがね」
「逮捕したいなら令状持って来て下さい」
「君、刑事ドラマとかよく見る?」
「えぇ。相棒とか古畑とか。それが何か?」
「いいや。最近の子はそういうの見ないと思ってたから」
「意外と見るもんですよ」
「へー。で、この後はまたラーメン?」
「はい」
「そう。じゃあどうぞ美味しいラーメンを食べてきてね」
「これが無ければもっと美味しくなると思うんですけどね」
「ははは、流石役者の卵だ。口が達者だね。じゃ、時間取らせて悪かったね」
そう言われて解放されました。その日もラーメンを食べて帰りました。またも美味しく感じませんでした。
更に翌日、またも夜中にお腹が空いていつものラーメン屋に向かいました。すると夜道でパトカーから「河野吉田くーん(実際は本名をフルネームで呼ばれた)」と拡声器で呼び掛けられながら私の横に停めました。
「これからまたラーメンかい?」
「今何時だと思ってるんですか!それに個人情報!」
「あぁ、ごめんごめん。事件解決したから報告しようと思ってね」
「じゃあ家に来て下さいよ!」
「パトロールついでに会えないかなと思ってさ」
「あぁ、そうですか!で、何の事件だったんですか?」
「それは守秘義務があるから言えない」
「そうですか。じゃあ、私、もう行っても良いですか?」
「良いよー」
そう言ってパトカーは去っていきました。その日もラーメンを食べて帰りました。慣れたのか、その夜のラーメンは美味かったです。
三度目の職務質問は、二十四歳の時でした。劇団を立ち上げて暫く経った頃、台本や小道具、衣装を大きめのキャリーケースに入れて持ち運び、東京にある市民センターのスタジオを借りて仲間と演劇の稽古をしていました。小学校の近くで、尚且つコンビニと喫煙所が近くにありました。いつも通勤ラッシュに巻き込まれる前、始発くらいで大荷物を運びたかったので、いつも待ち合わせの三時間前に最寄り駅に着いて近くの喫茶店が開く時間まで適当に散歩したりスマホを弄ったりして時間を潰し、開店と同時に喫茶店に入ってコーヒーを飲みながら稽古のシミュレーションや、PCで新しいネタを書いたりしてました。そして市民センターの開場三十分前(午前八時半)に近くの喫煙所で煙草を吸うのが日課になってました。そんな一ヶ月が過ぎた頃、自転車の警察官一人と、パトカーに乗った警官二人と、徒歩の警官一人が喫煙所で煙草を吸っている私の所にツカツカとやってきて囲みました。「何事?」と思い固まっていると、
「ちょっと宜しいですか?」
「は、はい……な、何でしょうか……?」
「何で煙草吸ってるの?」
何だその質問?と思いながら
「喫煙所だから……」
と答えると、
「あぁ、まぁ、そう、ですよね……」
と警察官も自分が何言っているのか分かってない状況だったのか、四人でヒソヒソ話しながら、ようやく話が纏まったのか、改めて事情を聞いてきました。
「最近ここらで髪の毛の長い男が大きいキャリーケースを持って、小学校付近で煙草を吸っていると子供会から通報がありましてね。もしかしたら貴方の事ではないかと思い、声を掛けさせて頂きました」
「職務質問ですか?」
「はい。そうです。何か身分を証明出来る物は持っていますか?」
「保険証なら」
「えっ、貴方、今歳幾つですか?」
「二十四です」
「二十四!?もっといってると思ってた……というかその歳で免許持ってないの?」
「心療内科に通っていて、薬の関係上、車の運転は控えるように言われてるんです」
「その病院の診察券はありますか?」
「はい」
警察官は渡された保険証と診察券に書かれた名前を確認し、スマホで病院に確認。電話を渡され、自分が河野吉田である事を話し、警察に職務質問されている事を伝え、警察にスマホを返し、暫く話している間に、別の警察官から
「ここ最近、貴方と思わしき不審者が見られるようになったと言われているんですが、貴方、何でここに来ているんですか?住まいは神奈川の横浜でしょう?ここは東京ですよ?何故こんな遠い所まで来ているんですか?」
「私、演劇やってるんです。一応、主宰です」
「ほう。それで?」
「色々自分の足で探している間に、皆が今住んでいる場所の中間地点でかつ、お金があまり掛からないスタジオが無いか探していたら、向こうにある市民センターを見付けたんです」
「あそこの市民センター?市民じゃなくても使えるの?」
「使えますよ。お金さえ払えば。それに電話でしか受け付けして頂けないのでかなり競争率高くて」
「へー。ちょっとこっちでも電話で確認してみますね。ちなみに登録者名は?」
「河野吉田です。グループ名は劇団〇×劇場です」
そう言うと、その警察官が市民センターに電話して、私の名前と劇団名を言うと、裏が取れたようでした。一方で心療内科の方も裏が取れたようで、私は無事解放されました。
四度目は三度目の日から数日後、再び自転車の警察官が喫煙所にやってきました。
「どうも、おはようございます」
「あぁ、先日の。おはようございます」
「多分、君の事だと思うんだけど、職務質問させてもらっても良いですか?」
「何かあったんですか?」
「いやね、貴方。先日通報されたじゃないですか」
「はい。おそらく」
「で、先日通報した男がまだ小学校付近をキャリーケースを持って徘徊して煙草を吸ってるって苦情が来てね」
「はぁ。まだ私疑われてるんですね」
「この前の方と人違いかもしれないので、一応、身分を証明出来る物を見せて下さい」
「保険証で良いですか?」
「はい」
警察官は警察手帳にメモをしたものと私の保険証を見比べて、問題が無い事を確認し、学校側に連絡すると言ってその日は解放されました。
五度目の職務質問は四度目の職務質問の更に数日後、市民センターの最寄り駅にてされました。その駅は付近に裏路地みたいな所があり、そこに喫煙所がありました。そこで一服しようと喫煙所に行くと、途中の道で大勢の警察官が多くの人に職務質問をしていました。「何かあったのかなー?」なんて思って通り過ぎようとすると、多くの警察官と刑事さんらしき人達が私を取り囲みました。「何だ!?」と思っていると、
「ちょっと宜しいですか?」
「は、はい。何でしょう?」
刑事は警察手帳を見ながらブツブツ言っていました。
「ロン毛の男、黒い眼鏡、オレンジの上着、白いズボンに白い靴、そして紫のキャリーケース。間違いないな?」
「えぇ、まさにその通りですね」
何の事か分からず、黙っていると、刑事らしき人がズズイと顔を近付けて来て、
「○○××という男を知ってるな?」
「は?どなたですか?」
「しらばっくれるな!知っているだろう!この男を!」
そこで一枚の男の写真を見せられました。勿論誰かは分かりませんでした。
「知りません。誰ですか?この人は?」
「ええい!もう良い!手荷物検査と身分証明をさせてもらう!」
「キャリーケースならどうぞ。身分を証明出来る物は保険証しか無いんですが良いですか?」
「君、車は?」
「(心療内科の)薬の都合で運転は控えるようにしてるので免許自体持ってないんです」
「クスリ!?貴様……!ただで帰れると思うなよ……!」
胸倉を掴まれ、凄まれました。めっちゃ怖かったです。すると一人の警察官が大声を上げました。
「○○さん!コレ!」
その手にはアルミケースがありました。それは、この日は、「演劇の撮影だけじゃなく、ボードゲームの動画撮影もしてみようじゃないかという事から、カタンというボードゲームを持っていました。それは小さなアルミケースにゲームで使用する小道具が入っていました。
「河野とか言ったな。これは何だ?」
「カタンです」
「カタン?新しい合法ハーブか?」
「ゲームですよ」
「ゲームで使うクスリなのか?」
「カタンと言うゲームです」
「カタンと言う合法ハーブのゲームなのか?」
「話してても埒が明かないんで中身見てもらって良いですよ」
その刑事と警察官がアルミケースを確認し、中身は問題無い事が分かり、他にもキャリーケースから怪しい物は出てこなかった事と、三度目と四度目に渡しを職務質問した警察官が現れてより無実が証明され解放されましたが、その刑事から最後に、
「紛らわしい格好してんじゃねぇ!」
と吐き捨てられたので、腹が立って名前を聞いて、そのままその警察署に「犯罪者に決め付けられて不快に感じた」と伝え、厳重注意してもらうようにクレームを電話で入れました。
六度目の職務質問は二十七歳の時でした。家から一時間半弱程歩いた所に広い植物公園があるのですが、園内の散策路が入り組んだ道で出口が何処か分からず、彷徨っていると、一つ煙突が見える建物があり、子供達が出てくる施設がありました。何だろうと思い近寄っても中には入れず、続きの道も塞がれていて、帰ろうとした時、門の所に「○○小学校」と書かれた表札があり、「あぁ、何だ。小学校だったのか」と思いまたウロウロと植物公園を彷徨い、三十分くらい掛けて出口に着きました。そこにはパトカーが停まっており、警察官が私を見るなり近付いてきました。
「ちょっと宜しいですか?」
「はい?何でしょう?」
「貴方、○○小学校の前をウロウロされてましたよね?」
「あぁ、そうなりますね。そうです」
「何故あそこにいたんですか?」
「道に迷いまして」
「怪しいですね……身分を証明出来る物はありますか?」
「保険証で良いなら」
「免許証は持ってないんですか?」
「免許持ってないんで」
「何で持ってないんですか?」
「心療内科の病院に通っているんですけど、そこの薬の関係上、車を運転するのは控えるよう言われているんです」
「あぁ、そうなんですね。その病院の診察券はありますか?」
「あります」
心療内科の診察券を渡し、病院に電話してもらい、私の事を確認すると、すぐに解放されました。
七度目の職務質問は二十七歳の時、心療内科の帰り道でした。薬局で処方された薬を買い、帰ろうとした時、駅前で警察官が集まっていて、声を掛けられました。
「ちょっと宜しいですか?」
「はい?何でしょうか?」
「この辺でメイド喫茶のメイドさんに痴漢を働いた輩がいましてね。ちょっと事情聴取してるんですよ。今、お時間宜しいですか?」
「はい。良いですけど、私、そんな事件聞いた事無いですよ?」
「そりゃあまだマスコミに発表してないですからね」
「はぁ」
「で、つい一時間程前、新たな被害者が出ましてね。身長が170cmくらいで明るい服を着た長髪の男が犯人でね」
「あぁ、成程。私がそれに該当すると」
私は身長170cm、ロン毛、その時はオレンジ色の上着を着ていました。該当するなぁと思いました。というか毎回私自身の事を指してるとしか言いようがない職務質問だなと思いました。で、事件当時、私はその時、心療内科の病院にいたので明細書と保険証を渡し、電話で確認が取れた後、解放されました。その後その事件がどうなったかは知りません。
八度目の職務質問は二十九歳の時、地元の最寄り駅でした。いつもは警察官が外でウロウロするなんて滅多にない事なのですが、その日は五人くらいが交番前の信号を挟んだとあるお店の前に集まっていました。つい最近、二、三件とある事件があり、いずれも犯人が捕まっていないのでピリピリしてるのかなと思い信号待ちしていると、一人の警察官が私を見るなり指差してきました。他の四人も私を見て「あっ!」と言って駆け寄って来て、囲まれました。
「ちょっと宜しいですか?」
「あ、はい」
「ここだとアレなんで、交番で話しませんか?」
「良いですよ」
そう言って私含め一同は交番の中に入っていきました。そこでお茶を出されました。
「お茶なんて出すんですね」
「まぁリラックスしてもらう為、ですからね」
「はぁ」
「で、お話なんですが、今日の午後一時三十分頃、この近辺のコンビニに強盗が入りましてね」
「はぁ」
「身長170cm前後。中肉中背の男。ベージュの帽子にズボン、バッグ。白マスク。大きめのグラスの黒縁眼鏡。黒の靴。そしてオレンジの上着。手袋に包丁を持って現れましたが、現金十万円程奪い逃走したんです」
「はぁ。まるで今の私の姿そのままですね。これで手袋と包丁が出て来たら犯人は私ですね」
「だったら我々としても嬉しいんですがね。で、もうお分かりかと思いますが、アリバイはありますか?」
「東京の心療内科に丁度その時間いました」
マイナンバーカードと保険証と診察券を出し、電話してもらい、確認が取れました。そして解放されました。
九回目の職務質問は同月、また地元の交番に捕まりました。麻薬取締月間だか何だかで。バイヤーだと思われていたので両手の指と指の間を見せました。漫画知識で知ったのですが、バイヤーはここで注射し、味見?をするんだとか。次に両脚の踝を見せました。これはドラマ知識で、麻薬常習犯はここに打つんだとかで。手慣れ過ぎてて逆に怪しいと更に疑われましたが、両肘を見せても注射痕が見られず、マイナンバーカードと保険証と診察券を見せると、電話で確認してもらい、アリバイがあるという事で、軽い質疑応答でその日は解放されました。
そんなに怪しい顔付きでもしてるのかなぁ……やっぱりロン毛がアカンのかなぁ、なんて思いました。二十代になってこんなに職務質問されて、二十代の間に十回目の職務質問されたら何か記念に何かやりたいですね(何を?)。
以上、私が体験した職務質問でした。
と思うじゃん?実はこれ書いてる最中、十度目の職務質問されました。
隣の区にある病院に祖父が入院していたのですが、普段はバスかタクシーを利用して行き来してましたが、この日は行きはバスで帰りは徒歩で帰ってきました。もうすぐ最寄り駅付近に到着するぞ、という所で区役所の前で包丁を振り回しているオジイサンが警察に取り囲まれていました。何か「俺は電話番号を知りたいだけだ!」と言っていて、挙句の果てに「アイツの方がよっぽど不審者だろ!アイツを職質しろ!」と言って私を指差してきました。私は辺りを見渡して、「あ、俺か」と分かり、警察官が「分かりました!分かりましたから!」と言って一人私の側にやってきました。
「すみませ~ん。職務質問させてもらっても宜しいですか?」
「あ、はい」
「身分を証明出来る物はありますか?」
「マイナンバーカードで良いなら」
「ありがとうございます。えーっと……えっ、〇×区にお住まいなんですか?」
「はい」
「失礼ですが、どこへお出掛けしていたのですか?」
「△△区の□□病院です。祖父が入院しているので、見舞いに行ってました」
「そ、そうですか。でもその病院って〇×駅のすぐ側ですよね?」
「はい」
「ならバスも出てたはずですよね?途中下車したんですか?」
「いいえ?歩いて帰ってきました」
「はぁ!?ど、どれくらい掛かりました!?」
「今の所一時間二十分くらいですかね」
「そんなに歩くの……?」
「これくらいなら私にとっては普通です」
「え、あ、はい。そう、ですか……」
マイナンバーカードの情報をメモされ、返してもらいました。あのオジイサンが何をしていたのか聞いてみました。
「あの人、何してたんですか?」
「包丁持って区役所に行こうとしてたみたいです」
「何でですか?」
「何でも、包丁が鈍らになったらしくて、研ぎ師に頼むか新品の物を買うのどちらが安いかを聞きたかったらしいです」
「バッグから取り出して強盗に間違われて外に放り出されたとかじゃないんですか?」
「いえ、包丁を持ってここまで来て、通報されて、区役所に入る前に職務質問をしました」
「警察も大変ですね」
「恐れ入ります。では私はこれで。ご協力ありがとうございました」
「はい」
ってな感じで十度目の職務質問を受けました。これで二十代の間に、一年に一回は職務質問をされている計算になりますね。って事で特に記念は特にありません。
以上、本当に終わりです。




