アルデリア
「無事で、本当に何よりだ。」
アルフィーは私たち二人を連れて、裏路地を進んでいた。
「アルフィー、ありがとう。命がかかっているというのに。」
「礼を言われるようなことではない。それよりも、ここを何とかして抜け出さなければ。」
アルフィーは私たちをパッと引き止め、影から町の様子を伺う。
町には私たちの脱獄を知った兵士が、あちこちで見回りを行っている。
「…ちっ、ここは行けそうにないな。」
「どうしたらいいんだ。ここで野宿をするのが得策なのか?」
「落ち着け、ノアル。俺に案がある。」
慌てふためく兄上をよそに、アルフィーは私の方を向く。
「非常に不本意だが、アルデリアのところへ行くしか、方法はなさそうだ。」
「アルデリア?」
「ああ。俺の昔からの親友でな。よく武器の密輸をしてくれていた。」
「戦いでの生き残りなんだな。」
「そう、裏で一番役目をはたしてくれていた。そいつならしばらく保護してくれるかもしれない。」
「でも、今は町に行けない。」
「頭を使うんだ。武器を密輸する奴が、のうのうと町で暮らしていると思うか?」
「あ」
「あいつはな。…ここに住んでいるんだ。」
そういうとアルフィーは、路地の壁を探り始めた。
「…よし、あった。」
すると壁に長方形の割れ目が、そして次の瞬間には地下へと続く階段が姿を現した。
「これは…」
「ついてこい。」
アルフィーが階段を数段降り、振り返って二人に催促する。
「ほら、グレース。おいで。」
兄上の手を掴んで、私と兄上も後を続いた。
「いらっしゃい。」
部屋に入った途端、艶やかな声に私は背筋がぞくっとした。
見ると、真っ白のローブを羽織った女性がこちらに微笑みかけていた。
「アルデリア。久しぶりだな。」
「本当。で、何の用?」
「この二人を匿ってほしくてな。」
「ふうん。あんたたち、名前は?」
「グレースだ。こっちは、兄のノアル。」
「私はアルデリア・マシュー。ここで武器の密売をしてるの。以後、お見知り置きを。」
アルデリアはにこやかに微笑んだ。
「で、アルフィー。ここに来たってことは、あんたも相当ヤバいんじゃないの?」
「まあ、そういう事になる。」
「私地上の事はよく知らないけど、一体全体何があったの?」
そしてアルフィーは事のいきさつを説明した。
「ふうん。それで、この子たちがその罪人。」
「こいつらは罪人と言われることは、なにもしていないんだ。」
「珍しいじゃない。温情が働いたわけね。」
「それは皮肉か。」
アルデリアはアルフィーをからかうように笑い、私たちに向き直った。
「うん、事情は分かったわ。しばらくここにおいてあげる。」
「本当か」
「ただし。」
アルデリアは真面目な顔になって、私と兄上を交互に見つめる。
「一か月よ。それまでにこの国からの脱走の手立てをして、ここを去る。いいわね。」
「あ、ありがとう、感謝する…!」
私は頭を下げた。
と、
「っ!?」
その瞬間、右腕に激しい痛みが生じた。まるで火であぶられたかのような、そんな痛み。
私は耐えきれずその場にしゃがみ込んだ。
「グレース!」
「お前、どうしたんだ!」
「う、腕が…」
「腕?」
兄上はすぐさま私の右腕を掴み、袖をめくる。
「こ、これは…」
「え?」
私は首をひねり、自分の腕を見た。
その途端、絶句した。
そこには黒色の奇妙な模様が描かれていたのだ。肌にぴったりとくっついて、取れそうにない。
つい最近まではなかったのに。一体これは?
「呪いの紋章だよ。」
その声に振り返ると、アルデリアが肩を震わせて立っていた。
真っ青になった唇から、わずかに言葉を発する。
「あなた…いったい何者なの?」