第九話 害獣駆除
無いものねだりをしていてもしょうがない。
やるか。
決意を固めた俺はイリルに指示を出す。
その内容はもちろん、〝魔法で攻撃しろ〟……ではなく、〝俺が命令するまで待機しろ〟だ。
無闇に魔法をバカスカ撃つような戦い方をするつもりはない。
状況が不利な分を戦術で補わないとな。
イリルから了解の意思が返ってくるのを待って、行動に出る。
俺は連中が最も密集しているイビルバットの死骸付近に【イグニスフィア:Lv1】を叩き込んだ。
『ヂュッ!?』
ネズミ共の悲鳴が広い空洞に響き渡った。
一瞬で10匹ほどのグラトニーラットが炎に包まれる。
そのうち即死しなかった数匹が苦痛から転げ回り、周囲に被害を撒き散らし混乱をより拡大させた。
《魔法スキル【イグニスフィア:Lv1】がLvアップしました》
《敵対者を討伐しました(x7)。経験値75を獲得しました》
《インプ【名称未定】はLvアップしました。Lv5⇒Lv7》
お、魔法もLvアップしたか。
幸先いいな。
気を良くした俺は、群れの密集地帯を狙ってどんどん火球を撃ち込む。
【イグニスフィア:Lv2】になったおかげで火球の同時生成数が2個になり、MP効率も上がっている。
これならいけるか?
《敵対者を討伐しました(x9)。経験値103を獲得しました》
《インプ【名称未定】はLvアップしました。Lv7⇒Lv9》
《敵対者を討伐しました(x7)。経験値80を獲得しました》
《インプ【名称未定】はLvアップしました。Lv9⇒Lv10》
《魔法スキル【サイネス:Lv1】を習得しました》
《敵対者を討伐しました(x8)。経験値84を獲得しました》
《インプ【名称未定】はLvアップしました。Lv10⇒Lv11》
《敵対者を討伐しました(x6)。経験値62を獲得しました》
《インプ【名称未定】はLvアップしました。Lv11⇒Lv12》
《敵対者を討伐しました(x5)。経験値55を獲得しました》
《敵対者を討伐しました(x5)。経験値59を獲得しました》
《敵対者を討伐しました(x4)。経験値41を獲得しました》
《インプ【名称未定】はLvアップしました。Lv12⇒Lv13》
《敵対者を討伐しました(x4)。経験値48を獲得しました》
《敵対者を討伐しました(x3)。経験値36を獲得しました》
残MPが200を切ったところで俺は攻撃の手を止めた。
これ以上は効率が悪い。
怯え混乱したネズミ共が広間中に散った事と、単純に数を減らした事で殲滅効率がどんどん落ちている。
MP温存の理由もあるが、ここからは近接戦に切り替えた方が合理的か。
結局、魔法攻撃では約半数ほどしか倒せなかった。
まあLvアップして多少強くなったし、残りは近接戦でも何とかなるだろう。
俺は壁際付近にいる個体に狙いを定め、急降下攻撃を敢行。
グラトニーラットの背を踏みつけるようにして着地すると、足裏から背骨が折れる音と内臓が潰れる感触が伝わってきた。
確かめるまでもなく、これならほぼ即死だろう。
奇襲で一匹を仕留めた俺は、間髪入れずに直近の個体へと襲いかかる。
「ヂッ!?」
標的にされたその個体は慌てて逃げようと身を翻すも、間に合わずに【全力ひっかき:Lv2】を喰らい、倒れる。
《敵対者を討伐しました(x2)。経験値23を獲得しました》
さすがにステータス差があるせいか、一対一なら楽勝だな。
しかし問題はここからだ。
狂騒状態で右往左往していたネズミ共が足を止め、一斉にこちらを向いた。
夥しい数の赤い瞳が暗闇で炯々と瞬く。
そのホラー的な光景に少しばかり恐怖を感じ、一瞬身が竦む。
弱みを見せたのがいけなかったのか。
次の瞬間、ネズミ共が怒涛の如く俺へと襲いかかってくる。
ちっ、面倒な。
力量差を悟って逃げてくれれば楽だったのに。
ま、そういつもいつも都合良くはいかないか。
俺は迎撃のために身構えつつ、イリルへと指示を送る。
内容は〝これから範囲スキルを使うので注意せよ〟だ。
使うのは例の便利スキル【金切り声:Lv1】。
これでネズミ共を混乱状態にしてしまえばかなり有利になる。
俺は大きく息を吸い、全力で叫ぶ。
「キィィィィイイイイッッッ!!」
俺の甲高い声が広間に乱反射して響き渡った。
ネズミ共がビクリとして動きを止める。
そしてその直後、ネズミ共は大混乱に陥った。
半数近くの個体が同士討ちや逃走を始めたのだ。
《特殊スキル【金切り声:Lv1】がLvアップしました》
うむ、大成功。
しかもスキルLvもアップ。
やったぜ。
それにしても、やはり【金切り声】は使える。
特に対多数戦での効果は絶大だな。
とはいえ状態異常にかかってない個体は、ほとんどが俺へと向かってくる。
数にして20匹以上はいるだろう。
しかしこれくらいなら捌ける。
イリルの援護も期待できるしな。
というわけで、ようやくイリルに攻撃解禁の指示を出す。
〝俺を援護しつつ、密集地帯には魔法をぶちこめ〟だ。
【シャドゥーム】は、闇属性の攻撃魔法だ。
その効果は、触れた者の生命力を吸い取る闇色の霧を生み出すというもの。
【イグニスフィア】ほど直接的な火力は持たないが、範囲が広く持続時間も長い。
比較的、援護向きな攻撃魔法と言えよう。
出番を待ち望んでいたのか、イリルが早速魔法を使う。
俺の少し前方に、もわっとした黒い霧が出現したのだ。
範囲は縦横高さ4mほど。
中大型の敵相手では心許ないが、小型犬サイズの鼠相手なら十分なキルゾーンになる。
黒霧に触れてやや動きの鈍ったネズミ共が次々に抜けてくる。
俺はそれを迎撃し、鎧袖一触で倒してゆく。
元々ステータス差があるのに、更に弱体化したのではネズミ共に勝機はなかった。
イリルもまた、俺に注意が向いている個体を狙って上空から急降下攻撃を行う。
先の戦闘で俺も痛い目を見た【ダイブアタック:Lv2】だろう。
奇襲効果もあってか、グラトニーラットはろくに避ける事もできずに一撃で倒されてゆく。
《技能スキル【格闘:Lv1】を会得しました》
《攻撃スキル【全力ひっかき:Lv2】がLvアップしました》
《敵対者を討伐しました(x16)。経験値132を獲得しました》
《インプ【名称未定】はLvアップしました。Lv13⇒Lv14》
結局、襲ってきたネズミ共は数の利を活かせずそのまま全滅した。
読んでいただきありがとうございます。
九話終了時点でのステータス情報を活動報告の方に載せてあります。