第十話 バックアタック
ふぅ。
山場は越えたか。
一息つきたいところだが、まだ広間には混乱中のネズミ共が残っている。
いくらか広間の外へ逃げたようだが、まだ相当数が残っている。
混乱状態な今のうちにサクッと殺ってしまおう。
イリルにその旨を指示し、俺はいったん空中へと上がる。
ネズミ共の頭上を飛び越し、広間の入り口付近に舞い降りた。
ここに陣取っていれば、極力ネズミ共を逃がさずに済むだろう。
イリルには広間の奥側からグラトニーラットを狩ってもらう。
いわゆる追い込み猟だ。
俺はあまり動かず、近寄ってきた個体を倒してゆく。
奥ではイリルが順調にネズミ共の数を減らしているようだ。
そろそろ多くの個体が混乱状態から脱しつつあるようだが、俺やイリルから逃げ惑うばかりで反撃に出ようという気配はない。
《敵対者を討伐しました(x7)。経験値78を獲得しました》
《インプ【名称未定】はLvアップしました。Lv14⇒Lv15》
グラトニーラットが残り3匹まで減り、そろそろ終わりかと緊張を緩めたときの事だった。
背後に強い殺気が膨れ上がり、俺の胸を何かが貫く。
「ギュッ!?」
なっ……んだと……っ!?
俺は倒れそうになるのを堪え、地を蹴って空に飛び立つ。
しかしその直後、俺の右翼の皮膜が何かに貫かれ、激痛が走る。
ぐっ、またか!
念のため回避機動のつもりで左に体を傾けてなかったら、胸に二撃目を貰っていたかもしれない。
そしてどうやら俺が食らったのは弓矢による攻撃のようだ。
俺の皮膜を貫き、そのまま高速で真横を通り過ぎて行ったのが矢である事をこの目で確認した。
という事は、背中から胸に突き刺さっている異物も矢だろう。
俺は【聖気治癒】で応急治療しながら左右に飛び、ひたすら距離を稼ぐ。
そんな俺の至近を、何かがヒュンと風切り音を立てて通り過ぎていった。
再度の追撃を予想していた俺は、そのタイミングで後ろへ振り向く。
連射の間にもタイムラグがあると考えての事だ。
幸いにしてその読みは当たり、四度目の攻撃が来る前に敵の姿を視界に収める事ができた。
俺を奇襲してきたそいつは、小柄な人の型をしていた。
その者は両手で弓を引き、今にも矢を撃ってきそうだ。
俺は慌てて回避行動を取る。
次の瞬間、耳障りな音を立てながら矢が俺の真下を通り過ぎていった。
《防御スキル【機動回避:Lv1】を習得しました》
ホッ。なんとか避けられたか。
ついでに防御スキルを習得できたのは不幸中の幸いである。
とりあえず回避に専念すれば致命傷は避けられそうだが……。
いつまでもは無理だ。
突如陥った窮地に焦燥感を抱きつつ、敵の情報を取得する。
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《種族》妖魔種・コボルトハンター
《名称》ポッチ
《性別》♂
《年齢》7
《状態》良好
《能力》
Lv:19/26
HP:1283/1390
MP:1180/1180
筋力:155
耐久:139
敏捷:170
精神:152
魔力:118
カルマ:13
ランク:☆☆☆
装備品:
右手:青銅の矢(STR+15)
左手:ボーンウッドボウ(STR+38)
頭部:魔物の骨兜(DEF+24)
胴体:皮の胸当て(DEF+21)
固有スキル:
【狩猟者の心得】
派生スキル:
種族スキル:
【超嗅覚】【暗視】【鉱石探知】
【鉱質変化】
技能スキル:
【格闘:Lv1】【投擲:Lv3】【鈍器:Lv1】
【短剣:Lv2】【弓:Lv5】
攻撃スキル:
【噛みつき:Lv3】【速射:Lv4】
防御スキル:
【機動回避:Lv3】
特殊スキル:
【遠吠え:Lv2】【咆哮威圧:Lv3】【気殺隠行:Lv5】
【気配察知:Lv4】
魔法スキル:
耐性スキル:
【土耐性:Lv2】【寒冷耐性:Lv3】【物理耐性(打):Lv2】
【物理耐性(斬):Lv2】【痛覚耐性:Lv2】
一般スキル:
【魔族言語:Lv4】【穴掘り:Lv3】【岩掘:Lv3】
【鉱石採掘:Lv3】【鉱石鑑定:Lv4】【待ち伏せ:Lv5】
【隠れ身:Lv5】【死んだふり:Lv3】【索敵術:Lv4】
【追跡術:Lv5】【罠作成:Lv1】【罠設置:Lv1】
【小道具製作:Lv3】【調理術:Lv1】
称号:
【害獣ハンター】【山師】
説明:犬頭人体の魔物、コボルトの進化種。
天性の狩猟者で、隠密能力や追跡能力に長けている。
コボルト種は本来群れで行動するが、この進化種は単独行動で狩猟する事を好む。
種族的に鉱物との親和性が高く、鉱石を発見したり加工する先天的技能を有する。
高度な知能と器用さを備えており、人種のように言葉を喋り道具を扱う。また、作りの単純な小物を作成したりもする。
種族ランクは高くないが、武装したり罠を仕掛けたりする技術と知能があるため、実際の脅威度は格段に高い。
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うわぁ……。
これは相手にしちゃダメな奴だ。
RPGで例えると、序盤に出てくるが強すぎて絶対に倒せないイベントボスみたいな。
ゲームなら戦闘で負けても何だかんだと主人公は生き延びるが、現実の場合はそうもいかない。
負けイコール死だ。
さてどうするか。
戦うには格上すぎる相手だ。
ランクは3だが、装備やレベルを鑑みればランク4相当の強さと言える。
まともにぶつかっても勝機は薄い。
一応、勇者時代にコボルトとの交戦経験はある。
人族社会に被害を与えたコボルトの集落を何度か潰したのだ。
その際にコボルトの上位種と戦い、倒してもいる。
ただその時は力量差がありすぎて、戦ったというより軽く薙ぎ払ったみたいな感じだった。
なので正直、あんまり印象に残ってない。
そういう意味では力関係の立場が逆転したこの状況、ある種の因果応報と言えそうだ。
とは言ったものの、負ける気などさらさらない。
俺が普通のランク2だったら勝ち目などないが、こちとら魔法特化型だ。
コボルトの倍はある俺の魔力なら、【イグニスフィア:Lv2】を直撃させれば一撃で葬れるはずだ。
だが問題もある。
消耗しきった今の俺では、魔法を全力で撃てるのは一度だけ。
外したらその時点で負け確定だ。
イリルとの二体がかりでも軽く薙ぎ払われて終わりだろう。
リスクを避けたいなら、MPが残ってるうちに空を飛んで逃げるという選択があるにはある。
まぁこれはこれで、矢をかわしながら逃げ切れるのかというと微妙なところだが。
――よし、決めた。
(元)勇者たるもの、勇敢に戦うべし!
……という精神論で決めたわけではないが、倒せる見込みがあるなら挑みたい。
これで敗北して死ぬようなら、しょせん俺はそれまでの男だったというだけだ。




