第五話 初戦闘
さて、次は何をすべきか。
決まってる。攻撃魔法の習得だ。
今のままでは戦闘に多大な不安があるからな。
俺は昔とった杵柄……というほど前ではないが、かつての経験を頼りに精神集中し、体内魔力を操る。
「キュキィ!」
(言葉になってない)魔法名を叫び、左掌を前方に突き出した。
直後、掌先の空間に直径30cmほどの火球が生まれ、間を置かず発射される。
火球は高速で直進し、俺がいる広間の反対側の壁に着弾。その場に大きな炎の華を出現させた。
《魔法スキル【イグニスフィア:Lv1】を習得しました》
よっし、一発マスター!
俺は小さくガッツポーズを取った。
ちなみに今ので消費したMPは36。
これならあと20発は撃てるな。
とはいえ飛行や回復にも魔力を使うし、極力無駄撃ちは……ん?
広間入り口の向こう側から何かが……
「!」
バサバサッという大きな羽ばたき音を立てて、広間に黒い影が複数侵入してくる。
あれは……蝙蝠?
サイズが大きいところを見ると、魔物だな。
それが3体。
たぶん、先ほどの魔法がこいつらを引き寄せたのだろう。
魔物は魔力に敏感だからな。
ともかく、【悪魔の目】で強さを確認してみよう。
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《種族》魔獣種・イビルバット
《名称》-
《性別》♂
《年齢》2
《状態》良好
《能力》
Lv:7/13
HP:180/180
MP:190/190
筋力:18
耐久:18
敏捷:36
精神:16
魔力:19
カルマ:-24
ランク:☆☆
固有スキル:
派生スキル:
種族スキル:
【超聴覚】【翼飛行(普)】【吸血回復(微)】
【反響定位】
技能スキル:
攻撃スキル:
【噛みつき:Lv4】【ダイブアタック:Lv2】
防御スキル:
【反射回避:Lv3】【機動回避:Lv1】
特殊スキル:
【超音波:Lv3】
魔法スキル:
耐性スキル:
【闇耐性:Lv1】
一般スキル:
【天井接地:Lv3】
称号:
【闇夜の捕食者】
説明:主に魔界に生息する大型の肉食系蝙蝠。
洞窟などの暗所を住処とし、夜になると外に出て狩りをする。
鋭い牙と足の爪は肉食獣並に鋭く、空を飛び回るため機動力も高い。
他の蝙蝠類と同様、超音波を使って相対位置を把握する能力をもつ。
基本群れで行動する事もあり、低ランクであっても危険な魔物である。
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敏捷特化の近接戦闘タイプか。
他の個体も確認したが、同種なだけに似たようなスペックだ。
転生前ならともかく、今の俺ではかなり危険な相手と言える。
それが3体も。
いきなり大ピンチだ。
嘆いていても仕方がない。
蝙蝠共を倒す方法を考えよう。
奴らは俺の頭上を忙しなく飛び回っている。
獲物の隙を狙ってるのだろう。
目で追えないほどではないが、飛行速度はかなり速い。
しかも飛ぶには狭い場所なのに、壁にぶつかりそうな気配もない。
超音波による空間認識能力によるものか。
こちらの攻撃もあっさり避けられそうで厄介だ。
俺も飛べはするが、空中戦は挑まない方がいいだろう。
飛び上がった瞬間、三方から襲いかかられて血袋と化す未来しか見えない。
地上で迎え撃つ場合は、近接攻撃でカウンター狙いになる。
数的不利や敏捷差を考えるとリスクが高すぎるな。
八方塞がりのように思えるが、勝機はある。
先ほど習得したばかりの【イグニスフィア】で撃ち落とすのだ。
というかそれくらいしか対抗手段がない。
――グダグダ考えるよりも、実行あるのみ!
魔法による先制攻撃を決意し、魔力操作に意識を向けた瞬間。
様子見していた蝙蝠たちが一斉に飛びかかってきた!
ちぃっ!
魔法が間に合うタイミングではない。
俺は魔力操作を中断し、全力で回避行動に移る。
右側へと体を捻り、硬い岩の上を転がって攻撃を避けようとする。
だが……
「ギュッ!」
ザクッ、と音を立てて俺の背中を鋭い何かが抉った。
直撃ではないが、イビルバットの攻撃が掠ったようだ。
背中が焼けつくように痛い。
俺は咄嗟に【聖気治癒】を発動させ、受けた傷の治療を図る。
たちまち痛みは和らいだが、安心はできない。
横たわった状態から素早く立ち上がる。
幸い、追撃はなかった。
頭上を仰げば、蝙蝠たちが上昇しているところだ。
――チャンス!
俺は瞬時の判断で魔力を練る。
その目論見は功を奏し、蝙蝠たちが高度を取って巡行状態に戻った時には魔法が完成した。
そして即座に【イグニスフィア】を発動。
今回は掌先ではなく、頭上に火球を生成する。
炎の放つ光により、洞窟内が一気に明るくなった。
突如生まれた炎と光に動揺したのか、蝙蝠たちの動きが乱れる。
今だ!
俺はイビルバットの一体に狙いを定め、火球を放つ。
「キッ!?」
しかしイビルバットはやや無理な動きながらも、飛来する火球をひらりとかわした。
まさかこれを避けるとは。
失意で呆然とした瞬間、蝙蝠たちが再び急降下してくる。
しまった!
虚を突かれたせいで反応が遅れる。
さっきのような回避方法は間に合わない。
俺は両腕で顔面をガードしつつ、後ろに跳躍する。
だがやはり回避は間に合わず、両腕と脇腹をざっくり抉られる。
小柄で体重の軽い俺はその衝撃により体勢を崩し、背中から地面に叩きつけられた。
「ギュアッ!」
まずい、このままじゃ集られて殺られる!
重傷を負った獲物が倒れて、柔らかい腹を晒しているのだ。
地上での行動が苦手であろうと、これほどの好機を捕食者たちが逃がす筈がない。
案の定、蝙蝠たちは地を跳躍し襲いかかってくる。
その様子が、スローモーションのように視界に映った。
逃げられない。
殺される。
どうすれば。
何か対抗手段は――あっ!
「キィィィィイイイイッッッ!!」
俺は肺機能と声帯に全力を篭め、甲高い叫び声をあげた。
至近でその音波をモロに受けた蝙蝠たちの体勢が乱れ、失速する。
――これなら!
いちかばちかの心境で、全開した魔力を翼に送る。
種族スキル【魔翼飛行(遅)】を発動させるためだ。
その試みは成功し、背中に上向きの強い圧力が加わる。
瞬時に跳ね起きた俺は【聖闘気】を発動。目の前まで迫った蝙蝠たちの一体めがけて全力で爪を振るう。
そして衝突。
『ギギッ!?』
お互いの悲鳴が錯綜し、もつれ合うようにして地を転がった。
魔翼飛行の要領を掴んだ俺は、その中でいち早く飛び起きる。
蝙蝠たちは体勢を崩したために爪を振るう事ができず、単なる体当たり攻撃にしかならなかった。
おかげでこちらのダメージは軽微だ。
一方、俺の攻撃は――手応えあり、である。
俺が繰り出した【全力ひっかき:Lv1】が偶然ながらも完璧なカウンターとなり、イビルバットの体を深々と切り裂いた。
致命傷か、そうでなくとも重傷でもはや飛べまい。
実質、一体を仕留めた。
その予想は的中し、起き上がろうとするイビルバットは二体だけ。
一体は地に伏したまま、ピクピクと痙攣しているだけだ。
これなら放置しておいても問題ないな。
速やかに判断を下した俺は次なる行動に移る。
それは追撃だ。
飛行型の敵がアウェイたる地上にいる、この好機を逃がしてはならない。
俺は残り二体のうち、手近にいる方へと飛びかかった。
「キッ!?」
ようやく起き上がり、飛び立とうとしていたイビルバットに【全力ひっかき:Lv1】を叩き込んだ。もちろん聖気付与込みで、だ。
派手に血がしぶき、イビルバットが吹き飛んで倒れた。
そしてそのまま動かなくなる。
《攻撃スキル【全力ひっかき:Lv1】がLvアップしました》
《敵対者を討伐しました。経験値51を獲得しました》
《インプ【名称未定】はLvアップしました。Lv1⇒Lv3》
《耐性スキル【物理耐性(斬):Lv1】を体得しました》
《耐性スキル【痛覚耐性:Lv1】を体得しました》
おおっ、続々とアナウンスが。
転生後の初Lvアップを噛み締めたい所だが、まだ戦闘は終わっちゃいない。
敵を全滅させてから喜ぶ事にしよう。
Lvアップ等でステータスが大きく変動した場合、作者ページの活動報告に情報を載せる予定です。
(ただし話中でステータス記載があった場合は除く)
気になる方はそちらもご一読ください。