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第九十八話 前人未到の山中(6)

第九十八話です、よろしくお願いします。


今回後半が残された四人側の話です。

これを投稿したら次話からの展開が変えられません。

結構無茶な解決方法を予定しているので、若干不安があります。

 街での散策後フェリシア・ヤコミナとは一旦別れ、零はフェリシアの家で夕食を取る事になった。だが――――。


「えっと……この食材の山は……?」

「今日の夕食」


 『夕食の材料』ではなく『夕食』その物らしい。


「あの~……そのまま? 料理とかは?」

「この大きさでそんな面倒なことをすると思う?」


 確かに妖精の大きさからすればどの食べ物も巨大であり、場合によっては食べ物の方が大きいくらいである。そんなのを料理しようと思ったら、相当な苦労になるであろう。


「それじゃあ、食べるとしましょ」

「イ……イタダキマス……」


 零は仕方なくそれらを食べることにした。

 幸い妖精もそのまま食べるような物ばかりなので、零も無調理で食べてもお腹を壊したり等はすることがなかった。




 食べ終わって少しした頃、フェリシア・ヤコミナの2人が再び現れる。

 飛んでいる2人の下には見覚えのある物がぶら下がっていた。


「ほら、持ってきたぞ」

「本来、これはフェルが運ぶべき」


 それはここに連れられる際に零の包まっていた掛け布団であった。


「あ、布団だ。持ってきてくれたの?」


 流石に大っぴらにフェリシアの前でここまで大きな物をウィルスに入れるわけには行かず、持ち運ぶには邪魔だったので置いてきた物だったが、2人が気を利かせてくれたようだった。


「そのかわり、またアレをくれよな?」

「期待している……ジュルリ」

「ハイハイ」


 前言撤回。単にクッキーが目当てなだけだったようだ。

 でも、ありがたいのには変わりがないので、零はまたコッソリとクッキーを取り出して2人に渡した。


「あ~っ! アタシのは!?」

「フェルは運んでないだろ? ……モグモグ」

「これは正当な報酬……ハグハグ」


 フェリシアは悔しそうに空中で地団駄を踏むのであった。




「ご馳走さん。……で、そろそろ水浴びしたい所なんだがなぁ」

「レイに合う水桶がない」

「う~ん、確かに……しょうがないから川にでも行く?」

「そうだな」

「というわけで、レイ発進!」

「また!?」


 零としても水浴びぐらいはしないと汗でベタベタしてくるので、川に行くのは仕方がないと思って3人の後を追っていった。




「ん~、春だからまだちょっと冷たいか?」

「でも、凍えるほどじゃないから多分平気」

「じゃあ、さっさと入りましょ」


 川に着くと、軽く水温を確かめるやいなやあっという間に妖精達は服を脱いで川岸に入った。


「うおぉ! やっぱちっとばかり冷たいな!」

「でもまあ、だいたいこんなもの」

「ほら、早くレイも!」


 ミニマムザイズとはいえ年頃の少女達に見える3人の裸を前に、零は少したじろいだ。

 だが、ここまで来ておいて汗を流さないのも嫌なので、零も服を脱いで川の中に入ることにした。


「お、レイもようやく来た……か……」

「レイおそ……い……」


 服を脱いだ零を見て、フェリシア・ヤコミナの2人は出した言葉の語尾がすぼまって行った。


「あ、あれ? ……なんかレイの股に……おかしなのが……ついてるような……」

「レイ……それ……なに……?」


 目が点になりながら2人は声を絞り出す。

 零はそれを見て「またか」と思いながら、2人に説明をしていった。


「男だったのか。驚かせるなぁ」

「その見た目で男なのはビックリ」

「僕も聞いた話なんだけど、一緒に生まれる筈だった双子の妹の姿らしいよ?」

「それはアタシも始めて聞いたわ。でもそれならその見た目も納得ね」


 多少驚かれた物の、零の容姿については納得したらしい。勿論、この事は他には話さないように言ってある。


「じゃあ、納得した所でレイも一緒に洗ってやるか」

「ん、ヒューマンの男の子は大きいけど頑張る」

「あ、アタシもやるやる!」

「えっ、ちょっと!? わあああぁぁっ!」


 零は3人に取り囲まれて洗われることとなった。

 幸いと言おうか、大きさが違いすぎる為に零にとっては洗う速度が遅く、きわどい部分等は自分で洗って済ませることができたのだった。



――――――――――――――――



 次の日の早朝、街に残された四人の内のリリアンは宿の庭に一人立っていた。

 リリアンは少しの間集中すると、手を前にサッとかざす。

 すると、リリアンのすぐ前に途中までしか無い半端なドーム状の光の壁が現れる。


「……まだこのくらいが限度ですか」


 やや落胆したようにリリアンが呟いた時、そこへ残りの3人が姿を見せた。


「おお、こんな時間から訓練とは感心じゃな」

「確か防御用の魔法の練習してたんだよね~?」

「へえ、この数日で結構出来てるじゃないのよ」

「お、お姉さま達!? なんでここに?」


 思わぬ来訪にリリアンは焦りつつ尋ねる。


「妾がたまたま窓からおぬしが歩いていくのを見たのじゃよ。何をするのか興味があったのでな」

「そしたら練習中なんだから偉いよねぇ~」

「でも、それって昨日までは平らな板状だった筈でしょ? なんでまた形を変えようとしてるのよ?」

「えっと、それはなのですね……」


 セアラの質問に、リリアンは答えを言いづらそうにしている。

 そうしていると、突然イヴァンジェリンは何かを思い出したかのように手を打った。


「おお、そう言えば。レッドバレーに向かうために障壁を張りながら進もうとしていた資料があったの」

「んなっ!」


 イヴァンジェリンの言葉を聞いてリリアンはビクッと反応を示した。


「え? じゃあ、リリアンはレイを探しに行くために練習を?」

「おぉ~、リリアンちゃんえら~い!」

「いや、あの、えっと……」


 リリアンは慌てふためきながらも否定はしなかった。


「まあ、その心持は喜ばしい事じゃ。じゃがな……」


 イヴァンジェリンは少し言いづらそうに話を続ける。


「前にも言ったが、レッドバレーは過去の王家が散々手を尽くしてもまともに入ることさえできなかった場所じゃ。障壁で自分を囲ったぐらいで入れるようであれば、既にブロッケイドまで到達しておったじゃろう」

「え、無理だったと言う事なのですか!?」


 イヴァンジェリンから語られた内容に、それを実行しようとしていたリリアンはショックを隠せなかった。


「レッドバレーで問題になるのは漂っていると思われる見えない毒。それを防ぎながら進めばよいというのは直ぐに考えつくことじゃ。じゃがの……」

「何が問題になるのですか?」

「下が真っ平らならばともかく、デコボコした地面に対して常に隙間なく障壁が作れるかの?」

「う、それは確かに厳しいのです……」


 人が障壁を想像して張る以上その形を変えることは可能だ。だが、歩きながら変化する地面の凹凸(おうとつ)に完全対応した形を想像し続けるとなると、異常なまでにその難易度は跳ね上がる。

 ならば地面に障壁を埋めればいいのかと言えば、それも否である。障壁を地面に埋めればそれが(くさび)となって、今度は障壁が動かせないのだ。


「それと、おぬしはまだ全周に障壁を張れぬから分からぬとは思うが、そうすると何故か段々と息が切れてきてその内に倒れてしまうのじゃ。そうなれば障壁も消え、毒の餌食じゃな」

「そ、それは恐ろしいのです……」


 イヴァンジェリンの知識不足でこの言い方になったが、要は毒も通さない障壁は空気の交換がないので酸欠になるのだ。


「えぇ~? これじゃダメなのぉ~?」


 リリアンが逃げ場のない場所で毒に侵されるのを想像し怯える中、フィオナはリリアンの出していた障壁にへばりついた。


「ちょっ! アンタは何をしているのですか! 維持がしにくいのです!」


 フィオナはリリアンの苦言も気にせずに、更によじ登って障壁の上からリリアンを見下ろした。


「ねぇ~、リリアンちゃん。これって息苦しくならないように出来ないのぉ~?」

「だぁ~、もうっ! そんな簡単に出来るんだったら昔の人も苦労はしてないのです! いいからさっさと降りるのです!」


 そんなリリアンとフィオナの様子を見て、セアラとイヴァンジェリンは苦笑していた。


「お姉ちゃんも自分は障壁張れないのに無理言うわよ」

「おや? 魔法が得意な割には意外じゃな?」

「お姉ちゃんは基本的に攻撃は相殺ばっかりしてたから、使わなかったのよ」

「そうじゃったか、なるほどの……ん?」


 イヴァンジェリンがセアラと会話をしていると、リリアンが障壁を上下に振ってフィオナを振り落としにかかっていた。

 イヴァンジェリンは非常識なとも思ったが、その時脳裏にあることが思い浮かんだ。


「そうじゃ。これならあるいは……」

「? イーヴァ?」

「すまぬがしばらくの間部屋にこもるのじゃ! 妾が自分から出てくるまで、部屋を開けるではないのじゃぞ!」

「え? イーヴァ!? ちょっと、どういう事よ!?」


 思い立ったイヴァンジェリンは、セアラの言葉も聞かずにすぐさま部屋に直行することにしたのだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


察しのいい人だと、この時点でイヴァンジェリンが何をしようとしているか分かるかもしれません。

フィオナの性格は、こういった事を起こさせるために設定した側面もあります。

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