第九十話 前人未到の山(3)
第九十話です。よろしくお願いします。
区切りの関係で今回も短め。(約3500字)
もうちょっとコンスタントに書けるようにしたいです。
しばらく零とリリアンが呆けていると、報告が終わったイヴァンジェリンが歩み寄ってきた。
イヴァンジェリンは零達の様子を見て、二人に話しかける。
「おお、その様子では随分と驚いたようじゃの?」
イーヴァに話しかけられて零達はようやくハッと気が付いた。
「……イーヴァ……そりゃ、二百五十億近くもの金額を見たら……普通は驚くって」
「おお、レイはあの桁の読み方を知っておるのじゃな。感心じゃ」
まだ若干放心気味の零に対して、イヴァンジェリンはどこかズレた返事を返した。
「大金貨で五万枚なんてとんでもない金額なのです! どう考えたってギルドが用意出来る金額をこえているのです!」
一方でリリアンは意外にも的を射ている話を持ち出してきた。それにはイヴァンジェリンも意外だという内心を隠しきれずにいた。
「ほう、そこに気がつくとは驚きじゃな。じゃが、心配は要らぬ。もし依頼が達成されたならば直ちにギルドから王城へと伝えられ、報酬を国庫から出す事になっておるからの」
「国庫からなのですか!?」
普段の依頼とはまるで違う流れに、リリアンは驚きの声を上げた。
「うむ、毎年国の予算からここの調査報酬の追加分を捻出しておるからの。おかげで元はもっと少額であった報酬が、約2400年間蓄積し続けながら眠っておるのじゃ」
「それで半端な数字が並んでいるのですね?」
「うむ、そうじゃ。……ちなみに、報酬を収めた金庫はそれだけ前から現役であり続けているせいもあって、城では一種の名物扱いになっておるのじゃ」
「金庫が名物って……何なのですかそれは……」
金庫に対して人だかりが出来ている様子を想像して、リリアンを始め残りの三人も苦笑するのだった。
――――――――――――――――
ギルドから離れて現在は宿の中、零は一人ベッドの上で転がっていた。
当然のようにイヴァンジェリンは最上級スウィートを頼んだ為、ベッドは天蓋付き。しかも今回はベッドの数も一つ余る程だったので、零は久々に一人でベッドを占領する事になった。
(でも、流石にこれはちょっと落ち着かないなぁ)
部屋はクローシェ達の屋敷程度の広さなのでそこは慣れてきたのだが、作りは屋敷が質素なのに対してこちらは豪奢な物だ。そんな所に一人だけでいるのは今回が始めてであり、零はソワソワとした気分であった。
(落ち着かないせいで……ちょっと……)
催してきた零は部屋の隅にある物に視線を向ける。そこには最近ようやく使い慣れてきたオマルがあった。
(この歳で毎回オマル……地球のみんなには知られたくないなぁ)
零は心の中でそう呟くと、思わずため息を洩らした。若干重い足取りで、零はオマルの方に向かう。
(確か……今はみんな出掛けてる時間だね)
そう思って、零はオマルに跨がりドロワーズの紐を解く。トランクスは最初に穿いていた一枚しか無く、見た目的にもかなり異質なものとなるので、今ではすっかりこればっかり穿く事になってしまっていた。
そして、零はドロワーズを下げてしゃがみ、汚れたりしないようにスカートを捲って用を足し始める。
「――――えっ?」
どこからともなく、そんな声が部屋に響いた気がした。
零は動くわけにも行かずに、そのままの状態でキョロキョロと辺りを見渡した。しかし、扉も開いていなければ誰も立っている訳ではない。
空耳かとも思ったが、零は少し前の音声を確認しなおす。「――――えっ?」と言う声が確かに記録されていた。
零はそこから音の方向を特定に掛かる。
(方向は……上?)
零は視線を上に向ける。すると、天井近くのなにもないはずの場所に謎の解析反応があった。
まさかと思って、零はセンサーを起動する。
すると、そこには街に入る直前に見た妖精らしき者が浮かんでいるのが見えた。
「え、キミは……」
零は思わず指を指した。
「うわ、見つかっちゃった!?」
バレたと分かったのか妖精らしき者は声をあげた。
「えっと、その髪や服装からして看板の上にいた子だよね?」
「やっぱりアタシが見えてるんだ! ちゃんと姿を隠してる筈なのに!?」
零が姿まで判断出来ていると分かって、妖精らしき者は興奮をし始める。
「ねえ、どうしてアタシが見えるの!? こうやって隠れてる間は誰からも見えないはずなのに!」
「聞いてどうするの?」
零はアタフタと用を足し終えて、服を元に戻しながら聞き返した。
「それは対策をするに決まってるじゃない。バレたらイタズラなんて出来ないんだから」
「……そういえばあの時も何かの袋を盗んでたよね?」
悪びれずに言い切るのを聞いて、零はジト目で見つめ返した。
「盗んだなんて妖精聞きの悪い。もうちょっとしたら元に戻すつもりだったんだから」
「あ、やっぱり妖精なんだ」
「それなのに突然火の魔法かなにか?をアタシに向けてきて……熱くて腕が赤くなっちゃったじゃない!」
「いや、殆ど自業自得でしょ。こっちも先に進まなくて迷惑だったし」
怒った妖精が確かに赤くなっている細い腕を差し出すが、零は冷淡に言い返した。
だが、腕に赤く痕が残っているのは零の予想外であった。熱いと思わせるだけが目的だったのだから。
そこに引け目を感じた零は、妖精に向かって言う。
「……まあ、こっちもそこまでする筈じゃなかったから……ちょっとこっちに来て?」
「嫌。どうせアタシを捕まえるつもりじゃないの?」
「違うよ、腕をもっとよく診せて欲しいだけ」
「……う~ん」
零の要求に妖精は若干悩みながらも、恐る恐る近づいて来てくれた。
零は妖精が近づいてくると、素早くだが優しく腕を摘んだ。
だが、妖精の方はその動作を捕まえられたと思ってジタバタと暴れだす。
「あっ! この! 嘘つき! は~な~せ~っ!!」
「うわっ……とと」
零は妖精が暴れたままでは治せないと思い、なにか無いかと考える。零は妖精が暴れている間に、もう片手でコッソリとウィルスの口からあるものを取り出し、包み紙を少し解いた。
「ちょっと落ち着いて。ほら、これあげるから」
「放せったら~っ! って……なに? その四角いの」
「はい、ちゃんと持って」
「ん~? ふんわりとした香ばしくて甘い匂い……これって食べ物?」
「そうだよ」
零は妖精がクッキーの匂いに気を取られている最中に、プログラムを開始して腕の治療をする。幸い腕が人に比べてとても細かったおかげであっという間に赤みは消えていった。
「……変なものを入れたりしてない?」
「してないよ。その気がない証拠に自分の腕をもう一度見て?」
「腕を――――あれ? 赤くない! ヒリヒリしない! 治ってる!」
「さっきそれに気を取られてる間に治したんだ。捕まえたりする気があればその間にそうしてるよ」
「へぇ~! わぁ~! 凄い! こんな小さな男の子なのに回復魔法が使えるなんて――――」
妖精が何気なくそう言い放った次の瞬間、その場の空気が凍った。
「――――えっ? 男の子?」
「――――あれ? 男の子?」
零はダラダラと冷や汗をかきながら、妖精は信じられない物を見たかのようにして互いを見つめ合った。
「あれ~っ!? そういえばどうして男の子が魔法を使ってるの!? さっきのは見間違い!?」
(し、下まで全部見られてた!?)
零はオマルの前方の目隠しで下半身が隠れてると思ったが、どうやら違っていたらしい。
妖精はもう一度中身を確かめようと、クッキーを片手に抱えながら零の下半身に向かって飛び込もうとする。
「わっ! ちょっと、やめ……わぁ~っ!!」
零は慌てる余りに偽装という手も忘れて慌てて避けようとする。
しかし、足元にオマルがあるのを忘れて動いたため、不幸中の幸いとしてそれをひっくり返すことはなかったが盛大に転んでしまい、最終的に妖精の服の外からの確認を許してしまった。
「やっぱり男の子! ねえ、どうして魔法が使えるの!?」
「……お願いだから、誰にも言わないでぇ~!」
興奮しながら零の下半身に乗っている妖精に零は泣きそうな声で懇願した。実際、死活問題になりかねないのだ。
妖精はニンマリと笑みを浮かべながら「どうしようかな~」とつぶやく。
「ここにいる間、好きな時にそれをあげるから……」
「ん~。じゃあ、これが美味しかったらそれで手を打ってあげる」
妖精はそう言いながら、クッキーに齧りつこうとする……が、少し解いた包み紙を齧ってしまった。
「ペッペッ、マズイじゃない!」
「いや、それ包み紙だから」
零がそう突っ込むと、妖精は恥ずかしさからか顔を赤くした。
「わ、分かってるから。冗談だから」
そう言いながら包み紙を外して、こんどこそクッキーに齧りついた。
「ふにゃ~、おいし~っ!」
妖精は緩みきった顔でクッキーを食べ始めた。
どうやら、既の所で零の秘密は守られたようであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
油断していた零でした。
妖精の出した条件がゆるいのは、あくまでイタズラがしたいだけだからです。




