第八十九話 前人未到の山(2)
第八十九話です。よろしくお願いします。
済みません、盆の支度等で時間が取りにくく今回は短めです。(約3000字)
零は馬車の列が動き出し始めたのを確認して、乗っている馬車が動き始める前に中へと退散した。
「どうやら列が動き出した様じゃな」
「長かったねぇ~」
「前で何かあったりでもしたのですかね?」
「レイは上で周りを見てた筈だし聞いてみましょ」
零が中に入ると丁度そんな会話がされている最中だった。
「ただいま。聞こえてたけど、僕もその事で話があったんだ」
「ふむ、なんじゃ?」
「先ずは聞きたい事なんだけど……背中に翅の生えた、これくらいの人型の生き物って知ってる?」
零は両手で身長を表しながら質問をした。
「それなら、妖精がそうじゃな。最も、想像で書かれた事しか妾も知らないのじゃが」
「確か遊ぶのが大好きなんだよねぇ~?」
「ただ、それが人の迷惑になる場合もあるとか聞いた事があるのです」
「そういえば、私達はそういうのに遭ったことはないけど、この街は妖精の悪戯と思われる事がよく起きると聞いたわよ」
四人から話を聞いて零はほぼ確信した。
「妖精……じゃあ、やっぱりあの飛んでいったのが……」
零がそう呟くと、ほぼみんなが驚いた表情で零に聞き返した。
「!? レイ、お主……妖精を見たのかの!?」
「妖精さん!? ねえねえ、どんな子だったのぉ~!?」
「お姉ちゃん、落ち着いて。……でも、それは私も興味があるわよ」
ただ、そんな中で一人疑わしそうにしているリリアンが零に確認する。
「さすがに見間違いではないのですか? 妖精は余程ではない限り姿を見せないらしいのです」
「いや、それがね……」
零は馬車の列が止まっていた理由とその原因をみんなに説明していった。
「――――というわけで、袋を手から滑り落としてくれなかったら、まだ列は進み出さなかったと思うよ?」
「妖精の悪戯、ですか~。レイに見つかるなんて、とんだマヌケな妖精もいたものなのですね~」
零の言うことを話半分で聞いたリリアンが、ハイハイと呆れたような反応を見せた。
それに零はちょっとムッとした。
「嘘じゃないって。何なら門の人に確認すれば? 僕の言った通りの事が起こってるから」
「聞くだけは聞いてやるのです。でも、それで妖精がいた証拠にはならないのです~」
リリアンの態度に零はイラッと来たが、リリアンの言うことも尤もなのでそれ以上は言えなかった。
「別にリリアンは信じないでもいいわよ。ねえレイ、それで見た妖精はどんな姿だったのよ?」
「フィーにも教えてぇ~!」
「言葉だけでは伝わらぬ部分もあるからの……ちょっとこれに書いてみて貰えぬかの?」
イヴァンジェリンはカバンから筆記用具を一式出して零に渡した。
零はそれを使って全身像を描き出していった。
イヴァンジェリンは描き出されていく絵の精緻さに目を見張った。
「これはすごいの……レイが良ければ妾が料理人兼画家として推薦するのじゃが……」
「う~ん、やっぱり僕にはちょっと」
「……じゃよね」
半ば分かっていた零の返事だったが、イヴァンジェリンはションボリとうなだれるのだった。
――――――――――――――――
門を通った後、現在は街の中を歩いてここのギルドの建物を目指している。
フィオナは零の描いた妖精の絵を広げながらご満悦の様子だ。
「妖精さん、可愛い~ねぇ~!」
「お姉ちゃん、前を見ないと危ないわよ?」
セアラがフィオナを引っ張り誘導している姿を見て、すれ違う人々からは軽く笑われてしまっていた。
「ちと視線が痛いの~」
「はあ……あのお馬鹿のせいでこっちまで恥ずかしいのです」
「あはは……なんかゴメン」
もっとザックリと描けば良かったかなと零は謝った。
「と、ところで、これから見に行く依頼書なのですが、一体いつ頃からある物なのか分かったりするのですか?」
視線を意識しないようにとリリアンが話を振った。
イヴァンジェリンがそれに答える。
「そうじゃな、王家が撤退した直後からあるとなると……およそ2400年は前じゃな」
「うわっ、そんなに前!?」
地球で言う紀元前に当たる程なので、そこまで古い物なのかと言う思いと、それ以前から国やギルドが存続し続けているという言外の事実で、二重に零は驚く。
「かなり前なのですね。……あれ? でも、そうすると依頼は誰が出し続けているのですか? そんな長生きな人は聞いたことが無いのです」
新たに湧いた疑問にリリアンは首を傾げる。
イヴァンジェリンは周りに聞こえない程度に声を抑えて説明する。
「実はそれも王家じゃ。撤退したとはいえ国として全くの無対策では格好が付かぬのが大きな理由じゃ。……一応、ここまで危険な場所じゃと伝え続けて被害を減らす目的もあるらしいのじゃが、それでも毎年無謀な者が被害に遭っておる様じゃな」
スラスラと内情まで説明するイヴァンジェリンに、リリアンは関心を向ける。
「……よくそこまで知っているのですね?」
「谷ごと閉鎖するべきじゃとか、街の存続はどうする気じゃとか、ここの話題は城でもよくあがりやすいのじゃ」
「そうなのですか」
リリアンは一応納得する。
そして、そうこう雑談をしている間に一行はギルドまでたどり付いた。
「妾はちょっと報告をしに行くのじゃ」
ギルドに着いてすぐ、イヴァンジェリンは一人報告のために受付まで行ってしまった。
それを待っている間に四人は例の依頼書を見に行くことにした。
「それで、どこにその依頼書があるの?」
零は依頼書が貼られているボードを見回すが、それらしい物は見当たらなかった。
「レイ、違うわよ。そっちじゃなくて、あっちよ」
セアラに両脇の下を持って持ち上げられて、零は強制的に向きを変えられる。
プラーンと足を揺らしながらセアラに示された方を見ると、そこには額に入って一枚だけ依頼書が飾られていた。
「あ、完全に別枠扱いなんだ。どれどれ……」
依頼の内容は先に聞いての通りレッドバレー及びブロッケイドの調査。依頼主もこの国アナスタシア王国となっている。そして成功報酬は――――
「――――ん?」
目がおかしくなったかと零は目をこすり依頼書を見なおした。しかし、やはり見える金額は一緒の物であった。
「……あの金額……何かの冗談?」
「前より増えてるけど、あれで合ってるわよ」
「お、お姉さま……私には数えられない……金額なのですが……」
「フィーにも数えられないよぉ~」
「お姉ちゃんは100も難しいでしょ? ……まあ、あれは私も数え方を知らないけど」
零は驚愕の表情のまま、その金額を一の位から辿っていく。
「一、十、百、千、万、十万、百万、千万……一億……十億……百億…………に、二百四十九億三千万エルム!?」
日本円にしてもうすぐで五百億円に届こうとしている金額に、零は思わず大声を上げた。
周りは一度零の方を向いたが、またかといった様子ですぐに普段通りに戻った。
「へぇ~、あの位はそう言うの。勉強になったわよ」
「えっとぉ~、に、にぃ~、に?」
既に以前驚いてしまっているセアラは、桁の言い方が分かってすっきりしていた。
フィオナは復唱しようと思ったようだが覚えられなかったようだ。
「レイ、数字が大きすぎて価値がよく分からないのです」
リリアンは言い方が分かったようだが、いまいちピンときていないらしい。
零はリリアンに分かりやすく説明をする。
「そうだね……大金貨で言うと五万枚近く……」
「大金貨で五万枚!? 物凄すぎるのです!?」
リリアンの声のせいで再び注目を浴びる中、零とリリアンはポカンと大口を開けて固まるのであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
実は報酬金額を決めるときにも意外と時間を取られています。
危険とはいえ、調査のみでここまでの高額、かつ半端な金額の理由は次回で。




