第三十八話 再会(7)
第三十八話です。よろしくお願いします。
説明回的な部分が続いてすみません。
あと、今回は糖分多め(作者比)なのでご注意。
ディエウスとの通信が切れて1時間程立った頃、零はぼんやりと意識を取り戻した。
(……ん……あれ? なんだろう? 柔らかくて、暖かい……)
後頭部への感触を認識すると、今度は髪にポフポフと撫でるように小気味良く触れる何かを感じた。
(なんだか気持ちいいや……でも……一体なんだろう?)
その心地よさに零は思わずそのまま眠りそうになったが、少し堪えて未だに閉じていた目をうっすらと開ける。
(人影?)
横から覗きこむようにしていたその影は、零が薄目を開いた事に気がついたのかビクッと震えてその身を硬直させた。
それと同時に零の頭が軽く揺さぶられ、意識が覚醒して目が覚めた。
零の目に写ったのは布を押し上げる程よい大きさの二つ並んだ山と、喜びと恥じらいが混ざり徐々に紅潮していく白髪赤眼の少女の顔。
「――ディア? あれ?」
零は脳内で今の状況を整理する。
――何故自分は仰向けに寝ているのか、何故ディアを見上げているのか、何故ディアがこんなに近いのか、何故ディアが顔を赤くしているのか、何故後頭部に幸福を感じるのか、これではまるで――
状況を理解した零は急いで頭を持ち上げようとする。
だが、零が動く前に限界へと達したディアが、顔を見られたくないのか手のひらで零の目を覆い隠した。
「ち、ちち、違うんです、違うんです! これは気がついたらこうなってただけで、無理やり乗せた訳じゃないんです!」
ディアは混乱しているのか、言い訳じみた説明をしながら零の頭ををグイグイと自分の太ももに押し付けた。
「ディア! 落ち、落ち着いて! こ、これじゃ起き上がれないって!」
零は後頭部の感触を更に強く感じながら、ディアを宥めた。
「――じゃあ、あの時に二人とも気絶しちゃったんだ」
「は、はい。……お、思い出しただけでも恥ずかし過ぎます」
二人は告白を親の前でしてしまった事までを思い出し、赤面していた。
「ディエウスも人が悪ずぎます……逃げ場をなくして告白させるなんて……」
ディエウスからのメッセージを見ながらディアは愚痴を漏らす。
メッセージには「からかった詫びといいもん見せてくれた礼に、俺が代わりに報告しとくわ。それと、あいつは俺が黙らせる。嫌とは言わせん」と書かれていた。
(ディエウス……これは借りじゃありませんよ! 絶~っ対に、借りじゃありませんから!)
ディアは心の中でそう強く思った。
「それにしても、本当に僕でいいの? 僕ってディアも言っての通り、ほとんど妹の姿だよ? しかも、口約束とはいえ婚約者までいるし……」
零は改めてディアに問いかける。
「は、はい! そんなレイだからこそいいんです! 私だけじゃないのはちょっぴり残念ですけど。……むしろ、レイの方は私でいいんですか? 自分で言うのもなんですが……可愛い子にしか目が行かないような女ですよ?」
ディアは恥ずかしがりながらも返事をして、逆に零にも問いかけた。
「そこは僕にとっては嬉しいぐらいだよ。恥ずかしさが無くなっても、普通の恋愛とかは出来ないんじゃないかと思ってたし」
「わ、私も……この趣味のせいで諦めてましたから……。レイが男だって分かった時、びっくりしましたがそれ以上に嬉しかったんですよ? ひょっとしたらこんな私にもって……」
「ディアも悩んでたんだね……」
「はい、……でも今はレイが居ますから」
「うん。僕もディアが居るから」
「改めて、よろしくお願いします」
「うん。よろしくね、ディア」
二人はお互いに手を取り合った。
そして、どちらからとも無く顔を近づけ――そこで時計から音がなりだした。
ディアは少々恨めしげに時計を見る。零はその様子を見て笑みを漏らした。
だが、ディアが時間を確認すると少し慌て出した。
「ちょっとまずいです……気絶していたせいで、フィオナさんとセアラさんに言った時間までそんなに余裕がありません」
「もうそんな時間?」
「急いで残りの結果を見ます。集中しますから、暫く待ってて下さい」
「うん。分かった」
それからディアは途轍もない勢いで画面を切り替えて確認作業を進めていく。
そして、ディアは三分弱で膨大な量のデータを全て読みきった。
「ふぅ~、終わりましたぁ~。では、気になる点だけ説明しますね」
「あ、まだあるんだ」
「まずはウィルスの状態についてです。レイに同化しているのは先に言ったように偵察用のものですが、それが更に先日のウィルスを解析・記録した状態になっています」
「この前のウィルスそのものじゃないんだね?」
「はい。そのおかげで零としては安全に使えるようですね。……というよりも思いっきり使ってますね? 改造した痕跡が幾つもありますよ」
「えっと、ごめんなさい……」
「まあ、この程度なら周囲への影響も含めて特に問題ではありません。あとは……元のウィルスが向こうの世界で使う事を想定していたせいか、こちらにしか無い物に対応してませんね……これについては……ちょっと失礼します」
ディアは零の方へ手を伸ばして頭に手をかざす。
だがその時、零の頭に弾かれるような抵抗感が生じた。
「あの……できるだけ力を抜いて下さい」
「どうしたの?」
「魔法の作用と理術の作用が似ているから起こるのですが……レイに取り込まれた魔力子が先に身体を少しとはいえ強化しているせいで、体に作用する理術が阻害されてしまうんです。無意識下のことなので難しいとは思いますが、できるだけ力を抜いて欲しいのですが……」
以前に零がフィオナの痛覚を取ろうとして失敗したのはこのせいである。
「体を強化? 確かに地球に居るより少し力が上ったとは思ったけど。それより、そう言われても今でも別に力はいれてないからねぇ……」
ディアは「ダメですか……」と呟くと、意を決したような表情になる。
ディアは零の頭を引き寄せ上に向ける。
そして、自分は顔を下に向けてそのまま唇同士を合わせた。
零は驚いて体を硬直させたが、ディアの唇の感触を感じて少しずつ解きほぐされていった。
その時、零の頭に少しモヤモヤと違和感があったのだが、キスの方が衝撃的過ぎて殆ど気にはならなかった。
「――ぷはっ! ディ、ディア!?」
「そ、その……先ほど止めてしまったのが残念だったので……つい。……でも、力は抜けましたよね? ……ダメでした?」
「ダメじゃないよ! ただ……ちょっとびっくりしたけど」
言い終わってから、お互い初めてのキスをしたことの恥ずかしさがこみ上げてきて、僅かながら無言になった。
「と、ところでさっきのは何をしようとしたの?」
「は、はい。レイにとって完全に未知の物でも解析をするように変更しました。先ほど言った魔力子や他の物もこれで判るはずですよ」
「え? 嬉しいのは確かだけど……いいの?」
「はい。レイはあの場所で暮らすんですよね? 周りに魔法や魔術が存在する以上、安全に暮らすにはそれを知っておいた方がいいですし」
「それならいいや。ディア、ありがとう」
零の感謝の言葉でディアはついつい頬をゆるめた。
「で、では次ですね。これは私が転移を失敗した事に関わりますが……レイが特異点になって、レイを中心に周りの空間がすり鉢状に歪んでいるようです」
「空間が歪んでる?」
零は周囲をキョロキョロと見回す。
だが、どう見ても今いる部屋は正確な直方体にしか見えない。
「多分レイには確認出来ませんよ? レイのいる空間の外から観測しないと分からないですから」
「どういうこと?」
「そうですね……例えば、レイが定規を持ってるとします。でもその定規も周りの物も空間の歪みに合わせて歪んでしまいます。そのせいで縮んでいる部分で測っても10cmのものは10cmですし、逆に間延びした所で測っても10cmのものは10cmで測れてしまいます。なので、同じ空間内では歪みを認識出来ないんです」
「う~ん、分かったような……」
「まあ、深く考えなくてもいいですよ? レイの動きには支障は無ありませんから。それより問題なのは外から干渉する場合――その空間へ転移する場合は影響を受けることです」
「失敗はそのせいなの?」
「はい。強制的に目標よりレイの近くに引き寄せられますし、強制的に向きが変わってしまいます。レイと一緒に転移する場合は、転移後から歪むので問題はないようです」
「確かあの場所には空間魔法か魔術は珍しいけどあるって聞いたんだけど……突然僕の近くに何かが届いたりするの?」
「それはまず無いと思います。星一つ分の距離程の落差では気づかない程度の影響しか出ませんし。この世界に他の星に人は居ませんから。影響があるのは長距離を転移する私ぐらいです」
「何気に困らない? それ」
「そうですね、今朝もレイにぶつかっちゃいましたし……。対策とはいえませんが、出来そうな事は――これぐらいでしょうか?」
そう言ってディアは再び零の頭を引き寄せる。
今度は目の部分に手を当てたり耳をいじられたりしたぐらいであった。
零も今度はディアに身を任せてそれを受け入れた。
「これで零の視覚や聴覚に干渉できます。後は転移用の目印としてマーカーも着けました。他へぶつからないように転移前は周りを確認しますね」
「これで被害は最小限――ってちょっと待って! 僕のプライバシーは!?」
「プライバ――――あっ!」
どうやら、ディアは今ようやくその事に気がついたようだった。
「ダ、ダイジョウブデスヨ? テンイマエニシカツカワナイデスヨ?」
「ちょっと? 不安しか無いんだけど?」
明らかに挙動不審に陥るディアを見て、零は藪蛇だったと後悔する。
「見るよね? まず間違いなく見ようとしてるよね?」
「な、なんで分かったんですか!?」
「バレないと思う方が不思議だよ!?」
零がツッコミを入れると、ディアは涙ながらに零に迫ってくる。
「そんなぁ~、見せてくださいよぉ~っ! この仕事は普段周りに人が居ないせいでハッキリ言って寂しいんですよぉ~っ!」
「いくら付き合うと言っても、さすがに勝手に見られるのはちょっと!?」
しかし、実は一人で居ることに余程こたえるのか尚もディアは食い下がり、零に抱きつきながら泣いている。
「見る前には必ず声を掛けますから、見てほしくない時は言ってもらえばすぐに中断しますからぁ~っ!」
「分~かった、分かったから! 見てもいいから!」
抱きつかれた零は色々と当たる物の感触に恥ずかしくなり、折れることになった。
だが、さすがにそのままの条件ではない。
「……本当ですか? 本当に本当なんですか?」
ディアは一旦離れて零の目を見て再確認する。
「でもそうだね……僕にもディアの方を見せて! 条件は同じで、見る前に声を掛けて、見られたくない場合はすぐに止めるということで!」
「は、はい! 大丈夫です!」
「それに……これなら好きなときに会話が出来るでしょ?」
「――っ!! はい!! ありがとうございます!!」
ディアは感極まって零を再び抱きしめた。
そして、ひと通り抱きついて少し落ち着きを取り戻すと、いそいそと零との視聴覚干渉の準備をするのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
起きてみたら膝枕。
零のラッキースケベは基本受動的になるようにしています。
他の作品だと扉を開けたらそこに~等の能動的なものが多いので、自分としての明確な違いをつけようとしてやっています。
今回ディアとの会話がかなり苦労しました。
正直な所、自分で書いておきながら恥ずかしいわ、それでいて話をうまく繋げないといけないわ……。
暴走してなきゃいいんですが……。




