第二十話 脅威との遭遇(2)
第二十話です。よろしくお願いします。
サブタイトルですが、別の意味での脅威が……。
後は読んで下さい。
修正はGWになるまで出来ませんね……。
一話から二十話までを改稿しました。('15.05.03)
話の内容が変わっている訳ではありませんが、気づいた部分の誤字修正や表現の変更を主に行いました。
そして、修正予定だったエリン・アビー・アリスン・イーディスの名前の追加をしました。
また、ウィルスで使用するエネルギーをマナに、人名のキャスリンをセアラに変えています。ご了承願います。
零が暫く街道を爆走していると、遠目に小さな点がチラホラと見え始める。
零は速度を大きく緩めて、両目の前の光を操作した。昨夜作っておいたうちの一つ、望遠プログラムだ。
そのまま点の方を見ると、そこには13・14歳位と思われる少女たちが歩いていた。
手には零も受け取った地図が見える。目的は零と同じなのだろう。
零は一度立ち止まり身体強化をやめ、太刀と脇差しを取り出し身に付ける。そして、追い付くまで普通の速度で走っていった。
零は地図を持った最後尾の娘に近づいていく。
その子の方も走り寄って来る零に気付いたようで、後ろを振り返る。
その子は黒髪黒目で気が強そうな顔立ちの、零より僅かに背が高いハーフリングの娘だった。黒髪黒目は零以外にも居るのではあるが、零が見かけたのはこの世界に来てから三人目だ。
零はその娘に確認のために話しかける。
「ごめん、ちょっと聞きたいんだけど。ギルドでシモンの実の採取って受けてる?」
「受けてるけど?」
「良かったぁ」
零が追いついた事に安堵していると、当然の質問をされる。
「ところで、アンタは誰!? 私に何の用があるわけ!?」
「あ、僕は零。昨日ギルドに登録したばかりなんだ。門で出遅れたのを知って急いできたんだけど、追いつけたかが知りたかったんだ」
「ふぅん、新人ね。なら、もっと早くからにしなさい。この時間じゃめぼしい場所は取られてるわ」
ハーフリングの娘はどうやらこの依頼には慣れているようで、零に忠告をしてきた。
「やっぱり? ……って、あれ? でも、それが分かってるなら、なんでまだここに?」
「ふふん! 穴場があるのよ! 余り知られないようにわざと遅れて来たのよ!」
そう言って胸を張るハーフリングの娘だったが、ハッキリ言って何も無い。服のシワも伸びて直接形が浮かぶものの、壁を強調しているだけであった。
見ていた零は若干気まずくなり、本人がその事に気がつく前に話を進めることにした。
「あー、えっと。それを僕に言って良いの?」
「絶対ダメなわけじゃないし、いいわよ。第一、今この辺歩いてるのはそこが目当てよ。それに――」
ハーフリングの娘は一旦声を切って、ない胸の前で拳を握る。
「私は五日後には、晴れて下級になれるのよ! これからは他の依頼でガンガン稼いでやるわよ!」
零はその嬉しそうな様子を見て、その場のノリで拍手を送ってみた。
ハーフリングの娘は少し照れながらも、嬉しそうにしている。
「ありがと。だからまあ、初級卒業の記念に分からないことは私が教えてあげてもいいわよ」
「本当? ありがとう。えっと……」
「リリアンよ。よろしくね、レイ」
「よろしく、リリアン先輩」
おそらく本来は零の方が年上であるはずだが、零はこう呼んだ方が喜ぶと思った。そして、その予想通りにリリアンは「任せなさい!」と張り切っていた。
零はリリアンに質問をしながら森を目指していた。
「ふーん、森の外周部は魔物は殆ど出ないんだ」
「出ても年に数回ぐらいよ。もし出たとしてもギルド員が倒しちゃうし、そんなに装備を固めなくても平気よ?」
そういうリリアンの装備は短剣一本と、普通の服に厚めのローブを羽織っているぐらいだ。
零がさすがに軽装過ぎないかと思っていると、リリアンが言葉を続ける。
「ってゆうか、なんでそんな装備を持ってるのよ? 武器の方は見たこと無いから分からないけど、子供用とはいえ防具の方だけでも私が買い換える予定の物ぐらいの品質はあるじゃない。登録したてでそれだけって、まさか貴族や金持ちだったりするわけ?」
どうやら軽装なのは金銭的な問題らしかった。まあ、報酬が低いのでしょうがない所もあるのだろう。
その代わり安全が確保されているので、初級の間に少しづつ装備を買うお金を貯めていくようだった。
零はリリアンの質問に答える。
「ううん、違うよ。親代わりの人が装備を取り扱ってて、これらを貰えたんだ」
零は実際に貰ったのは防具だけと言うことは黙っておいた。
「なんか狡くない? うぅぅ、でもお姉さまの家もそうだった……」
「お姉さま?」
ニュアンスからするとリリアンの実の姉では無さそうなので、零は気になった。
「私の憧れの人よ! 格好いいのに可憐でスタイルも良くて、しかも強いんだから!」
リリアンの声に力が入る。それだけ憧れが強いようだった。
「今日この依頼を受けたのも、お姉さまに会える気がしたからなの! ああ、お姉さま、早くお会いしたいです……」
――訂正、憧れ以外の何かが多分に混ざっているようだった。
零はこの人と付き合って大丈夫かと不安になり始めていた。
零とリリアンの二人は森の近くまで来ていた。
エイベルの説明の通り、森の近くには動きやすくなっている制服に金属鎧を身につけたギルド員が立っていた。
しかし、森の見える範囲を見渡しても実をつけている木は見当たらない。
穴場じゃなかったのかと零が疑問に思っていると、それを察したリリアンが説明をする。
「どう? 一見するとシモンの木が無いように見えるでしょ? でも実は手前の木が邪魔でうまい具合に隠れてるだけで、森に一歩入ればシモンの木が沢山生えてるの」
確かに木の実が外周部で手に入ると聞けば、零のように外から見て判断する事が多くここは見つかりづらい。
そして、危険度も木の一・二本分余計に中に入るぐらいなので、さほど変わる訳ではない。まさに採取に適した穴場だった。
「じゃあ、さっそく――」
リリアンが零を森の中に促そうとして突然言葉を切った。
「ごめん、ちょっとそこで待ってて」
リリアンはそう言い残して足早に森の中に入ってしまう。突然の謎行動に零は呆然と立ち尽くした。
少しの間森の方を見てリリアンを待っていると、零の後方から足音が聞こえ始める。
零が後ろを振り返ると、金属鎧を身に付けた一人の女性が零に向かって走ってきている所だった。
零がその女性の姿をハッキリと確認できた時、零は思わずその場から逃げ出した。
何故逃げるのかと言えば、その女性が零にとって色んな意味で会いたくなかった人物でもあり、この世界でただ一人の一度は忘れていた人物でもある。
そう、零に迫ってくるその女性は滝壺で偶然裸を見てしまい、零の記憶を蹴り飛ばした張本人だったのである。
「あっ、そこの黒髪の子、ちょっと待ちなさい!」
「うわあぁあぁぁぁぁっ!」
女性は停止を求めるが、零としては何をされるか分かったものではない。一先ず身を隠そうと森の方に走って逃げる。
零が段々森に近づいていき森に差し掛かろうとしたその時、森の方から人影が飛び出し零の横を素通りしていった。
飛び出していった人影は迫ってくる女性の方に駆けて行き――
「おっ姉さま~~~~~~!!」
大声で叫びながら嬉々とした表情で女性に飛びかかっていった。その人影はリリアンであった。
「ええっ、リ、リリアン!?」
不意を突かれた女性はリリアンを避けられずそのまま抱きつかれてしまい、その勢いで倒れこんでしまう。
零は何が起こっているのか整理ができず、その光景を呆然と見ることしか出来なかった。
女性はヒューマンであった。意思の強そうな水色の目を持ちながらやや幼さの残る顔立ちで、水色の髪はやや上向きの腰までのボリュームのあるツインテールになっている。背は女性にしては高めで、零より頭一つ半以上は上で手足はスラッと長いため、格好良くも可愛くもあるのは頷ける。
しかし、彼女にはそれら以上の文字通り大きな特徴があった。
彼女の胸は常人とはかけ離れて大きく、鎧の上から見えるそれは誇張する事なく彼女の頭の大きさに勝るとも劣らない程であった。
しかも、その大きさにも関わらず体とのバランスとなぜか合っているとしか思えない上、それでいて重力を真っ向から否定するかのように、倒れた状態ですら型崩れを起こさない代物であり、同姓から見ても嫌でも目を引いてしまうのは間違いなかった。
リリアンはその女性に抱きついたまま激しく頬ずりを始めた。
「お姉さま、お姉さま、お姉さま、お姉さま! お姉さまが出かけて数日、リリアンは寂しかったのですよ!? 私はいつだってお姉さまと一緒に居たいのに!」
「ひいいぃぃぃぃっ!!」
抱きつかれた女性はリリアンの言動に悲鳴を上げ、恐怖で顔が引き攣っている。
そんな彼女の様子を気にしないまま、リリアンの行動はエスカレートしていく。
「こんな寂しさを感じないようにするには、私とお姉さまにもっとも~っと密接な繋がりが必要なのです!」
「~~~~~~っ!!」
リリアンは今度は全身を女性に擦り付け始める。
女性の方はまともな声も出なくなってしまっていた。
「それではお姉さま、私に体を委ねて――。」
リリアンが女性の胸に向かって手を伸ばしていく。
その時、零にはどこかでプチンと音が鳴ったような気がした。
「……っの……」
「へ?」
女性の声が漏れだし、それを聞いたリリアンが間の抜けた反応をする。その時、女性の右腕の輪郭がぶれて――
「……こっの、ヘンタイィィィィイィィィィッ!!」
「きゃあぁぁぁあん!!」
裂帛の声とともにリリアンの腹へ、ガントレット込の拳が炸裂する。
リリアンはそのまま放物線を描き、数m先の地面へと墜落した。
女性は起き上がるが、息を乱して涙目になり、怯えたように震えていた。
女性がふっ飛ばしたリリアンを怯えたまま見つめていると、リリアンがお腹を抑え苦しそうにしながらも上半身をを女性に向ける。
女性はリリアンが動いたのを見て、慌てて零の背後にまわって盾にした。
「……さ、さすがです、お姉さま……」
リリアンはそう呟いたのを最後にその場に倒れこんだ。
「……えっと、これはいったい?」
零は女性に恐る恐る聞いてみた。
「以前、あの子――リリアンが魔物に襲われていたのを助けたことがあったんだけど、それ以来付き纏われちゃって……。合うたびにいやらしい事をしてくるわ、家を調べられて水浴び中に乗り込んでくるわで……」
「うわぁ……、それはまた厄介な」
零には完全にレズで変態なストーカーとしか思えなかった。零も地球に居た時に変質者と出くわしているので他人ごととは思えなかった。
「そういえば、なんで僕をみて走ってきたの?」
「そうだったわ。あなたは滝壺で私が蹴っちゃった子ね?」
「は、はい」
零はその事で何かされるのでは無いかと思っていた。零は覚悟を決めていたが――。
「その、ごめんなさい! 人違いで蹴っちゃって!」
女性から出てきたのは謝罪の言葉だった。
「人違い、ですか?」
「しかも、いくら黒髪黒目とはいえ、よりにもよってあの子と間違えるなんて……」
そう言って示された先に居たのはリリアンであった。零はこれが元凶かとつい睨みつけていた。
「あの後はどうなったの? 何か無くした物でもあったらちゃんと弁償するわ!」
「……特に無いから大丈夫ですよ」
零は少し悩んだが記憶については黙ることにした。
「そう? でも……」
「いいですって。それより、あっちはどうしましょう?」
零はリリアンを指さした。敬う気持ちは完全に失せている。
「一先ずギルド員に引き渡しましょう。私とあの子の事は、恥ずかしい話だけどギルド中に知られてるからすぐ分かってくれるわ」
「依頼はその後のほうが良さそうだね」
「依頼の最中だったの? それなら迷惑かけたお詫びにお手伝いするわ」
「でも、元凶はあっちですよ?」
「いいわよ、少しは何かしないと私の気が晴れないわ」
「分かりました。じゃあ、お願いします。えっと……」
「私はセアラ。呼ぶ時はサラで、言葉も普通でいいわよ」
「分かった。僕は零。よろしくね、サラ」
二人は依頼を安心して始めるため、気絶したリリアンを引き渡しに行った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
リリアンを暴走させすぎたかな?
零の先輩キャラと思いきやセアラにとっての脅威です。
胸囲との(再)遭遇。
ただの冗談です、石を投げないで下さい。
リリアンの方も含めてサブタイトルの脅威ではありませんので、もう少しお待ち下さい。
展開が受け入れられるかどうか。
うぅ、今からでも緊張する。